第8話 霊魂と帝
そんなまさか…ここは宮廷…悪霊なんか要るわけがない…
でも…そんなこと言いきれる?
ここに来てから、霊魂を一つも見てない。
前世も今世も、街中でも神社でも、霊魂は普通に飛んでいて、意識しなくても見つけることができるのに…
その理由が宮廷という場所だから…とか、除霊したから…というわけでなければ…ここに霊魂がないのは別の理由、それも最悪の理由。
霊魂も近づけないほどの悪霊が、ここにいるということだ。
そう思っていると、ふすまがスパンと開く音が聞こえ
「待たせたな」
そのあとに、帝と思わしき人の声が耳に届いた。
直後、私が抱いていた違和感は気のせいではないことがはっきりとわかった。
几帳越しとはいえ昼間。
普通なら几帳から人影程度のものは見えるはずなのに、全く見えません。
それもそもはず、さっきまで日の光が母屋に差し込んでいたはずなのに、帝がふすまを開いたとたん、黒いモヤが光を遮り、そのせいで夜のように真っ暗になった。
こんな怪奇現象があるとすれば悪霊の仕業、まさか帝には……
「桜花?」
いけない、せっかく帝が声をかけてくださったのに、黒いモヤが気になって、返事をおろそかにしちゃった。
この悪霊は、霊感を持っていなければ見ることができない。
そんな状況で騒いだら、不審に思われるだけ。
余計なこと考えてる場合じゃない。
黒い靄は一度無視して、平静を装って挨拶をしよう。
対処するならそのあとよ。
私はその場で三つ指をつけてお辞儀をしまし、挨拶の言葉を述べました。
「お……恐れながら、本日より主上様に嫁がせて……」
桜花様に教えていただいた挨拶を必死に述べたのですが、わたしはここでミスをしました。
他ごとを考えていたせいで、声や喋り方を桜花様に寄せることを失念してしまったのです。
まぁ、元から声を寄せたところで、似ているかと言われれば微妙だけど…
私たちは声の高さは2人とも合唱で言うソプラノなのですが、桜花様は囁き声、私は声にハリがある声、特徴ある声なだけ真似はしやすいのです。
だから意識すれば、婚礼の儀までは騙せる予定だったんだけど…その努力を怠った結果帝はすぐに違和感に気がついてしまいました。
ガタリと立ち上がりると、なんの了承もなく几帳をガバッと開くと、私の顔をまじまじと見た後、逃げないように私の腕をグイッと掴む。
そして…
「誰だ。」
と、問いただす。
それはもう、恐ろしい形相で。
できれば夜まではごまかせたのに……そうは言っても、もう遅い。
真似せず自分の声で話したらバレるのは当然の結末、諦めるしか……
いや、でもまだ望はあるかも、一縷の望みに一応名乗ってみましょう。
「え……っと……桜花でございます。」
「嘘をつけ嘘を!」
騙されてはくれないようです。
嘘じゃありません……なんて口が裂けても言えるわけがありません。
上から下までどこを見ても、私が桜花様と呼べる要素は限りなく0なのですから。
「俺は桜花と縁談を結んだんだ。なのになんで別人がここにいるんだ!」
お怒りはごもっともでしかない。
こうなったら仕方ない。
「申し訳ございません!!」
私はそう言うと、思いっきり土下座をしました。
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