第49話 学園祭3日目

 学園祭3日目。アネットは待ち合わせで1人の人物を待っていた。やがて、1人の男性がその場に表れる。


「アネット嬢。待たせたな。」

「いいえ。ジネットさん。待っていませんよ。」


 その場に表れたのはジネットだった。ジネットは宣言通り、大会で優勝した。準々決勝でのジネットとランロットの戦いが事実上の決勝戦だったらしい。ザクと一緒に見ていたが、どちらが勝つか分からなかいほどの接戦だった。だが最後のギリギリでジネットが勝者となった。ランロットはとても悔しがっていたが、白熱した試合に2人には惜しみない拍手が送られた。

 昨日ザクと別れた後、生徒会室に戻ると満面の笑みでジネットが待っていた。


「宣言通り優勝したぞ。約束通りデートしよう。」

「は・・・はい。」


 アネットも断るつもりはなかったようだが、その気持ちに圧されデートを了承し、今日を迎えた。生徒会から一緒に行くのは味気ないというジネットの提案で、外で待ち合わせをした。


「じゃあ行こうか。どこか行ってみたいところはあるかい?」

「あ、それなら大会に行ってみたいです。今日は剣術部門ですよね?友人がでているはずなので。」

「わかった。じゃあ、お手を。」

「は、はい。」


 ジネットが差し出す手をアネットは恥ずかしそうにとる。そして2人は大会会場まで移動した。

 剣術では、魔法大会とは違い、模擬武器を使った戦いだ。相手をフィールドの外に出すか、相手に参ったを言わせれば勝ちとなる。

 この大会では、友人のミランジェが出場すると張り切っていた。その見学をしたかったのだ。2人で会場内に隣り合って座る。ミランジェは奮戦していた。

 結果として、ミランジェは準決勝で敗退してしまったが、本人は満足そうだった。


「アネット嬢の友人はすごかったな。剣を習い始めて1年経っていないなんて信じられないよ。」

「ミランジェは元々体を動かすのが好きだったようですから。才能があったのかもしれません。」

「なるほどな。さて。次はどこに行きたい?」

「実はこれと言って特には・・・。お任せしてしまってもいいでしょうか。」

「勿論だ。じゃあ期待に応えられるようにエスコートさせていただこう。」


 それから、ジネットは様々な場所に連れて行ってくれた。と言っても大会以外の出し物は多くない。ザクと昨日行ったところと被ってしまっていた。それをアネットは申し訳なさそうにしていた。


(デート中に失礼。いくら内容が被っているからといって、デート中に他の男のことを考えるのはご法度よ。)

(わ、わかっています!!)

(ならその申し訳なさそうな顔をやめなさい。精一杯楽しむことが、ジネットへの礼儀よ。)

(はい。)


 その言葉でアネットも切り替えられたのか、申し訳なさそうな顔をやめ、精一杯楽しんでいた。

 時間が過ぎるのはあっという間で、気が付いたら夕方になっていた。


「は~楽しんだ。」

「はい。とても楽しかったです。」

「今日は初日のようなトラブルもなかったしな。平和が何よりだ。」

「その節はお騒がせを・・・。」

「あ、いや、そんな事ない。むしろアネット嬢は被害者だろう。気分転換になったのなら幸いだ。」

「ありがとうございます。」

「最後に1か所連れていきたいところがあるんだがいいか?」

「?もちろん構いません。」

「よかった。こっちだ。」


 ジネットが歩き出す。アネットは不思議そうに思いついていった。ジネットが連れてきたのは、とある校舎の屋上だった。他の建物より高く、辺りを見渡せる。


「綺麗・・・。」

「見回りの時に見つけてね。俺のお気に入りの場所なんだ。と言っても誰でもはいれるけどね。」


 2人は少しの間、何も言わず風景を見ていた。だが、アネットが何かを決意したのか、ジネットを真正面から見た。


「ジネットさん。お話があります。」

「それは・・・この前の告白の返事かな?」

「はい。これ以上は待たせても答えは変わらないと思いますので。」

「・・・聞かせてくれ。」


 アネットはジネットを見つめて、そして勢いよく頭を下げた。


「ごめんなさい!!」

「・・・やっぱりか。ランロットを選んだと言う訳でもないんだろう?」

「はい。ランロットさんにも後でお断りをします。」

「参考までに聞いてもいいかな。何が駄目だったんだい?」

「はい・・・。やっぱり私が気になっていた人への思いが強くて・・・。」

「昨日、大会を見に来た時に一緒に居た人かい?」

「気付いてたんですか!?」


 驚いた。大会に集中していただろうに、見学に来ていたアネットを見つけていたとは。勝った後はザクの後ろに隠れていたのに。よほどアネットの事が好きだったのだろう。


「自由行動だったのは知っていたからね。見に来てくれないかなあと気にかけてはいたんだよ。来てくれたと思ったら隣に知らない男がいたから、嫉妬心の方が強かったが。」

「すみません。」

「彼がその思い人?」

「はい・・・。」

「そっか・・・。」


 ジネットは顔を伏せる。だが、すぐに顔をあげた。


「分かった。聞かせてくれて、そして夢を与えてくれてありがとう。これ以上しがみついても女々しいだけだ。敗者は大人しく退場しよう。だけど、これからも友人ではいてくれるかな。」

「もちろん!!こちらこそお願いします!!」

「よかった。じゃあデートはここまでかな。俺はもう少しここの景色を見ていくから。送れないのは申し訳ないけど。」

「・・・はい。失礼します。」


 アネットはジネットに頭を下げ、屋上を後にする。屋上から降りる時ジネットの呟きが聞こえた。


「これが失恋かあ・・・。きっついなあ・・・。」


 アネットはその呟きに応えることも、振り返ることもせず、屋上を後にした。


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