第48話 学園祭2日目
学園祭は2日目に入った。昨日はレグルス殿下の件でドタバタしたが、学園祭は滞りなく行われることとなった。生徒会メンバーは再び生徒会室に集まる。生徒会長が皆を見回した。
「皆、1日目お疲れ様。昨日は怒涛の1日だったけど、取りあえず終わったね。今日も引き続き2日目を・・・と言いたいところだけど、ちょっと今日は見回りのメンバーを変える。セレナーデ君。君は今日自由行動だ。少し気分転換をしたまえ。」
「え、私問題ないです!!できます!!」
「できるとは思うけどね。昨日の騒ぎで精神的に疲れているはずだ。だから少し気分転換してきたまえ。」
「ですが・・・。」
「それに、正直迷子の子供の対応が昨日と同じだと厳しい。これはシャーリーとも話し合って決めたことだ。」
シャーリーがアネットを見て頷く。やはり昨日の対応はまずかったか。迷子の子供に厳しくするのはまずかったのだろう。
「まあまあ。アネット嬢。お言葉に甘えるといい。時間があるのなら俺の活躍を見に来てくれ。優勝して見せるから。」
「何言ってやがる。勝つのは俺だからな。」
ジネットとランロットが再びお互いを睨みつける。2人共昨日は無事勝ち上がったようだ。勝ち進めば準々決勝で2人はあたるのだろう。
「わかり・・・ました。」
アネットは不服そうだったが、渋々頷いた。生徒会長はそれを見て頷くと周りを見回す。
「今日は国王が来られる日だ。護衛は兵士達がやるから問題無いが、運営に問題がないかも見られている。各々油断しないように!!じゃあ今日も1日頑張ろう!!」
「「「はい!!」」」
生徒会長の号令の元、皆生徒会室を出ていった。アネットも生徒会室をでるが、何をしていいかわからずたたずんでいた。
(ごめんなさいね。アネット。私のせいで。)
(いえ・・・。こればかりは仕方ありません。ですが、どうしましょうか。やることがありません。お2人の大会を見に行ってもいいんですが・・・。まだ時間もありますし。)
(それなら私に提案があるんだけど。ちょっと行ってみて欲しい所があるの。いい?)
(ええ。構いませんよ。)
アネットは私が指定した場所に向けて歩き出した。せっかく1日空いたのだから有効に使うべきだ。ゲーム内の知識だが、学園祭は行く場所によって出会えるキャラクターが異なっている。もう原作とはかけ離れているが、彼となら会えるかもしれない。その可能性を信じ、アネットに行く場所を指定したのだ。
私が指定した場所は、食堂だった。出店などがない代りに食堂は開いており、誰でも食事が食べられる。そのせいか、食堂に人はそれなりにいた。
(食堂に着きましたけど・・・。ここで何をするんですか?)
(えっとね・・・。ちょっと待って)
私はアネットの中から彼の姿を探す。だが、人が多いせいかなかなか見つからない。やはりここもゲームとは変わってしまったのか。そう思っていたらアネットを後ろから呼ぶ声が聞こえた。
「アネット!!」
「え・・・?」
アネットが振り返ると、そこにはザクがいた。前と変わらず笑顔でこちらを見ていた。アネットは驚いて目を見開く。
「嘘・・・。ザク!?」
「久しぶりだね。アネット。元気だった?」
「うん!!ザクこそ元気だった!?」
「まあまあかな。今日も抜け出してきたんだ。アネットに会えるかもしれないと思ってね。」
「嬉しい・・・。」
アネットは顔を赤くする。そして自分の髪に留めてある髪留めを優しく触る。ザクはアネットの髪飾りを見て微笑んだ。
「それ、つけてくれてたんだね。嬉しいな。」
「勿論。もしかしたらまた会えるかもって思ってたんだから。花言葉は再会なんでしょう?」
「うん。だからまた会えた。」
ザクは頷くとアネットに向けて手を差し出した。
「よろしければ俺と一緒に学園祭を周ってくれないかい?」
「ええ!!喜んで!!」
アネットは嬉しそうに頷くとザクの手を取った。
そこから2人は学園祭を周ることになった。魔法、武術大会、ダンスホール、各部活動の出し物等々。2人共楽しそうに周っていた。
一応魔法大会の準々決勝もちゃんと見た。激戦だったが、ジネットが勝利していた。ジネットは勝った後、アネットを探していたが、ザクと一緒に居るのを見られると気まずいので、アネットはザクの背中に隠れていた。
ダンスホールではザクの誘いでアネットも踊ることになった。ザクは端から見てもリードが上手で、アネットは楽しく踊っていた。
昼食は食堂で2人で食べた。ザクは学校に来たことがなかったらしく、目を輝かせて美味しそうに食べていた。それをアネットは微笑ましく見ていた。
「楽しいな。」
「ええ。本当に。」
2人は手を繋ぎながら学園内を歩く。端から見たらラブラブのカップルだ。これをジネット達が見ていなくて本当に良かった。
「!!つぅ・・・!!」
「ザク!?どうしたの?」
2人で歩いていると、突然、ザクが急に胸を押さえて、その場にしゃがみこんだ。凄い汗で辛そうだ。アネットは慌ててザクの傍に寄り添う。
「だ・・・大丈夫だ。ちょっと持病があってね・・・。」
「でも、凄く辛そう!!保健室に行く!?」
「いいや・・・。行っても恐らく無駄だ・・・。つぅ・・・。」
ザクの呼吸が荒くなる。このままだとザクは意識を失いかねない。本来ならばもっと人目がない所でやってもらう予定だったが・・・。仕方ない。私はアネットに話しかける。
(デート中失礼。アネット。ザクの解呪をしてあげなさい。)
(ザクに!?ザクは呪われているんですか!?)
(恐らくね。ただしうまくいけばラッキー程度に考えなさいよ。私の思い違いの可能性もあるんだから。)
(は、はい!!)
アネットはザクの目の前にしゃがみ込み、ザクの手を取った。
「・・・アネット?」
「お願い・・・。この人を・・・助けて!!」
アネットの声と共に彼女の魔力が膨れ上がる。その魔力は暖かい光に代わり、ザクに吸い込まれていく。するとザクの身体が光りだした。光は数秒で消える。すると荒い息をしていたザクが、急に立ち上がる。信じられないような顔で自分の身体を動かしている。
「これは・・・。」
「ザク・・・。調子はどう?」
「辛さが全くない・・・。というか・・・今まであった身体の不調が・・・消えた?」
「よかった・・・。」
(やっぱりね。)
やはりザクは呪われていた。その可能性があるから早い段階でアネットに解呪を覚えさせたのだ。イメージの呪いでしか解呪をやっていなかったから上手くいくかは賭けだったが、この様子では上手くいったようだ。
アネットが光っていたのを周りにいた人達が目にして驚いている。そんな様子を見てザクはアネットの手を取った。
「とりあえず移動しよう。こっちへ。」
「う・・・うん。」
アネットとザクは人目を避けるように移動した。そして、学園の少し外れた位置に移動すると、2人でため息をつく。
「ごめんね。目立っちゃって。」
「いや。そんなことよりいったい何をしたんだ?身体がものすごく軽いんだ。こんなのいつ以来だろう。前に君に会った時も調子は良くなったが、ここまでではなかった。」
ザクは不思議そうな顔をしてアネットを見る。ザクは呪われていたことは知らなかったようだ。ただの病気だと思っていたのだろう。
(ノゾミさん。ザクに解呪のことを話してもいいですか?)
(好きにしなさい。駄目って言ってもどうせ言うでしょう。)
アネットは頷くとザクに向き直った。
「えっと・・・驚かないで聞いてね。貴方はね・・・呪われていたの。」
「呪い!?俺に呪いが!?」
「うん。それを私が解呪したの。信じられないかもしれないけど・・・。」
「いや・・・。信じるよ。アネットが言ったことだし、なにより本当に身体の調子がいいんだ。」
そういうとザクはジャンプして見たり、身体のあちこちを動かして自分の調子を見る。顔色も心なしか良くなったように見える。
すると突然ザクがアネットの目の前にしゃがみこんだ。
「ザク!?どうしたの?」
「ああ・・・アネット。君は女神だ・・・。俺に外の世界の楽しさを教えてくれるだけではなく、俺に自由をくれるだなんて・・・。」
「そんなたいしたことじゃ・・・。そ、それよりも体調はもう大丈夫そう?検査してみるる?」
「いいや。大丈夫だ。それよりもアネット。君にお願いがある。」
「え、な・・・なに?」
「俺は君の愛がほしい。どうかこの先も俺と一緒に居てくれないか?」
「!!」
突然の告白にアネットが固まる。顔は真っ赤だ。体調を心配していたらいきなり求婚されたのだ。だれだって驚くだろう。
「え・・・ど、どうして急に?」
「本当は諦めていたんだ。ずっと君と一緒に居たかったが、俺の身体は確実に弱ってきていた。医者からは成人するまで生きられないだろうとも言われていたんだ。だから少しでも思い出が欲しくて街や学園に抜け出してきていた。だけど呪いでそれが解呪されたのであれば、もう心配はない。俺はこれからを思い描くことができる。そう知った時、最初に思ったのが君のことだったんだ。」
「私の・・・。」
「ああ。君とずっと一緒にいたい。俺の身体を治してくれたからではない。街で苦しんでいた時に手を差し伸べてくれた綺麗な心。それに2回だけど一緒にいて心の底から楽しかった。どうかこの手をとってほしい。」
そういってザクは立ち上がるとアネットに向けて手を差し出した。アネットはその手をとりかけたが、手を引っ込めると首を横に振った。
「嬉しい。本当に嬉しいんだけど、問題が2つあるの。」
「なんだろう。君のためなら俺はなんだってして見せる。」
「1つ目は・・・。私、貴方のことを何も知らない。それどころかお互いのことを何も知らないわ。」
「あっ・・・。」
ザクはしまったというような顔をして、頬をポリポリと書いた。恥ずかしいのか、顔が少し赤い。
「そうだった。まだしっかり名乗ってもいなかった。改めて名乗らせてくれ。私の本当の名前はイザーク・シルフィール。この国の第2王子だ。」
「だ、第2王子~!!」
アネットは驚きで叫ぶ。そう。彼の本当の名前はイザーク。第2王子であり、レグルス殿下の弟だ。彼も攻略対象だったので私は彼の名前を知っていた。だが、彼の攻略ルートに行かないと、彼は早々に亡くなってしまう。病死と公表されていたが、呪いのせいだったのだろう。
「え、え、えと。今まで失礼な態度をとってしまい申し訳」
「ああやめてくれ。そんな風にしてほしくなかったから、今まで秘密にしていたんだ。だからこれまで通りでいてくれ。ね。」
「は・・・、うん。わかった。」
「せっかくだから君のフルネームも知りたいな。情報は入っているけど、君の口から直接聞きたい。」
「う・・・うん。私はアネット・セレナーデ。セレナーデ侯爵の一人娘です。」
「改めてよろしく。後はゆっくりとお互いを知っていかないか。時間はいっぱいあるんだから。」
「でも、貴方は・・・。あのレグルス殿下の・・・。」
「ああ。話は聞いているよ。あの兄が迷惑をかけた。心からお詫びをする。彼は廃嫡され平民になる予定だ。だが、心の傷はそう簡単に癒えるものではないだろう。俺はただ謝る事しかできない。」
そう言ってザクはアネットに向かって頭を下げた。アネットは慌てて手を振る。
「あ、頭をあげて。イザーク殿下。無事だったし、会うことがないのであれば」
「ザク。」
「え?」
「今まで通りザクと呼んでくれ。そうでなければ、頭を下げ続ける。」
「わかった。わかったから。ザク。」
アネットが慌ててそう言うとザクは嬉しそうな顔をして頭をあげた。そんな顔を見て、アネットは顔を膨らませる。
「知らなかった。ザクって強引なのね。」
「好きな人のためだからね。これくらいのことはするさ。」
「もう・・・。」
「それで、あと1つはなんだい?」
アネットはその言葉にもじもじし始める。ザクは不思議そうな顔をして首を傾げた。
「どうしたの?何か言いづらい事?」
「言いづらい事・・・。うん。実は、私2人の男性から告白されていて・・・。その・・・返事を保留にしてもらっているの。」
「え!?」
ザクが驚く。まあそれはそうだろう。好きな相手がすでに告白されていたのだ。しかも断ることもせず、保留にしているとは。
「あ、保留にしてもらっているのはザクの事があったからなの。また会えるとは思っていたけど、本当に会えるか分からなかったし。悪い人達ではなかったから・・・。」
「そうか・・・。ならその男達と決闘しないといけないか。」
「やめてやめて。私の気持ちを置き去りにしないで!!」
アネットの言葉にザクも彼女の気持ちを蔑ろにしていることに気が付いたのだろう。慌てて頭を下げた。
「すまない。考えなしだった。そうだったな。アネットの思いが一番大事だ。でも、どうするんだい?」
「大会で優勝したら明日デートしてくれって言われているの。2人のうちどちらかだけだけど。でも優勝してもしなくても片方とデートするつもり。それで決めようと思う。」
「そうか・・・。わかった。」
ザクはアネットの手を優しく取ると、その手に口づけをした。アネットの顔が真っ赤になる。
「今日はここで別れよう。今度は正式にセレナーデ家に手紙を出すよ。だからその時に教えてほしい。」
「うん・・・。わかった。」
「願うことならば、俺を選んでほしいと思っているよ。」
そう言って、ザクは去っていった。アネットは暫くその場から動けなかった。長引くと思ったアネットの恋愛事情も早々に決着がつきそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます