第47話 女子会(今日の振り返り)

「今日は1日お疲れ様。」

「・・・お疲れさまでした。」


 怒涛の1日が終わった後、眠った後の世界でアネットと私は向き合っていた。あれから相手が1番大変だったのはアネットの両親だった。自宅に帰った後、私から話しを聞くと2人共怒り狂い、父親の方は国王に直接文句を言いに行くと言って家を出ていった。母親はアネットを抱きしめ、彼女が少しでも癒されるように甘やかしていた。どちらかというとアネットを癒すことで自分自身も平静を保てるようにしたかったのだろう。アネットを抱きしめている間、母親も震えていた。アネットは母親とゆっくり過ごし、そして眠りについた。そうして今ここにいる。


「大変だったわね。どうなる事かと思ったけど。でもまあこれでレグルス殿下は、廃嫡されるでしょう。学園祭であそこまでやらかしたのだから。国王ももう庇えないはずよ。」

「そうですね。ノゾミさん。ありがとうございました。もしあの時現れて下さらなかったらと思うと・・・。」

「貴方が助けを求めたからね。そうしなかったら助けられなかったわ。私は心の奥に引きこもっていたから。あなたの声が聞こえたから慌てて切り替わったのよ。間に合って良かったわ。」

「あの・・・。引きこもっていた理由は・・・子供の件ですか?」

「・・・。」


 私は答えない。あの時の私はどうかしていた。だが、ただ泣き叫ぶあの子供の存在が許せなかった。私と同じ事をしている子供が見ていられなかったのだ。


「どうしてあそこまで意固地になったのか教えてほしいと言っても・・・教えてくれないんですよね?」

「そうね。私の過去というかトラウマに関わることだからね。教えられないわ。」

「そうですか・・・。」


 アネットは寂しそうに顔を伏せる。だがすぐに何か決意したのか顔を上げた。


「あの・・・。以前ノゾミさんについて教えてほしいといった事を覚えていますか?」

「ああ・・・。そういえばそんな事を言ったかしらね。」


 前に私が恋をしたことがないという話をした時に、私のことを知りたいと言っていた気がする。そのうち忘れるだろうと思っていたが、ここでその話を持ち出してくるか・・・。


「全てを知りたいとはいいません。ですけど、少しでも構いません。ノゾミさんのことを教えてくれませんか?」

「そうねえ・・・。」


 私は少し考える。ここでバッサリと断ってもいいが、アネットはずっと気にするだろう。だからと言って私の身の上話をしたくはない。ろくでもない人生だからだ。同情を買いたくはない。折衷案としていいものはないだろうか。私はアネットを見る。


「昔話や身の上話はしたくないわ。貴方の性格からして同情するだけだから。ただ1つだけなら教えてあげる。貴方を助けている理由。」

「理由・・・ですか?」

「ええ。貴方に恩返しをしたいのは事実よ。貴方のおかげで救われていたからね。でもそれを自己満足と行ったのは微妙に違うの。私は得たいものがある。自己満足で何を得たいのか。それでいいなら教えてあげる。聞きたい?」

「き、聞きたいです!!」


 アネットが力強く頷く。私はため息をついて、アネットの横に座った。そして空を見上げる。


「私はね。ただ証明したいの。私は生きていて良かったんだって。私にも誰かが救えたんだって・・・。」

「そんな・・・。」

「前世の私の人生は酷かったの。貴方が時戻りする前の人生と同じくらいにはね。まあやり直しても同じだったろうから後悔はないんだけど。ただこの世界にきて死んだと知った時、私には何も残せなかったことに気が付いたの。」

「・・・。」

「必死に走り続けて生きてきた。だから後悔はない。でも私は前の人生で何も残せなかった。自分が価値のある人間だと自分で認めることができなかったの。だから貴方に会えた時、これはチャンスだと思ったわ。」

「チャンス?」

「貴方を幸せにすることが出来れば、私という存在にも意味があったと言えるのではないかって。胸をはれるんじゃないかって。」

「ノゾミさん・・・。」

「幻滅した?」


アネットは力強く首を横に振る。そして思い切り私に抱き着いてきた。アネットは泣いていた。そんな彼女に対し、私は驚きを隠せなかった。


「ちょっと。アネット。」

「ノゾミさんは意味のない人ではありません。少なくとも私にとっては、ノゾミさんは大切な友人ですし、恩人です。ですから・・・胸をはってください。自分を卑下しないでください。」

「・・・ありがとう。」


 私はアネットの頭をポンポンと叩く。アネットが私を抱きしめる力が強くなる。彼女が笑ってくれる限り、私の人生に意味はあったと言えるだろう。だから私はアネットを幸せにするために頑張るだけだ。


「さあ。暗い話はこれでおしまい。貴方を幸せにするために訓練するわよ。」

「私は今でも充分幸せなんですが・・・。」

「そんなこと言わない。これから何が起こるか分からないんだからね。そもそも今日のことだって、アネットが冷静に魔力を放出出来ていれば防げたんだから。」

「う・・・。」

「だから頑張りましょう。いずれ・・・」

「いずれ?」

「いいえ。何でもないわ。ほら立つ立つ。今日私がやった魔力放出の訓練をするわよ!!」

「ひー!!」


 アネットは悲鳴を上げながら、立ち上がる。そう。いずれ、私がこの身体からいなくなったとしても、アネットが1人で生きていけるように。私は力を尽くすのだ。


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