第46話 花恋・・・?

「よかったわ。ちょうど貴方を探していたの?」

「私を?あ、もしかしてノゾミさんに用があるのですか?ちょっと今はそれどころじゃなくて・・・。」

「いいえ。用があったのは貴方よ。アネットさん。」

「私・・・ですか?」

「ええ。ちょっと一緒に来てもらいたいところがあるの。」

 花恋は頷き、歩き出す。アネットは不思議に思いつつも、慌ててついていく。しかし、彼女の様子がどこかおかしい。


「あの、いったいどこへ?」

「行けばわかるわ。」


 それだけ答えると花恋は歩き続ける。アネットはとりあえずついていく事にしたようだ。


「ここよ。」


 5分程歩くと、彼女はとある空き教室にアネットを連れてきた。学園祭の出し物には使われていない教室で周りには誰もいない。2人で空き教室に入る。


「ここに・・・。いったい何が。」

「貴方に会いたがってる人がいるの。」

「会いたがってる人?」

「ええ。」


 花恋は微笑む。だが、表情がどこか不気味だ。アネットは後ずさりして花恋と距離をとる。


「やあ、待っていたよ。アネット。」

「!!」


 誰もいないと思っていた空き教室の反対側を見ると、そこには決して会いたくない人物がいた。


「レグルス・・・殿下。」

「まったく。手間をかけさせてくれる。お前と2人きりで会いたかったのに、お前は私からずっと逃げてばかりだ。だから少々強引な手を取らせてもらった。」

「!!」


 アネットは慌てて花恋を見る。だが、彼女は不気味な表情のままこちらに近寄ってくる。それと同時に、レグルス殿下もこちらに近寄ってきた。


「来ないでください!!2人ともそれ以上近づかないで!!」

「無駄だよ。彼女は私の協力者だからね。さあ、アネット。我が儘の時間は終わりだ。お前には私の婚約者という役目がある。」

「な・・・!!」

「キャリー!!やれ!!」


 レグルス殿下が叫ぶとすぐ傍まで近づいていた花恋が、アネットを拘束する。信じられないぐらいに力が強いようで、アネットが振りほどこうと暴れるが、外せないようだ。


「なあに。すぐに終わる。ちなみに抵抗は止めておくことだ。私に対して魔法を使えば、キャリーが庇うようになっているからね。彼女にダメージがいくことになる。」

「つぅ。それなら!!」

「させるか!!キャリー!!」


 アネットが魔力眼を使って、レグルス殿下の近くで魔法を発動させようとする。だが、発動前に、花恋が、アネットの目を両手で塞いだ。魔力眼の唯一の弱点だ。目に見えていないと世界に魔力が通せない。


「花恋さん!!」

「お前はさっきから誰の事を言っているんだ?カレン?彼女はキャリーだろうに・・・。まあそんなことはどうでもいい。これでようやくお前を手に入れられる。」


 声が近づいてきているのがわかる。アネットは暴れるが花恋を振りほどけない。必死に暴れながら彼女は心の中で叫んだ。




(ノゾミさん・・・。助けて・・・。)





「・・・本当にもう。少しは感傷に耽る時間が欲しいんだけど。」





「な・・・ぐあっ!!」

「きゃあ!!」


 私はアネットと交替すると魔力を放出させて花恋とレグルス殿下を吹き飛ばした。彼らは床に転がる。私は床に転がった彼を呆れた表情で見下ろす。


「レグルス殿下。これは最終通告です。大人しく投稿してください。呪いを使って他人を操ったうえ、女性に乱暴しようとしたのは見過ごせません。」

「何を・・・!!かまうな!!全員出てきてアネットを拘束しろ!!」


 今まで隠れていたのだろう。レグルス殿下の声を皮切りに、部屋の四方から生徒らしき人達が物陰から出てきて私に襲い掛かってくる。花恋も立ち上がると虚ろな目で私に襲い掛かってきた。


「全員呪われているのね。なら言葉は通じないわね。」


 私は風魔法を発動させると、全員の手足を拘束した。全員動けなくなって倒れ込む。


「「「「ぎゃっ!!」」」」

「な・・・!!そんな高度な魔法を同時に使うだと!!」

「日々の訓練の賜物です。」

「く、くそ・・・。」


 レグルス殿下は、形成不利とみると、その場から逃げ出そうと走り出した。もちろん逃がすはずもなく、彼の手足も拘束した。彼はみすぼらしく倒れる。


「ぐあ!!」

「レグルス殿下。婦女暴行未遂。ついでに呪いの魔法を使った罪で拘束します。大人しく罪を償ってください。」

「ふん!!何が罪だ。貴様が言うことを聞かないのが悪いのだろうが!!貴様は怯えたまま黙って私の言う事を聞いていればいいものを!!」

「だからと言って他人を呪うのはやりすぎです。この国で呪いは禁止されているのを知らないとは言わせませんよ。」

「ふんっ!!何のことかな!!呪いの魔法など私が使ったと認めなければ証明できん!!私はしらをきればいいのだ!!」

「それは無理だと思いますよ。」

「なんだと?」

「この会話、学園中に届かせていますから。」

「は?はああああああああああああ!!」


 私は切り替わった直後から、魔法で教室内の音声を学園中に響かせていた。私を拘束しようとしたところもばっちり皆に聞こえている。


「それに、呪いの魔法は、呪いをかけた人間の魔力が相手の体内に残っています。それを照合すれば一発で分かります。この国では、呪いを禁止していますから、魔力の判別方法は進んでいるんですよ。自分の国のことなのに知らなかったんですか?」

「く、くそっ!!おい、お前達!!さっさと動け!!肉体の限界を超えて動け!!手なんぞ引きちぎってでもいいから動け~!!」

「無駄ですよ。そう簡単に動けないようにしてあります。それに動けたとしてもまた拘束するだけです。私に触れることは出来ません。」

「くそ~!!!」


 レグルス殿下が暴れまわる。だが、彼も拘束をとくことはできなかった。

 それからは学園祭どころではなくなった。私は、生徒会メンバーを招集し、呪われたメンバーを拘束し直し、連れて行ってもらった。彼らは正気に戻らず、隙を見れば私を拘束しようとしてきた。命令を遵守しようとしていたのだろう。花恋も同様だった。

 レグルス殿下は、学園祭の警備に来ていた兵士に連行されていった。呪いの魔法を使うだけではなく、これだけの騒ぎを起こしたのだ。余程の親ばかではない限り、廃嫡は免れないだろう。

 全員連れて行かれて一段落して、1人で休憩しているところ、ドタバタとこちらに走ってくる音が聞こえた。


「・・・?」

「アネット嬢!!大丈夫か!?」

「大丈夫か!?」

「ジネットさん・・・。ランロットさん・・・。」


 2人とも走ってきたのだろう。息が上がっている。というか今は大会中では・・・?


「お2人とも大会は?」

「今はレグルス殿下の件で、大会どころじゃなくなったから、大会は一旦ストップしている。だがそんなことより君の身の方が心配に決まっているだろう!!」

「あはは・・・。ありがとうございます。ですが大丈夫ですよ。怪我1つありません。」

「本当に大丈夫か。」

「はい・・・。なのでお2人とも大会に戻ってください。どちらかが優勝するのを楽しみにしていますから。」

「ぐ・・・。だがまだ油断するなよ!!安全な場所にいるんだぞ!!」

「帰りは俺達が送るからな!!」

「はい。お願いします。」


 そういうと、2人は渋々戻って行った。アネットは2人に相当愛されているらしい。アネットはまだ奥にこもっている。余程怖かったのだろう。今日は私が表に出て過ごした方が良さそうだ。そうして、ドタバタした1日は終わりを告げたのだった。


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