3章 新学期
第30話 新学期
「お父様、お母様、行ってきます!!」
「行ってらっしゃい!!気をつけてな!!」
「早めに帰ってくるのよ〜!!」
アネットは両親に挨拶をして家を出る。そして馬車に乗り込んだ。今日から新学期だ。入学式初日にレグルス殿下に絡まれるというトラブルがあり、その後もガーランドの件があったが、それ以外は特に問題も起きず、日々は過ぎていった。そしてあっという間に夏休みになった。
夏休みは、友人のフェラール、ミランジェの家に遊びに行ったり、生徒会メンバーのガーネットやエミリーと一緒にお出かけしたりした。皆いい子達で、侯爵家であることに気を使ったりせず、楽しい日々を過ごした。その際、婚約者にどうかと彼女達の兄や弟も紹介されたが、アネットは丁重に断っていた。やはり色恋に関してはまだ慎重なようだった。彼女達も家族が婚約者になれたらラッキー程度だったようなので、必要以上に勧めてきたりはせず、その場は和やかに終わった。
楽しい日々はあっという間に過ぎ、今日から新学期が始まる。馬車の中で私はアネットに話しかけた。
(アネット。今日から新学期ね。夏休みは楽しかった?)
(はい!!学園で皆さんにまた会えるのが嬉しいです!!)
アネットは学園がすっかり気に入ったようで毎日が楽しそうだ。幸せそうで何よりである。ただ、懸念事項があることを忘れてはいけない。
(それは何よりだけど忘れていない?今日からレグルス殿下が登校されるわ)
(そう・・・でしたね。)
私の言葉にアネットの表情が曇る。夏休みがあける前に王都から連絡が来たのだ。新学期からレグルス殿下を学園に通わせると。アネットに近寄らないように厳命しているが、もし意に反して近寄った場合、強制的に排除して構わないとのことだった。随分過激だが、それくらいの事をしでかしたのだ。
入学初日、アネットを婚約者にしてやるといきなり言い放ったのだ。アプローチする、一目惚れだと告白するとかならまだしも、上から目線でこちらの意思を完全に無視した態度だった。その傲慢な態度をとったという話は、あっという間に学園に広まった。その話を聞いた女子生徒達は彼を軽蔑している。いや女子生徒だけではない。あまりにも自分勝手な態度に、レグルス殿下は次期国王として相応しくないという話がでている。この状態で学園に復帰しても彼は孤立するだけだが、どうするつもりなのだろうか。
(安心して。レグルス殿下が目の前にきたら、強制的に切り替わるから。私が守るわ。)
(・・・それなんですが。ノゾミさん。)
(何?)
(レグルス殿下が目の前に現れても、私に何もしなければ替わらないでもらってもいいですか?)
(何?あの我儘王子が貴方を前にして何もしないとでも思っているの?)
(そ、そうではないんです。ただ、いつまでもノゾミさんに頼ってはいられないと思って。)
(でも油断して、呪いでもかけられたらおしまいよ。)
魔法はイメージの世界だ。逆に言えばイメージできてしまえば、何でも魔法でできてしまう。他人を害する呪いをかけることもできるのだ。
呪いとは人を害するためだけの魔法だ。個人のイメージに左右されるため、独自性が強く、1度かかるとそう簡単には解呪できない。かけた本人でも解呪できない場合もある。かけるイメージはできても、それを外すイメージができないためだ。治癒魔法使いも治せないことが多い厄介な魔法なのだ。呪いのせいで国が滅んだ逸話もあり、呪い等の人体に直接かける魔法は、治癒魔法を除き法律で使用を禁止されている。
(時戻り前で国王やイザーク殿下を殺したのもレグルス殿下かもしれないと言っていたじゃない。油断して殺されましたなんて嫌よ私。)
(もちろん私も嫌です。なので危ないと判断したら強制的に替わってください。ただそれまでは、私に任せてもらえませんか。)
(・・・仕方ないわね。)
私はため息をつく。アネットの意思は固そうだ。無理矢理切り替わることもできるが、アネットは悲しむだろう。それは私の本位ではない。私の目的はアネットが幸せになることなのだから。アネットが強くなろうとしているのであれば、私は裏方にまわるべきなのだろう。
(危ないと思ったら強制的に切り替わるからね。後、学園では常に魔力眼を起動しておきなさい。それが条件。)
(あれ、視界の色がおかしくなるからあまり使いたくないんですが・・・。)
(魔力を纏う訓練が完了していないのだからしょうがないでしょ。何かされてからでは遅いわ。嫌なら諦めなさい。)
(いえ・・・。わかりました。)
アネットは渋々といった形で頷いた。アネットが自立しようとしているのを喜ぶべきなのか、まだ危ないとハラハラするべきなのか難しいところだ。ただ生徒会に入る時に言っていた彼女の思いを尊重させてあげるべきなのだろう。
(それにもう1つ。キャリー・クラーク男爵令嬢も入学してくるはずだからね。)
(あ・・・。そっちは完全に忘れていました。)
(あなたね・・・。)
キャリー・クラーク男爵令嬢とは、時戻り前にアネットを処刑の身代わりにした憎むべき相手だ。諸事情で入学を半年遅らせたとのことだが、入学式から半年近く経つ。彼女も学園に入学してくるはずだ。彼女も時戻り前の記憶を持っている可能性はある。充分に警戒すべき相手だ。
(どうせ彼女と会ったときも何かあるまで替わらないでとかいうんでしょ?)
(はい・・・。だめですか?)
(わかったわよ・・・。繰り返すけど、魔力眼は常に起動させておきなさいよ。)
(はい!!ありがとうございます!!)
アネットは嬉しそうに頷く。こうして彼女は独り立ちしていくのかと思うと、少し寂しい気がした。
話しをしているうちに、馬車は学園に着いた。アネットは馬車から降りると自分の教室へ向かう。教室に着くと、既に来ていたフェラール、ミランジェに挨拶をした。
「フェラールさん、ミランジェさん。おはようございます。」
「アネットさん。おはようございます。」
「アネットさん。おはよー!!」
2人も元気に挨拶を返してくれた。そして3人で夏休みの話題で盛り上がる。また遊びに行く約束や、今度はどこに行くか等。平和に思われた。だが、その平和は長くは続かなかった。
「失礼!!セレナーデ令嬢はいるか?」
「!!」
レグルス殿下が再び、クラスに現れたのだった。
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