前のエピソード――第28話復習

　勝負が終わった翌日。放課後、アネットが生徒会室に顔を出すとグレールとカーラ先生が笑顔で迎えてくれた。

「いやあ。セレナーデ君がいてくれて良かった。今日、ガーランド君は真面目に授業を受けてくれたようだよ。」

「いえ・・・。私はそんなに・・・。ジ・・ローレルさんが頑張ってくださったので。」

「いや、ローレル君はセレナーデ君が1人で解決してくれたと言っていたぞ。」

「え・・・いや・・・。」

（あの男・・・。余計な事を。）

　事実だが、目立ちたくない私達にとっては余計な一言だ。釘を刺すのを忘れていた。アネットがあたふたしているとグレールがカーラ先生に声をかけた。

「まあ良いじゃないですか。2人のおかげということで。どちらにしろ、これで一件落着ですね。」

「そうだね。じゃあまた何かあったらよろしく〜。」

　そう言うなり、カーラ先生は嬉しそうに生徒会室から出ていった。それを見てグレールがため息を付く。

「まったくあの人は・・・。何かあればまたこちらに投げる気満々だな・・・。まあなにはともあれお疲れ様。大変だっただろう。今日の見回りは変わるよ。」

「いえ。大丈夫です。ローレルさんが来たら行きます。」

「そうかい？あ、噂をしたらだ。」

「失礼します。」

　話をしているとジネットが生徒会室に入ってきた。だが、彼の後ろにいる人物を見てアネットはぎょっとする。

「ガーランド・・・さん。」

「よお。昨日ぶり。昨日は世話になったな。」　

　そこにいたのは昨日私が叩きのめしたランロット・ガーランドだった。グレールがアネットをかばうように彼の前に立つ。

「生徒会へようこそ。一体何の用かな？セレナーデ君への復讐とかであったら今すぐ叩き出すんだが。」

「いえ。そんな事をするつもりはないです。昨日目が覚めたときには彼女がいなかったので、彼女に挨拶とお礼とお願いを。」

「挨拶とお礼とお願い？」

　アネットは不思議そうに首を傾げる。すると、ガーランドはいきなり頭を下げた。

「約束通り、これからは授業に真面目に出るし、アドバイス通りに伝手を作るようにする。そしてありがとう。今までは必死になりすぎていて周りが見えていなかった。だから叩きのめしてくれて助かった。」

「ほう・・・。叩きのめしたのか。」

「こ、言葉のあやですよ。ガーランドさんも頭をあげてください！！」

　アネットの必死な叫びにガーランドは頭をあげる。そんなガーランドに対し、アネットは恐る恐る尋ねる。

「それでお願いって？」

「ああ。俺をあんたの弟子にしてほしい！！」

「はいぃ！？」

　アネットは予想外だったのか悲鳴をあげる。だが彼は大真面目のようで、再び頭をさげた。

「頼む。あんたの魔法力に惚れた！！俺もあんたのように強くなりたいんだ！！だから頼む！！」

「へえ・・・。そんなにセレナーデ君はすごかったのかい？」

「ああ。あまりにも一方的だった。ここまでボコボコにされると言い訳もできない。」

「そんなにか。」

　全員の視線がアネットに集まる。アネットは顔の前で両手を勢いよく振った。

「調子が良かっただけです！！ともかく弟子なんて無理です！！私もまだまだ修行中の身なので・・・。」

「「あれでか！？」」

　ガーランドとジネットが驚きの顔でアネットを見る。まあ端から見たら強い人の部類にはなるだろう。だが、それは私だ。アネットはまだまだ修行中の身だ。水の剣もまだ数本しか作れないし。そうとも知らないガーランドはアネットに頼み続ける。2人で押し問答を繰り返していたら、グレールが思いついたかのようにぽんと手を叩いた。

「それなら、ガーランド君。生徒会に入らないかい？」

「え！？」

「ああ。それは私からお願いしようとしたのでちょうどいいですね。」

　驚くアネットを横目にジネットも同意するように頷く。当の本人は首を傾げていた。

「確かにジネットが作ったストーリーにもあったな。すっかり忘れていた。」

「セレナーデ君の弟子になりたいのだろう？セレナーデ君は生徒会メンバーだ。生徒会に入れば一緒にいる機会も増えて、魔法を見る機会も増えるだろうし。」

「それに、ただの不良生徒というよりも、生徒会に入るために1人修行していたという方がストーリーがあって皆が受け入れやすく友人が作りやすい。一石二鳥だ。」

「確かに！！なら是非生徒会に入れてくれ！！」

「良いとも！！」

「会長！？」

　ガーランドの願いに即答するグレール。再び悲鳴をあげるアネットを横目に彼は楽しそうに笑う。

「生徒会は人手不足だからね。優秀な若者は大歓迎だ。セレナーデ君も諦めたまえ。しつこく付きまとわれるよりは、制御したほうがやりやすいだろう。」

「ですが・・・。」

（よかったわね。アネット。モテモテじゃない。）

（も〜！！ノゾミさんのせいじゃないですか！！責任取ってくださいよ！！）

（嫌よ。楽しみなさいな。本当に駄目な時は助けてあげるから。）

「どうしてこんなことに・・・。」

　アネットが頭を抱える中私は笑う。たまにはこんなドタバタ劇も悪くはないだろう。彼女を幸せにするための日々は始まったばかりだが、願わくばこんな日々が続くことを祈るばかりだ。

（それにしても優秀な若者って・・・。やはりあの戦いを見ていたのはこの人でほぼ確定かしら。でもなんか違和感があるのよね。あの先生？うーんしっくりこないわね。考えても仕方がないけれど、頭の片隅には入れておきましょう。そのうちレグルス殿下も学園に来るでしょうし、クラーク男爵令嬢が時戻りかもわかっていない。まだまだ油断はできそうにはなさそうね。）

　私は人知れずため息を付き、アネットを守るために私自身もまだまだ修行しなければいけないと思い直すのだった。