第28話 復習
「さて、今日の勝負のことを振り返るわよ。」
アネットが眠った後、私達はいつもの場所にいた。アネットは座っており、私が教師という形で立っている。
「いきなりだけど、聞きたいことはある?」
「いっぱいあるんですが・・・。まず、ガーランドさんが走り出したときに、吹き飛ばされましたよね。あれは何をしたんですか?」
「あれね。正体は空気よ。」
「空気?」
アネットが首を傾げる。だが無理もない。この世界の人達は魔法を使う上で、空気ではなく風という概念で使っている。もちろん空気に質量があるという考えがないのだ。
「細かい説明はしてもわからないだろうと思うから省くけど、私達は呼吸をしているわよね?それで空気を吸い込んでいるわ。そしてその空気にも重さがあるの。」
「空気に重さ・・・ですか?」
「ええ。だから空気を認識して形を変化させることで、様々なことが出来るのよ。」
私は空気が持つ質量を増加させて、地面に叩きつける。辺りに轟音が響き渡った。
「・・・すごい。」
「そして、空気の塊の表面を弾力性がある状態に変化させたの。それを彼の前においた。後は彼が勝手に空気の塊に突っ込んで弾き飛ばされたってわけ。」
「へえ〜。」
「私があの時の戦いで使った魔法は主に2つだけ。空気を操る魔法と、水の剣を作り、操る魔法。」
「たくさん使っているように見えたのですが、たった2つだけだったんですか。すごいですね・・・。」
「ええ。空気を操る魔法で、大体は吹き飛ばしていたの。弾力性のある状態にしないと当たった時骨とか折れかねないからね。本当の敵だったら、鋭利な状態に変化させれば突き刺さっておしまいよ。」
「あれだけの大立ち回りをして手加減していたんですか・・・。すごいとしか言えません・・・。」
アネットは感心したように声をあげ、手を叩いた。私は呆れ顔で彼女を見る。
「貴方も出来るようになるんだからね?」
「え!?無理無理。無理ですよ!!空気を操るだけじゃなくて性質を変えるだなんて。」
「泣き言言わない。魔法において物体の状態を変化させるのは重要よ。新たに作り出すより魔力の消費が少ないから。水の剣だって状態を変化させたものなんだから。」
「あ、それも聞きたいです。どうやって1度にあれだけの水の剣を作れたんですか?私達には魔力眼があるとはいえ、魔法を習い始めて1年経っていないです。だから魔力量はそんなにないと思うんですけど・・・。」
「あら。貴方の魔力量は既に一般魔法使いの数倍はあるわよ。自分の中の魔力に集中してみなさい。」
アネットは目を閉じ、自分の中の魔力に集中し始めた。そしてすぐに驚きで目を見開く。
「本当です・・・!!一体いつの間に・・・。」
「それは貴方が生活している間、私が中で空気に含まれた魔力を取り込んでいたから。」
「え?」
意味がわからず首を傾げるアネットに私は説明した。きっかけは、アネットが生活をしている間暇だったので何かできないかと考えたことからだった。すると、表に出なくてもアネットの体内にある魔力を操作させることが出来ることがわかった。呼吸をする際に魔力も取り込んでいる。その魔力も操作できる事がわかった。それからはアネットが呼吸した際に取り込んだ魔力を体内に保持させ続けたり、魔力操作の訓練をしていた。アネットからしたら日常生活をおくりながら常に猛特訓をしているようなものだ。はっきり言ってチートである。
「家に帰った時、妙に疲れていたのはそのせいだったですね。」
「でもおかげで魔力の上昇量は人の数倍よ。そのうえ魔力眼で世界にある魔力も使うことが出来る。その気になれば魔法使いで最強になれるわ。」
「でも魔法は魔力だけじゃなくてイメージの世界ですし・・・。」
「それこそ問題ないわ。ここで2人で考えればいいじゃない。特に私が持っている前世の知識を使えば色々応用ができるわ。それを貴方に教え込む。水の剣のようにね。」
「あ、それです。話が脱線しましたけど、水の剣ってどうやってあんなに作ったんですか?魔力があっても1つ1つを作成するとなるとそれなりに時間がかかると思うのですが・・・。先程話していた状態変化ですか?」
「正解。ざっくりした説明になるけれど空気には水分が含まれているの。それを媒介にして水の剣を1度に生成したのよ。」
これもこの世界の人達にはない知識だ。前世で化学を真面目に勉強していて良かったと思う。詳細は知らないが、空気に水分が含まれているというのを知っていたおかげで、それを変化させ、水の剣を1度に生成したのだ。水の剣が作れることもアネットが眠った後に訪れるこの世界で、事前に試し済みだ。今回は空気が湿っていたのも幸いした。それでなければ1度に100本近くの剣は生成できなかっただろう。
「ほえ〜。ノゾミさんって物知りなんですね。」
「受け売りよ。前世で色々教わったのを流用しているだけ。でも貴方にもそれを使いこなしてもらうからね。」
「お、お手柔らかにお願いします。」
「駄目。最終的には水の剣を1度に1000本くらい生成出来るようになってもらうからね。」
「ひ〜。」
アネットが悲鳴を上げる。私はその様子が面白くて思わず笑った。こうして話していてもわかる。アネットは前と比べて明らかに笑顔が増えた。そして悲鳴を上げつつも楽しそうにしている。いずれは私がいなくなっても1人で皆と笑いあえるようになってもらわないといけない。でももうしばらくは。私もこの時間を楽しんでいたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます