第27話 大きな壁 ~ランロット・ガーランド視点~
「はっ!!」
目を開けると知らない天井が見えていた。すぐに自分が眠っていたのだと気づく。起きようと身体を起こすと、全身に痛みが走った。
「いつっ!!」
「目が覚めたか。」
声をした方を見ると、先程生徒会と名乗った男の方が部屋に入ってきた。彼は俺の隣りの椅子に腰かける。
「ここは・・・。」
「保健室だ。全身は乾かしておいた。それにしてもあれだけの攻撃を受けてこんなに早く目が覚めるとはな。随分鍛えているんだな。」
その言葉に先ほどの戦いが蘇る。いや、あれは戦いなどではない。一方的な蹂躙だった。
「俺は・・・負けたのか。」
「ああ。慰めにしかならんが、負けたことを気に病むなよ。あれは相手が誰であろうと無理だ。魔法騎士団でも勝てるかどうか・・・。さすがはセレナーデ侯爵の娘と言ったところか。」
「セレナーデ侯爵の娘?ということはあいつがアネット・セレナーデか。」
時戻り前に何度か見たことがある。レグルス殿下の婚約者として発表されるはずが、彼直々に婚約者にするのは男爵令嬢だと宣言された女だ。周りの尽力もあったおかげで正妃にはなれたが、結婚後は幽閉されたと聞いている。騎士団の皆も同情はしたが、彼女のために何か行動をしようとするものはいなかった。まさかあそこまで魔法の力に特化していたとは・・・。なぜ幽閉され続けていたのか不思議でしかない。
「ああ。ついでに自己紹介をしておくと俺はジネット・ローレル。ジネットとよんでくれ。」
「あんたは知らないな。」
「だろうな。卒業後は辺境の子爵に婿入りしたからな。知らん人の方が多いだろう。」
「そうか・・・。」
「それで?」
「?」
ジネットがこちらを真正面に見つめてくる。最初は何のことかと思ったが、すぐに勝負の話のことだとわかる。俺は悔しさで手を握りしめる。
「負けは負けだ。約束通り、授業には出席する。」
「そうか。それはよかった。だが、アネット嬢が言っていたことも正しいと思うぞ。学園に通って仲間を作り、卒業後も使える伝手を作る。大事なことだ。」
「だが・・・今更。」
「そうだな。じゃあ手始めに俺から始めないか?」
「は?」
意味が分からず呆気にとられる。俺はジネットをまじまじと見つめた。だがジネットも真剣な表情でこちらを見ている。
「俺は時戻り前の情報が欲しくてな。お前は友人を作りたい。友人に関しては、それなりにいるからお前に紹介ができる。代わりにお前は俺に情報を提供をする。悪くない話だと思うが。」
「時戻り前の情報って・・・。」
「俺もお前と同じで今回のチャンスを活かしたいんだ。俺はローレル家の当主になりたい。そのためには兄よりも優秀であると示さないといけないんだ。期限も兄の卒業までだからそんなになくてな。だから手段は選んでいられない。」
「当主になりたいのか・・・。」
「ああ。友人になろうとは言わない。手を組まないか?」
確かに考慮の余地はある。入学して1ヶ月。真面目に授業に出ようともせず、周りと関わろうとしなかった俺は孤立している。だから友人を仲介してくれるのはありがたい。論破されたうえに、ボコボコにされたことで頭も冷えた。冷静になれた今ならわかる。セレナーデ嬢が言っていたことは正しい。俺の独断で国王を入れ替えるなどクーデターよりたちが悪い。
時戻り前の情報等俺にとっては無価値なので、俺にとってはありがたい話だ。提案を受け入れるべく俺は頷いた。
「提案を受け入れよう。よろしく頼む。全てを覚えているわけではないが、必要な情報は全て提供しよう。」
「こちらこそよろしく頼む。ガーランド。」
「ランロットでいい。」
「こちらもジネットでいい。」
俺とジネットは握手をする。前は友人などいらないと思っていたが、これは気分が良かった。確かに、時戻り前、騎士団にいた時は友人もたくさんいて皆と盛り上がっていたし、背中を預けられるやつらだった。俺はどうしてそんな事も忘れていたのだろう。
そんな事を考えているとジネットは再び俺を見て意味深に笑った。
「さっそくだが、ストーリーを作ろうか。」
「ストーリー?」
「ああ。ただの不良生徒だと紹介しづらいだろう。わけあって1人でいたと言う方がいい。」
「確かに・・・。だがそんな都合のいいストーリーなんかあるか?」
「まあ、任せろ。こういうのは得意だ。まずな・・・。」
ジネットは楽しそうに説明しだす。それは突拍子もないストーリーだったが、確かに興味を惹かれるものだった。
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