第24話 トラブル発生

 入学してから1ヶ月が経過した。生徒会に入ってからアネットは生徒会メンバーとして活動をしている。大きなイベントは当分ないので、主な作業は放課後の見回りだ。だが、それも特に大きなトラブルはなかった。この学園に平民は入学してこず、爵位の違いによるイジメなどは起きていない。予想できることといえば、爵位の違いによる身分違いの恋によって起きる周りの妬みだが、地位のトップである王子が入学初日にトラブルを起こし謹慎となったのだ。皆慎重になるのも無理はないのだろう。なので毎日の見回りも何も起こらず、アネットとジネットは雑談しながら回るのが日課だった。


(お話みたいに、身分違いのイジメとか、好きな相手の取り合いとかあるのかと思っていたのに・・・。これじゃあ拍子抜けね。)

(今年入った方は皆さん素行の良い方のようですね。それにノゾミさんが初日にレグルス殿下を叩きのめしてしまったので、皆慎重になっているようですし。)

(それでも好きな人ができたら猛アタックするものじゃないの?)

(ノゾミさんはそうだったんですか?)

(知らないわ。私、恋したことないもの。)

「え!?」

「どうした?」


 あまりにも驚いたのか、アネットが驚いて声を出して立ち止まってしまった。いきなり声をだしたことを不思議に思ったのか、ジネットも立ち止まり、周りを警戒しながら声をかけてくる。


「な、なんでもありません。」

「そうか。なにか気がついたことがあれば言ってくれ」

「はい。」


 そうして2人は再び歩き出す。だがアネットは私のことに興味深々のようだった。


(そうだったんですか?ノゾミさんってお姉さんって感じがしていたのでてっきりそういう経験も豊富なのかと・・・。)

(悪かったわね。確かに年齢で言えば貴方より年上だったけれど。そういう意味では貴方のほうが先輩よ。)

(いえ・・・。私も最初に好きになった人があの方だったので・・・。恋愛にいい思い出はないといいますか・・・。)

(ああ・・・。)


 時戻り前はレグルス殿下に恋をし、正妃となったが、結果は悲惨なものだ。あれをいい思い出として言うのは無理があるだろう。


(まあ、だからこそ今回ではいい相手を見つけないとね。)

(う・・・。頑張ります。)

(無理しなくていいのよ。1人で生きるのも悪くないわ。あくまで選択肢があると考えなさい。)

(そうですね。)


 この世界が元になっているゲームは、恋愛シミュレーションゲームとうたっておきながら、誰とも結ばれず、1人でエンディングを迎えてもハッピーエンドになるという不思議なゲームだ。だから別に1人で生きることを選んでも良い。重要なのは本人が幸せだと感じることだ。


(そういえば・・・。ノゾミさんは私や周りの人の事をよくご存知ですけど、私はノゾミさんのことをほとんど知りません・・・。)

(別に面白いこともないわよ。)

(でも知りたいです!!いずれで構いませんので教えてください!!)

(はいはい。いずれね。)


 アネットに言われて自分の過去を思い出す。ろくでもない人生だった。流れるままに必死にもがいて生きてきただけの人生だ。後悔はないが思い出したくもない。すぐに振り払い頭から追い出す。


(過去がどうあれ。私は今ここにいる。それであれば、今出来ることをしないとね。)


 私はそう決意を新たにするのだった。

 レグルス殿下達が戻ってくるまで何も起きないだろうと思っていたが、その考えは甘かった。ある日、カーラ先生が生徒会室を訪ねてきた。私達も見回りから行く前だったので、生徒会全員が揃っているタイミングだった。全員が席につくのを確認すると、カーラ先生は明るい顔で話し出す。


「やあ皆。元気にやっているかい?」

「カーラ先生。どうかしたのですか?」

「なんだいつれないな。用事がないと来ちゃいけないのかい?」


 そう言いつつ彼は女生徒達にウィンクをする。動作一つ一つが妙に色っぽい。この人は性格は置いておくとしてとにかく顔は良いのだ。生徒会の女性達はそれを見て頬を赤らめる。甘い歓声がでないだけマシというレベルだろうか。グレールはそれを見てわざとらしくため息をつく。


「女生徒を籠絡するはやめてください。そもそも用事がないとここに来ないのは先生のほうじゃないですか。それで、何があったんですか?」

「ふむ・・・。じゃあ早速だが本題に入ろう。」


 カーラ先生は頷き、全員を見回すと、真剣な表情になった。やはり用事があったようだ。何か問題でも起きたのだろうか。


「実はある生徒の行動が問題になっていてね。それを君達に解決してもらいたい。」

「問題?なにかやらかしたのですか?」

「いや、問題を起こしたわけじゃないんだ。ただ授業をサボっていてね。必要最低限の授業しか出ていない。空いた時間は訓練と称して剣を振っていたり、魔法の練習をしているんだ。」

「先生側から注意すればいいじゃないですか。」


 グレールが言うのも尤もだ。別に注意すれば終わりの話に見える。だがそれに対しカーラ先生は肩をすくめた。


「もちろんしたさ。だが、「既に知っている内容を受ける意味などない。その時間は訓練したほうがマシだ。」と言われてしまってね。そう言うならばと試験を受けさせてみたが、全問正解しているんだ。それに出席日数も進級にぎりぎり足りる範囲ででているからね。強くは言えなくてね。」

「なるほど・・・。他の生徒が真似しだしたら問題だと言うことですか。」

「そのとおりさ。まあ試験を全問正解する生徒はいないかもしれないが、授業に出たくないという人が増えたら無法地帯になってしまう。その前になんとかしてほしくてね。」

「その生徒の名は?」

「ランロット・ガーランド。1年生だ。」

「!!」

(ランロット・ガーランド・・・。)


 ジネットがその名前を聞き固まっている。私が彼に教えた時戻りした人間の1人。つまり攻略対象だ。


「教師でも色々な人が話をしに行ったが、聞く耳持ってくれなくてね。正直お手上げなんだ。家の方に通達しても、出席日数に問題がなければ好きにさせると言われてしまってね。それならば同じ生徒同士ならどうかと思ったんだ。」

「はあ・・・。それは面倒ですね。」


 グレールはため息をつくと、生徒会メンバーを見回した。


「そういうわけらしいが、説得を試みたい人はいるかい?できなくてもカーラ先生の責任になるから心配しなくていいよ。」

「いや、それは私が困るんだが。」

「不良生徒1人の対応も満足にできない先生達が悪いです。先生もできればラッキー程度に考えているんでしょう?素行不良の場合は家に報告されます。家の名誉に傷がつく可能性があるのだからそんな生徒だらけにはならない。今回は彼の場合が例外だっただけで。」

「それはそうだが・・・。」

「だからできたらラッキー程度で気楽に取り組んでくれ。」

「俺にやらせてください。」


 手を上げたのはジネットだった。ジネットは立ち上がるとグレールの目を真っ直ぐ見た。


「うまくできるという保証はありません。ただ挑戦で良いというのであれば俺にやらせてください。」

「ほう。様子を見る限り、勝算はありそうかな?」

「他の人よりは話が合うと思います。」


 確かにジネットと彼は同じ時戻りの人間だ。それを話すだけで少しは話しを聞いてくれるかもしれない。なら彼に任せればいいだろうと考えていたが、それは甘かった。


「後、念の為セレナーデさんにもついてきてほしいです。」

「え!?」


 アネットが驚きで固まっている。まあジネットが求めているのはアネットではなく私だろう。アネットは関わらないだろうと思っていたが、こんな形で攻略対象に関わる事になるとは。グレールがアネットを見て微笑む。


「セレナーデ君どうだい?私としては2人で行ってくれると嬉しいのだが。」

「わ・・・私は・・・。」


 オロオロするアネットに対して、私はため息をつく。どうやら私の出番のようだ。私は彼女を傷つけないように優しく話しかけた。


(アネット。私がでるから変わりなさい。)

(え・・・。でも・・・。)

(気概は買うけれど、いきなり全てをやろうとしなくていいわ。何度も言っているでしょ。貴方の目の前に立ち塞がる者は誰であろうと私が蹴散らすって。本当はこんな事を言いだしたジネットも張り倒したいけどね。それに最近表に出ていないからたまには出させてくれない?)

(はい・・・。わかりました。)


 アネットは渋々頷いてくれた。アネットと切り替わると私はグレールを見て頷いた。


「わかりました。引き受けます。ですが、1つだけお願いが。」

「なんだい?」

「魔法訓練場の使用許可をいただきたいのですが。」

「それなら問題ないよ。そもそもガーランド君が使用許可をとっているからね。でもどうしてだい?」

「念のためです。じゃあローレルさん。さっそくですが行きましょうか。」


 私はジネットに向かって微笑む。ジネットは私の態度の変わりように驚いていたが、すぐに力強く頷いた。


「ああ。よろしく頼む。」

「じゃあ行きましょう。」


 そして私達は魔法の訓練場に向かって歩き出した。

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