第25話 ランロット・ガーランド
魔法訓練場に向かう途中で私はジネットを睨みつける。彼に対しては一言文句を言わなければ気がすまない。
「私と関わらないという話だったのに、積極的に関わるなんてね。あの時は許したけど、ここまで干渉するのは容認しかねるのだけど。」
「そ、それはすまない。だが君にも関係あると思ったんだ。君が教えてくれた時戻りの人間の1人だったから。だから誘ったんだが・・・。駄目だったか?」
「正直、どうでもいいのが本音です。幸せを邪魔しようとするのであれば叩き潰しますけど、そうでないのならば積極的に関わりたくないのが本音ですね。」
「そうか・・・。それならば俺1人で行こうか?」
「引き受けたからには責任を持ちます。たださっさと終わらせましょう。」
「わ・・・わかった。」
私達2人は魔法訓練場に到着し、ガーランドを探す。魔法訓練場には男が1人だけいた。周りに複数の炎を出現させている。集中しているのか、目を閉じておりこちらが来たことに気づいた様子はなかった。
(炎属性が得意なのはゲームと同じなのね。そして、雨が近いのか空気が湿っている。好都合だわ。)
「ランロット・ガーランド!!」
「・・・・ん?」
ジネットが声をかけるとガーランドは炎を消しこちらを振り返った。長身で黒い短髪の髪。整った顔だ。ゲームの攻略キャラだからイケメンなのは納得できるが、目つきが鋭いため、キツめの表情に見えるのは制作者の趣味なのだろうか。それとも時戻りの影響で性格が歪んだのか。
「誰だあんたら?」
「生徒会だ。君が学業をサボって訓練ばかりしていることで苦情が来てね。我々が派遣されたということだ。」
ジネットの言葉にガーランドは心底嫌そうな顔をした。
「先生の次は生徒会かよ。聞く気はねえから帰んな。最低限の授業は出ているし、試験で合格点は取れる。それで問題ないだろ。」
「それを許してしまえば、他の生徒も真似する可能性があるから許すわけにはいかない。なおかつ授業態度について君のご両親に警告がいくことになる。」
「両親は気にしねえよ。俺が騎士になると言ったら学校さえ卒業してくれれば好きに生きていいと言ってくれている。」
「だがな・・・。」
「問答しても答えは変わらねえよ。一度受けた授業をもう一度受ける気にはならないんだ。」
「・・・それは君が時戻りをしているからか?」
「・・・何?」
ジネットの言葉にガーランドの表情が変わった。先程の不機嫌そうにしていた時とは違い、こちらを完全に警戒している。対するジネットも厳しい表情で彼を見つめ返した。
「我々も時戻りの人間だ。だから君の気持ちはわかる。一度受けた授業をもう一度受けるのは苦痛だろう。だが・・・。」
「何もわかってねえ!!」
「!!」
「授業を受ける暇はねえ。俺はもっともっと強くならなきゃいけねえんだ!!どんなときでも国を守れるように!!」
それはガーランドの悲痛の叫びだった。言われて思い出す。ゲームでの彼は、最年少の騎士団長となり目覚ましい活躍をする。それを誇りに生きていたのだ。彼のルートでは、騎士団長として活躍する彼を、妻として献身的に支えるエンドだった。だが時戻り前は、その誇りを汚されたのだろう。そう考えられる理由は1つしかない。
「そう・・・。時戻り前は、暴動が起きても止められなかったのね。」
「俺達が国にいたら絶対に止めていたさ!!ただあの時は、隣国が怪しい動きをしているという報告があって、俺達は国の境界線に派兵されていた。そして隣国と睨み合っていたら国で暴動が起きて王国が滅んだんだ!!」
「そうか・・・。君はその時のことを悔やんで・・・。」
「あの時の悔しさは忘れられねえ!!怒りで我を失いそうになったときに時が戻った。時が戻った時は困惑したさ。だがすぐに思い直した。これは好機だ!!この国を正しく導き、強い国であり続けるための好機!!そのためには今よりもっと強くなる必要がある!!授業なんて受けている暇はねえ!!」
「くだらないわね。」
ガーランドの熱意の込もった叫びを私は一刀両断した。2人の視線が私に向く。アネットも中で困惑しているのがわかる。
(ノゾミさん?)
「おいてめえ・・・。今なんて言った。」
「くだらないと言ったのよ。貴方の自分勝手な思いに学校や私達を巻き込まないでちょうだい。」
「お・・・おい。アネット嬢・・・」
「てめえ・・・。くだらないだと?」
ガーランドは怒りに満ちた目でこちらを見た。殺意をこめているのかもしれない。だが私には関係ない。私はわざとらしくため息を付いた。
「ええ。くだらないわ。理由は2つ。1つ目。貴方、どうやって国を変えるの?どんなに出世したとしても結局は騎士団長止まり。王族の手足でしかないわ。前回の時、国は内部から崩壊していったのよ。それをどう止めるの?」
私の言葉に彼はにやりと笑う。その目は狂気で満ちていた。
「あの時は王が腐ったやつだった。強い国でいるためには、王を切り捨てることも厭わない。」
「な!?クーデターを起こそうというのか!?それで自分が王になるとでも!?」
「勘違いするな。王の座になんて興味はねえ。だが騎士が仕えるんだ。仕える人間を選んでも構わないだろう?」
やはりといった考えだった。確かに今のレグルス殿下が王となったら国は滅ぶだろう。だが、だからといって1人の騎士が一方的に王を切り捨てるというのはあってはならない。そんな事をすれば国が乱れ、国が滅ぶ。
「子供の理論ね。自分本位すぎるわ。前回起きた暴動と何が違うの?むしろ前回の暴動よりたちが悪いわ。頭を挿げ替えれば国は荒れるわよ。そうしたら隣国が仕掛けてきて潰されるわ。」
「・・・だったらどうしろっていうんだよ!!俺達に捨て駒になれっていうのか!?」
「今でもできることはあるでしょう。今は謹慎中だけど、未来の王が学院に来ている。今ならまだ矯正が間に合うかもしれない。」
そうは言いつつも無理だろうなと私は思った。レグルス殿下も時戻りしている。時戻り後にアネットに絡んだ様子を見ればわかる。傲慢で自分が世界の中心だという歪んだ性格のまま時を戻ってしまった。矯正は難しいだろう。
「それは・・・。」
「それだけじゃないわ。なんのために学園に通っているの。ここには将来の当主になる貴族達がたくさんいるのよ。彼らと縁を持ちなさい。そして自分達が大人になった時、国が中から崩壊する前に、彼らと力を合わせて国を立て直しなさい。たとえその結果、王族を廃するとしても。」
「それはクーデターと何が違う。」
「全然違うわ。貴方が言っているのは貴方1人で行動して頭を挿げ替えるという武力の手段よ。でも私が言ったのは、国を良くしようと皆で知恵を出し合い、行動する。結果は同じかもしれないけど混乱は最低限で済むわ。」
「・・・。」
彼は言い返せないのか黙ってしまった。心の何処かで自分が間違っているのはわかっていたのだろう。だが、このチャンスを逃すまいと焦るせいで引き返すことができなくなっていたのかもしれない。私は再びため息を付いた。
「でも今の貴方の状態じゃあそれはできない。不良生徒に関わりたい人間なんていると思う?今からでも遅くはないわ。皆と仲良くし縁を作れば、将来困ったときに助け合うことができる。そして国の未来についても相談もできる。同じ国民なのだから。時戻り前の騎士団の人達はそうじゃなかったの?背中を預けられる人間じゃなかった?」
「アネット嬢・・・。」
「・・・それはそうかもしれない。だ、だが、結局力がなくては何もできない!!たとえ仲間がいようとも強大な力の前には何もできない!!」
「だから皆で力を合わせるのでしょう。1人、2人では無理かもしれない。だけど10人、20人、いえ50人の貴族の当主が力を合わせれば王族に対抗できるわ。国のあり方を変えることになるかもしれないけれどね。」
「しかし、50人いたとしても烏合の衆では意味がない!!1人1人が力を持ち国を圧倒できるほどの人間達が集まって初めて意味をなす!!そのためにはやはり力は必要だ!!」
「そうね。それには同意するわ。でもそれが2つ目の理由に繋がるの。貴方がやっていることがくだらないといった理由の・・・ね。」
私は2本の指を立て、彼に向かって突き出す。そして彼を挑発するようにわざとらしく笑った。
「貴方。訓練しても弱いんだもの。」
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