第22話 新たな攻略対象
「先生。生徒会の新メンバーを連れてきました。」
「おお!!そうか!!よく生徒会へ入ってくれた。私は教師側の窓口となるアグネス・カーラだ。何か気になることや困った事があったら遠慮く聞いてくれ。」
アネット達もカーラ先生に自己紹介していく。彼は、外見におごらず気さくな先生のようだった。だが彼にこのタイミングで会うのは想定外だった。彼は攻略対象の1人だ。
(どうして彼がここに。ゲーム内では彼はただの数学教師だったはずなのに。生徒会と関わる事なんかないはずなのに。)
ゲーム上では生徒会との接点はほぼない。ゲーム上では、アネットが様々な所に移動する時、移動先で出会い、話をすることで仲良くなる。そしてルートに入るには、先生の元にひたすら通いつめなければいけない。彼のルートへの入り方は単純だが、ルートに入るには、彼のもとにひたすら通わなければいけないのが、面倒なのだ。
私が彼を観察している中、皆の挨拶が終わり、グレールが皆を引き連れて職員室を出ようとしたとき、唐突にカーラ先生がアネットに声をかけた。
「セレナーデ君。」
「はい?」
「君は今気になっている事があるようだね?私であれば聞くよ?」
カーラ先生が優しい顔でアネットを見つめる。女生徒に限るが、彼はエスパーなのかというぐらいに人の心配事に敏感だ。人の心配・考え事を察し、甘いマスクでそれを聞き出す。そして適切なアドバイスをするのだ。彼にアドバイスされたことで迷いが晴れたという女性がたくさんいる。そのせいか、彼の外見もあり女性ファンは多い。新人の2人もうっとりした顔で先生を見つめている。アネットは最初俯いていたが、やがて決意すると顔をあげた。
「生徒会と関係ない事でもいいのでしょうか。」
「もちろんだとも。遠慮は不要だよ。」
「じゃあ・・・。2つほど。1つ目はレグルス殿下についてです。あの人は今学校に来ていませんが、学校側には何と言われているんですか?」
「ああ。彼か。初日に大変なことを起こしたようだね。彼は謹慎処分を受けていると聞いているよ。数か月は学校に来ないとのことだ。」
「そうですか・・・。」
アネットは安心したようで、ホッとしていた。やはりレグルス殿下を恐ろしいと感じていたようだ。当たり前だが、セレナーデ家にきた回答と学校側が受けている説明は同じだった。実は学校側が聞いている内容が、セレナーデ家にきた回答と違っているのではと不安に思ったのだろう。
「もう1つは?」
「・・・キャリー・クラーク男爵令嬢をご存じでしょうか?」
(!!)
「クラーク令嬢?・・・ああ。そういえばいたね。彼女がどうしたのかい?」
「彼女はこの学園に入学するはずだったと思うんですが。どうされたんですか?」
「彼女は家の事情で入学を半年遅らせてほしいと連絡があった。だからまだ入学していないんだよ。」
「そうですか・・・。」
(アネット・・・。気にしていたんだ。)
(ええ・・・。もしかしたらまた会うかもしれないので気になっていました。)
アネットにとってはクラーク令嬢も恐怖の対象なのだろう。時戻り前は彼女のせいで濡れ衣を着せられ、処刑されたのだ。何かあったら私が出てくる予定だったが、いきなり出てこられたら怖いのだろう。気になるのは仕方がないと言える。
「それにしても・・・。かたや男爵令嬢。かたや侯爵令嬢。接点があるようには思えないんだが。君はどこで彼女の事を知ったんだい。」
「か・・・彼女とは昔色々ありました。」
「ほう・・・昔・・・色々ね。」
「と、とにかくありがとうございました!!失礼します。」
「ああ。また何かあったら遠慮なく来てくれたまえ。」
アネットはカーラ先生におじぎすると皆と一緒に職員室をでた。生徒会室に帰る途中、ジネットが心配そうにアネットに声をかけてきた。
「クラーク令嬢の事が気になるのか?」
「ええ・・・。できれば関わりたくないので。」
「たしかに俺も関わりたくないな。まあ、生徒会にいれば大丈夫だろう。あの性格からして生徒会に入りたがるとは思えん。」
「そうですね・・・。」
(アネット。気になるのはわかるけれど切り替えなさい。クラーク令嬢は半年は入ってこないことがわかったんだし、レグルス殿下も当分は学園には来ない。いない人に怯えて学園生活を過ごすの?それくらいなら、いったん忘れて学園生活を楽しみなさい。)
(はい・・・。ありがとうございます。)
(それにたとえ彼らが現れたとしても私がいるから問題ないわ。近寄るなら全てを蹴散らすのみ。貴方が幸せになる歩みを止めさせはしないわ。)
(くすっ。ありがとうございます。ノゾミさん。頼りにしています。)
(勿論よ。)
アネットは嬉しそうに微笑む。彼女の表情がコロコロ変わってジネットは不思議そうにしていたが、アネットはなんでもないと手を取る。
生徒会に戻ると、グレールは再び手を叩いた。
「さあ。今日はこれで終わりだ。さっそく明日から見回りをしてもらう事になる。明日からよろしく頼むよ。」
「「「「はい。」」」」
「じゃあ解散!!」
そう言われ、先輩達を除いた皆で生徒会室をでる。生徒会長達はまだやることがあるとの事だった。帰ろうとしている時、ジネットが気まずそうにこちらに近づいてきた。
「もし良ければ、馬車の停留所まで一緒にいかないか?話したいことがあるんだ。」
「いいですけど・・・。」
「本当か。じゃあ行こう。」
(アネット。交替する?)
(大丈夫です。私も彼とは話をしてみたかったので・・・。)
新人の他2人に挨拶して、アネットとジネットは停留所に向けて歩き出した。ジネットは最初不安そうにしていたが、いきなり立ち止まるとアネットに向かって頭を下げた。
「申し訳ない!!」
「え?あ、頭をあげてください!!いったい何の話ですか?」
「学園が始まる前に約束しただろう。変な噂がたたないように近づかないと。だがさっそく近づいてしまった。」
「ああ・・・。気にしないでください。私がいると思ってきたわけじゃないんですよね。」
「もちろんだ!!最初に説明した通り、当主になるための実績作りだ。裏で手を回すのは正直手詰まりでね。有用な知識は折を見て父上に伝えるつもりだが・・・。学園でできる事といったら、試験でいい結果をだすことと生徒会くらいしかないんだ。だから君がいたことは想定外だった。」
確かに学園でできる事は限られている。未来の知識を使えるのは学業くらいだろう。それに生徒会も私が許可しなければ行くことはなかった。会うことになったのも偶然だろう。
「それであれば私から特にいう事はありません。これから一緒に生徒会を頑張りましょう。」
アネットは嬉しそうに微笑む。ジネットはほっとしたような顔をして何度も頷いていた。
そして2人で雑談をしながら停留所に向かう途中、彼はアネットを見て首をかしげた。
「それにしても・・・あれだな。君は前に会った時とまるで印象が違うな。」
「そ・・・そうですか?」
「ああ。前回は油断していたらこちらが飲まれるという感じがしていたが、今は落ちついている。別人のようだ。」
(別人だけどね。)
「あの時は必死だったので・・・。気に障ったなら申し訳ありません。」
「いや、こちらも失礼な対応だったのを反省している。それにあの時言ったように、君が幸せになるのを邪魔するつもりはないさ。何か必要な事があったら言ってくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
そんな風に話をしていると馬車の停留所についた。まだ学校に残っている人がいるのだろう。停留所には複数の馬車がいた。
「ではまた明日からよろしくな。」
「よろしくお願いします。」
2人はそこで別れて、アネットは馬車で家に帰った。生徒会に入ったことを彼女の両親に言うと、彼らはアネットの事を褒めつつも心配していた。だが周りの人達がとても良い人達であり、クラーク令嬢と殿下は当分学園に来ないことを聞くと、安心したようだった。何かあったら私を頼るようにと口を酸っぱくして言っていたが。何はともあれ、こうして2日目は無事に終わったのだった。
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