第8話 噂を堕とせ、掴め

「『嫉妬』……それならまだどうにかできるね」


 詩音の口元が吊り上がり、低く笑う。その笑みは、これから何かを壊す人間のものだった。


「……詩音、なんか案あるん?」

「フッフッフッ……実に簡単なことだよ……先輩のポンコツな所を暴露すればいいんだよ!」

「そんな馬鹿な案……いや、意外と理にかなってるのか……?」


 一瞬馬鹿な意見のように思える詩音の案だが、ちょっと考えてみれば理にかなっている気もしてこなくはない。


「ちゃんと考えてるんですよ?噂をしていた人は、先輩が近寄りがたいから仲良くしなかったんですよね?」

「あ、ああ、そうだな……」

「じゃあ近寄りたい、友達が多い人って、基本イジりやすかったり面白いネタ持ってるじゃん。『弄られキャラ』みたいな。私、先輩のそういう所たくさん知ってるからそれを暴露すればいいんじゃないかなってこと」


「「「「お、おお……」」」」


 詩音の急な真面目の意見に動揺する4人。


 確かに友達がたくさんいたり、周りに人がたくさんいるという人は、基本的に弄りやすかったり、話すネタが面白かったりするだろう。愛されいじられキャラなど、その典型例だろう。


 だが、この案には一つ大きな欠点があった。


「でも、詩音さん。ポンコツな所を暴露したとして、それが事実だと裏付ける証拠はあるの?」


 そう、これだ。いくら私たちが「これが神代先輩のポンコツな所です!」って暴露しても、「証拠は?」と言われてしまったら黙るしかなくなる。


 しかし、詩音はいまだにニヤニヤしていた。まったく驚いた風には見えない。


「フッフッフッ……それについては大丈夫だよ。なぜって……」

「なぜって……?」

「先輩と話したことは全部録音してるから!!」


「「「「は……?」」」」


 4人は思った。こいつ、重度の変態だ……と。


「……どうやって録音したの?スマホは禁止でしょ?」

「ん……?普通にボイスレコーダーだよ?」


 当たり前だけど……みたいな顔で言う詩音。普通の女子中学生はボイスレコーダーなんて持っていないのだが……先輩との会話を録音するためだけに買ったのだろうと考えると、こいつの変態度がどんどん上振れていく。


「え、えっと……そのボイスレコーダー、今持ってる?」

「うん、持ってるよ。なんなら流そうか?」


 そう言って、「流して」とお願いされた訳でもないのに、カバンからボイスレコーダーを取り出して、スイッチを入れる。


 そうすると、少し音質の悪い音声が流れ始めた。




『先輩ってコーヒーとか飲んでそうですけど、実際現実どうなんですか?』


 詩音のいつもとは少し違った甘ったるい声が流れる。


『…………んっ』


 それに対して神代先輩はまったく感情の乗っていない声を載せる。


『へえ、先輩ってコーヒー飲まないんですね。じゃあ、どんなジュース飲むんですか?オレンジジュースとか?』

『…………ん』

『え!?先輩ってオレンジジュース飲むんですね!可愛いですね!今度奢りますよ!』

『…………ん』




 ここで音声は途切れている。


「いやー……やっぱこの時先輩可愛くないですか?この日の先輩、いつもより返事多くて嬉しかったんですよねー」


「え?これでも喋ってる方なん……?」

「というか、どうやって返事を聞き分けてるの?違い、ないように聞こえるけど」


「え?普通に返事の長さですかね。肯定的な返事な時は「ん」だけど、否定的な返事な時は「んっ」なだけだよ?わかりやすいでしょ?」

「いや、先生はまったくわからんかった……ちょっともう一回聞いてみてもいい?」



 もう一度教室に詩音の甘ったるい声と神代先輩の感情の乗っていない声が響く。



「──いや、わからん。何が違うのか本当にわからない」

「ええ?先生わからないんですか?やっぱ歳なんじゃないですか?」

「だれがババアじゃ!」

「そこまでは言ってません」


 先生とレスバ……?コントを披露する詩音。先生は違いがわからなかったようだが、他の3人はどうなのだろうか?


 そう思い、そちらに耳を傾けてみると……


「……いや、うちにもわかんない。興味ない韓系アイドルグループメンバーの顔の違いぐらいわかんない」

「その例はよくわかんないけど……違いを感じないのは私も同じね」

「……何が違うの?」


 うん、やはり同じ意見だったようだ。


「まあ、それはとりあえず置いておいて……詩音、それをどうするつもりなの?」

「ん?もちろん暴露するよ?学校新聞とか、なんなら放送部とかにお願いして流してもらおうのもいいよね。後は普通にクラスLINEに流すとかもいいかもね?」


 詩音はこのボイスレコーダーの内容を全生徒に暴露する予定らしい。


「ま、まあそれでいいんじゃないか?一応私も学年主任だから協力するぞ?」

「それじゃあ、お願いします。実は容量足らなくてもう1個ボイスレコーダー持ってるので、そちらをお貸しするのでどうにかして暴露してください」


 そういって、カバンからもう1つボイスレコーダーを取り出して先生に渡す詩音。

しかし、詩音はもう3つボイスレコーダーをカバンから取り出した。


「羽衣は放送部に渡してきて」

「えー……うち放送部どこか知らないんですけどー」

「里香は新聞部に」

「まあ、国語は結構自信あるから任せて」

「飛鳥は……LINE拡散係!」

「……わかった」



 そんな風に役割分担を勝手にしながらボイスレコーダーを渡していく詩音。


「あ、そういえば詩音は何をするの?」

「え?そりゃ一つに決まってるでしょ」


 その時に詩音は少し引き攣った、無理をしているようにも見える笑顔をこちらへと向けた。



。もちろん録音も忘れずにね」




 ◇

 みなさんこんにちはカフェオレです。

 ちなみに詩音のファイル名は全て「先輩との会話♡(番号)」らしいです。



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