第7話 醜い感情

 ちょっとふざけた雰囲気になってしまったが、それを引きずる者はいない。全員、流石に会議を進めなければやばいと思っているのだろう。


「じゃあ、ここは先生である私が仕切るわね。

 んんっ!……それじゃあ、みんな!神代先輩の名誉挽回のためにできることの案がある人は意見、バンバン出してくれ!」

「意見とはちょっと違うけれど、一度神代先輩の噂についてまとめておかない?そうしておかないと意見のすれ違いが起こりそうだし」


 流石は真面目枠、と言うべきだろう。里香は立ち上がり、教室の片隅に置いてあるホワイトボートを私たちの前へと持ってきた。


「てことで、神代先輩の噂を知ってる限りたくさん書いてー。とりあえずでいいから、思いついたやつ書いていって」


 ホワイトボードマーカーを着々と準備しながら話す里香。それに一番に反応したのはやはりギャルだった。


「おけおけ。確かにそれは大事だよね!ってことで私はここに書くんで、他の人は他の人で決めてくださーい」


 左側4分の1の所に線を引き、「奥村」と上側に大きく書くと、箇条書きでどんどん書いていった。

 他の3人も少しずつ席から立ち上がり、ホワイトボードの前に立った。


「人の噂を書くって、なんか気持ち悪いけど、今回は仕方ない!」

「教師だからこその視点もあるだろう。」

「……早く終わらせたいから書くだけだから」


 三者三様の反応を見せたところで、皆噂について書き始めた。






「──うーん……改めて見ても酷いわね」

「……それはそう。これは流石にうちでも真面目になる」

「生徒目線の噂ってもっと酷いんだな……想像を遥かに超えてきたな」

「……神代先輩、早く帰りたいって言ってごめんなさい」


 見るだけでも、心を掴まれたように感じるほど酷い噂の数々を見て、里香は引き攣った表情を見せ、ギャル(羽衣)は流石に真面目になり、先生は新たな事実を知り、飛鳥は土下座しながら謝ったりしてるなか、一人だけ空気違いのドヤ顔を披露していた。


「全部私が知ってる情報ですね……!!」

((((は?))))


 腕を胸の前で組みながら、ホワイトボードを見渡す詩音。その空気違いにも程がある行動に、他の4人は正直言って引いていた。


「詩音……あなた、そこまでの馬鹿だったの……?」

「詩音……いつも不真面目のうちが言うべきじゃ無いかもだけど、この空気でその発言は……流石に無いよ?」

「これも生徒目線の意見なのか……?いや、わからん……」

「すいませんすいませんすいませんすいませんすいませんすいません──」


 ……一人、ずっと謝っている人がいるが、ツッコミの3人は完全にスルーしているので良いとしよう(良くない)


「ま、まあ、とりあえず進めましょう!……飛鳥は早く頭を上げて?じゃなきゃ進まないから」

「……お見苦しい姿を見せてしまい、すいませんでした」

「いや、別にそこまで怒ってないからいいのよ。後、謝るのなら神代先輩と会った時にしなさい。私たちの前で謝っても何も解決しないのよ?」

「ぐう」

「ぐうの音出さないで」


 やっと、飛鳥が頭を上げてくれたことで、やっと会議を進めることができた。というか、里香は飛鳥に注意しながら、ホワイトボードに書かれていることをメモ帳にまとめている。思わず2つ脳があるのか、聞いてしまいそうになった。


「思わず脱線しちゃったけど……まあ、皆の意見で共通している点はほとんどの噂の原因が『嫉妬』にあるという所だね」


『嫉妬』……七つの大罪の一つにして、海の怪物の悪魔が対応する大罪でもある、醜き感情。いや、一概に醜いとは言えないのかもしれないが……ここに書いてある噂は全て醜い感情の妬みが原因であるため、今は論点としてはずらすことにする。


「『嫉妬』ねえ……まあ、先輩はうちより数倍は可愛い……いや、美しいもんね。美人超えて、って感じ」

「表情がまったく変わらないのもあいまって、畏怖という言葉が似合う人よね。遠く見ていると近寄りがたいというか……」

「飛鳥も美しい系の美女だけど、先輩はなんか美しいという言葉じゃ表せない感じあるよね」

「……癪だけど、事実だから言い訳できない……」


 これらの意見は当時、噂をしていた学生の深層心理でもある。灯がただ可愛いだけだったらちやほやされていただろう。

 しかし現実は、灯は廊下を歩くだけで周囲の声を止めさせた。笑わない。目も合わさない。にもかかわらず、テストは常に八割超え。そして、いつしか『畏怖』という感情は、『嫉妬』という感情に置き換えられてしまった。自分より可愛い、美しい、なのに誰とも話さない、告白されても無視する。こんなにも完璧なのに、誰とも仲良くせず、だからといって一人でなにかしているわけではない灯の行動が当時の生徒に『嫉妬』の感情を昂らせたのだろう。


 しかし、仲良くしているものがいたのも事実……灯は話しかけられても表情一つ動かさなかったようだが……そんな中の一人が詩音だったわけだ。

 そんな当事者の詩音はなにか思いついたのか、口角を不気味に上げさせ、ニヤリとした表情を見せていた。


「『嫉妬』……それならまだどうにかできるね」


 詩音の口元が吊り上がり、低く笑う。その笑みは、これから何かを壊す人間のものだった。


 ◇

 みなさんこんにちはカフェオレです。

 この会議シーンだけで一生書けてしまう……

 全員キャラが濃すぎて、文字数がかさばるかさばる……


 読んでくださりありがとうございました!

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