第5話 善意、悪意
「え……?」
母はとても困惑していた。その裏で私も、一人驚愕していた。
1年前に完全に消したはずの記憶。こんなところで掘り返されるとは、考えてもなかった。というか、考えたくなかった。
もちろん、即帰宅、そして、即家族会議となった。
メンバーは、母と父、私、そして小学2年生の妹。
……姉は2年前に亡くなった。
重たい空気の中、母はか細い声で私に話しかけた。
「……灯、説明してくれる?」
本当のことを言うかは、とても悩んだ。だからと言って、言い訳は思いつかなかった。
「株式投資をやってました」
「……いつからなんだ」
父がいつものような優しい声ではなく、厳格で怖い声で聞いてくる。
「小学1年生くらいからです」
「……そうか、じゃあ、なんで銀行に150万円もの大金が入ってるんだ」
「放置してたら、配当金で」
「……わかった」
またもや重たい空気が流れる。
その時、父から衝撃の言葉が投げかけられる。
「……お前をここに残して、私たち三人で別の場所に移ることにした」
「ちょっとお父さん!……本当にいいの?」
「もう、無理なんだよ……こんな天才を私たちが扱えるわけがない。この子は多分だが、もう俺たちを超えちゃってるんだよ……私たちは扱うより、一人でいる方が輝ける」
「……」
なわけない!と反論したかった。でも、できなかった。私が自分の両親を超えていることには自覚があったからだ。私の両親は株式投資なんてできない。なんなら東大数学さえ、まともにできないだろう。
「……そういうことだから、ごめんね灯。この家にあるものは明日からあなたのものだから。お金も自由に使っていい、印鑑も置いていく」
それは実質的な私への自由を与えた時だった。親の印鑑があるのならば未成年ができないことでも、だいだいのことはできてしまう。
……この時、私はやっと気づいた。捨てられたという紛れも無い事実に。
妹は、結局一言も発さなかった。最後を除いて。
母と父は続々とこの家から出る準備をしていた。私はいまだにリビングに居座って、なにも動こうとしていなかった。そんな私に妹は一言つぶやいた。
「なにがあったかは、正直良くわからないけど……またあいにくるからね」
私は何も返せなかった。だって無理だから。母と父はかなりお金を持っている。そのため行こうとすれば地球の裏側にだって行くことができるだろう。
もう一つ理由がある。妹には私のことを忘れて、母と父に愛されながら生きてほしいからだ。ここで私がなにか返答すれば、それがずっと足枷になって、生きづらくなるかもしれない。そんなのは嫌だった。こうなったのは、全て私のせいなのだから。
しばらくして、両親と妹は出ていった。
奇妙なほどの静かな夜は、まるで私を裁くようだった。
私は一人、夜な夜な泣き叫んだ。
「──って、ところよ」
私は過去の話を終えて、一息つく。
さあ、これで詩音さんも、話す気になってくれたかな?と思い、そっちの方を見てみると……なにかぶつぶつ言ってるんだけど……?
「……知ってます。」
「ん?なんて?」
「いや、なんでもないです」
こういう時、私の聴力の悪さを恨みたくなる。まあ、これも私のせいなんだけど。
その時、やっと詩音が口を開いた。
「……先輩、私、話さなきゃいけないことがあるんです」
「ん?いいよ、別に」
「……私、先輩と同じ中学校に通ってたんです」
◇
みなさんこんにちはカフェオレです。
両親の善意によって捨てられる主人公。はたしてその善意を主人公はどう受け止めんたんでしょうね?
読んでくださりありがとうございました!
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明後日21時公開予定
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