姫騎士の就活
しまかぜゆきね
第1話 姫騎士の早期就活
〜竜神歴2025年、ニホーン王国 王宮にて〜
私はニホーン王国・第一王女、
誇り高き姫にして、王国第一騎士団の騎士団長だ。
姫騎士としてデーモン魔王軍との戦いを続けてきた私だが、今は軍を離れている。
というのも、3年前にデーモン魔王軍との休戦協定が結ばれたのだ。
やはり平和が1番。私自身も、今は王宮の自室で安らぎのときを謳歌していた。
そんなある日の午後、部屋の扉が勢いよく開かれる。
「姫さま! もう就職活動は始めていますか!」
そう言って入ってきたのは執事のセバースだ。
「……何寝ぼけたことを言っているんだセバース。就職活動? なぜ王女である私がそんなことする必要がある?」
「これをご覧ください」
そう言ってセバースから手渡されたのは「ニホーン国王」、つまり父上からの書簡だった。
【親愛なるヒメへ】
いきなり就活と言われて驚いているだろう。
そう、私はお前に就活させることに決めた。
というのも、とある古代帝国の歴史書にはこのような伝承が書かれている。
『かつて存在した古代国家「ニッポン」は、親世代の財力にかまけて怠惰な生活を送る「ニート民族」の急増によって滅亡した』と……。
私は軍から離れて気の抜けたお前がニート民族のようになってしまうことを、大変懸念している。
セバースから聞いたが、正午に起きて深夜4時まで「ネッティフレックス」でアニメを見る堕落の日々を過ごしているそうではないか。
それに、ノブレスオブリージュという言葉もある。
高貴な者はそのぶん、社会貢献をしなければならないという意味だ。
そういうわけなので、お前は社会で汗水たらして働くべきだ。
手始めに新卒で就職をしてもらう。
なお、就活に失敗した場合は王宮を追い出すつもりなので、本気でやりなさい。
就職活動がんばれ。以上
【パパより】
「なん……だと」
私は衝撃を受ける。
いやいや、待て待て。
「あの、あれだろ? セバース。就活といっても私はまだ20歳。つまり大学3年生にあたる学年だ。就活が始まるのは4年生からで……」
私がそうやってまくしたてると、セバースはため息をつく。
「はぁ……姫様。ご存知ないのですか。今や就活は〈早期化〉しているんですよ」
「そ、そーきか?」
なんだそれ。正気か?
「つまり、始まる時期が早まっているのです」
「な、なんだそれは! それでは学生が勉強に集中できないではないか! よおし、私の権力を使ってそんなの辞めさせてやる。王女の言うことを聞かない商人などおるまい」
「それが、無意味なのです」
「む、無意味? 無礼者! 私は曲がりなりにもこの国のっ……」
「ですから、この国の問題ではないのです!」
この国の問題ではない……?
何をいっているんだ。
「姫様、よくお考えください。例えば先ほどまでアニメを見ていたその
「これか? えーっと……『MADE IN デーモン魔王国』だが……まさか、魔王国産だからダメだと言うんじゃあるまいな。もう戦争は終わったんだ。確かに、人件費の安い魔族に製造業を丸投げする現在の経済体制は健全じゃない。しかしグローバル化しつつある現代だ。普通のことじゃないか」
「まさにそこなのです。現在はグローバル化の時代。姫様が愛用している『ネッティフレックス』も魔王国の商人が運営しています。となれば必然、魔王国の商人は我がニホーン王国内でも商売をしていることになります」
「まあそうだな」
「そうなれば当然、我が国の人材を雇いたいと考えて、早期に内定(=合格)を出すことで優秀な就活生を確保しようとする魔王国の商人が現れます。それなのに我が国の商人が指を咥えて見ていては、優秀な人材を全て持っていかれてしまいます」
「うーん」
「なので、我が国の意向一つで就活をどうこうはできないのです」
なん……だと?
私は俯き、怒りに拳を振るわせる。
「……おのれ魔王軍。まさか戦争を終えてからもこのような形で嫌がらせをしてくるとは。こうなったらもう一度 宣戦布告をして……」
そう言って私が腰にたずさえた魔剣プリンセス☆ソードに手をかけると、セバースが慌てて止めに入る。
「落ち着いてください姫様! これは仕方のないことなのです。幸いにもまだ大学3年生の3月。今からしっかり対策すれば問題ありません」
ぐぬぬ。
「ああああっくそっ! わかった、ではまず何をすればいいんだ!」
就活といきなり言われても、そんなことを考えた経験などない。
何をすればいいのか見当がつかない。
「まず自己分析から始めましょう。このワークシートを使って……」
そう言ってセバースはA4サイズのプリントを取り出す。
しかし、
「自己分析だと? そんなことする必要はない」
私はセバースの手を抑えてそう言う。
分析などしなくても自分の性格ならわかるはず。
なのに、どうしてそんな面倒をしなければならないのだ。
「しかし姫様、自分のこともわからずに就活を進めるのは……」
「おいおい。私のことは私が一番知っている。
例えばセバース、お前は私が今朝何を食べたか知っているのか!?」
「『ザブンプレミアム』の家系豚骨風カップラーメンでしょう」
……なんで知ってんねん。
「では、私が今最もハマっているアニメが何かわかるか!?」
「イヌマンボウ先生原作のTVアニメ『無能力の王女はいらない、と王宮を追い出された私が隣国のイケメン王子に溺愛されて困っているのですが、どうすればいいのですかこれは!?』でしょう。
……あの姫様、私どもは姫様を追い出したりしないのでご安心を」
「あああああああああ!!!! なんで貴様知っている!! 変態執事め!!! まさか最近私が読んだちょっと18禁にしないとダメなレベルなのになぜか全年齢扱いのBLのことも知っているのか!?」
「いえそれは知りません」
「くっ……殺せ!」
「殺しません」
私の懇願もむなしく、変態執事は無慈悲に断る。
ゲスめ!
仕切り直し、私はセバースに言う。
「ともかく、私は自己分析しなくて大丈夫だ。次はどうすればいい」
「それなら、企業研究ですね」
……企業研究?
姫騎士の就活 しまかぜゆきね @nenenetan_zekamashi
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