第47話 世界に一つ

クレドに教えてもらった道具屋「二匹のカラス」での買い物を終えたミル、マムル、リンティの三人は、続いてスベンの工房「大地の選鉱」へと向かった。


マムルが見つけてくれた、あの小さな銀朱色の魔鉱石について、スベンの意見を聞きたいと思ったのだ。


工房に入ると、スベンはちょうど作業をしていたところだった。三人の姿を見ると作業を中断し、笑顔で迎えてくれた。


「おう、お嬢さんたち! よく来たな! その後ライフルは調子どうだ?」

スベンは早速、冥色の魔法式ライフルについて尋ねた。


「はい! スベンさんに改造してもらったライフル、すごいです! 魔物にもちゃんと通用するし、どんどん馴染んできます!」


ミルは先日のナピリカスとの戦闘でのライフルの活躍を興奮気味に語った。リンティもまた、クニャックを撃退できたことなど、自身の近況を報告した。


スベンは二人の話に耳を傾けながら、満足そうに頷いている。自分が手掛けた武器がきちんと冒険者の役に立っていることを喜んでいるようだった。


話が一通り終わったところで、ミルはマムルが発見した銀朱色の魔鉱石を取り出した。


「あの、スベンさん。実は、この前、採掘地でこういう石を見つけたんですけど……」


ミルは手に乗せた小さな銀朱色の魔鉱石をスベンに見せた。スベンがルーペで覗くと、黄色味を帯びた赤い輝きが、さらに増して見えた。


スベンはその魔鉱石を見て目を細め、手に取った。


「ほう……これは珍しい……銀朱色の魔鉱石か。しかも、純度が高い」


スベンは以前冥色の魔鉱石を見た時と同じように、真剣な表情で魔鉱石を調べ始めた。


「この銀朱色の魔鉱石は、冥色の魔鉱石と同様に非常に価値がある。特殊な攻撃や魔法攻撃への耐性はもちろん、特に精神的な干渉や状態異常に対する耐性を高める効果がある」


スベンは銀朱色の魔鉱石の特性を説明した。その効果は、クニャックのような精神攻撃に耐性を増すという点で、ミルにとって非常に興味を惹くものだった。


「こんな小さな欠片でも純度が高いから、それなりの価値があるだろう。このサイズなら、換金するだけでも銀貨20枚くらいにはなるかな」


スベンの言葉に、ミルは思わず驚いた。小指の爪ほどもない小さな欠片が、銀貨20枚もの価値を持つことに驚愕したのだ。それは、前回のナピリカス討伐の報酬よりも多い金額だった。


マムルも、自分が拾った石がそんなに高いものだったのかと目を丸くしている。


「そんなに……!」


しかし、ミルはその銀朱色の魔鉱石を売る気にはなれなかった。これは、マムルが危険な採掘地で偶然見つけてくれた、かけがえのない魔鉱石だ。


「これを売っちゃうのは、ちょっと……」


ミルはどうするか思い悩んだ。手元に置いておいても、このサイズでは武器や防具に加工するには小さすぎる上、装飾品にするには少々無理があった。


「ふむ……そうか、マムルが見つけたものだったか」


スベンはミルの様子を見て、それがマムルが発見した特別なものであることを察したようだった。そして少し考え込んだ。


「それなら、これを売るんじゃなくて、何か別の形にしてみないか?」

スベンが提案した。


「別の形に?」


「ああ。このサイズだと、装備品への加工は量が少ないため効果も期待できず、加工は難しい。せいぜい収集家の観賞用にしかならないだろう。だが……」


スベンはマムルを見た。


「マムルのために、この銀朱色の魔鉱石を、原石のままペンダントにしてあげるのはどうだ? 小さな欠片とはいえ、この輝きは十分美しい」


スベンは、マムルのためのペンダントというアイデアを提案した。それは、ミルの心を強く打つ提案だった。


マムルが初めて見つけた大切な魔鉱石を、彼女自身のためのペンダントにする。これほど素敵なことはない、とミルは思った。


「え! いいんですか!? マムルのペンダントに!?」

ミルは目を輝かせた。マムルも「マムルのペンダント!」と嬉しそうに飛び跳ねている。


「ああ、これくらいサービスだ。こうやって遊びに来てくれるし、例のライフルも気に入ってくれてるようだからな。それに、こんな素晴らしい魔鉱石を見つけてくれたマムルへのプレゼントだ」


スベンは快く引き受けてくれた。そして、余っていた材料を組み合わせて、あっという間にペンダントを仕上げた。


銀朱色の魔鉱石を細い金属製の枠に嵌め込み、小さな鎖を取り付ける。シンプルな作りだが、銀朱色の輝きが際立つ美しいペンダントになった。


「わあ! きれい!」

ミルは完成したペンダントを見て、感動した。


「どうだいマムル? 気に入ったかい?」


スベンはマムルにペンダントを見せた。マムルは自分のために作られたペンダントを見て、大喜びした。


「わあ! キラキラ! マムルのペンダントだ!」


マムルは嬉しそうに、ペンダントを首から下げた。小さなペンダントが、マムルの可愛らしさをさらに引き立てている。


「スベンさん、本当にありがとうございます! 大事にします!」


ミルは心から感謝の言葉をスベンに伝えた。リンティも、スベンの心意気に感心したようだった。


「お前さんたちには、もっと良い魔鉱石を見つけてきてもらいたいからな。またいつでも来るといい」


スベンはそう言って、三人を見送ってくれた。


スベンの工房を出たミルとマムル、リンティは、マムルが手に入れた世界に一つしかない銀朱色のペンダントを見て、喜び合った。


それは、単なる装飾品ではなく、マムルの優しさ、スベンの温かい心、そして三人の友情の証でもあった。


クニャック討伐という困難なクエストを乗り越え、思わぬ形で手に入れた銀朱色の魔鉱石は、ミルの冒険者としての成長に繋がる、忘れられない思い出となった。そしてマムルにとっては、初めて自分で見つけた宝物となったのだ。

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