第11話 旅立ちと仲間
採掘街ダイガーツまでの護衛クエストを受注してから、出発まではあっという間に過ぎていった。ミルは新しい魔法式ライフルの点検に余念がなく、旅に必要な道具の準備に追われていた。リュックサックには、食料や水筒、着替え、そして初めて手にした短剣などが次々と詰め込まれていく。マムルもミルの準備を手伝おうと、小さな体でちょこまかと動き回った。
「これも持っていこう!」「あれは大丈夫かな?」ミルの手伝いをしながら、マムルも声に出して確認する。初めての本格的な長旅を前に、二人は興奮と緊張がないまぜになっていた。リンティもまた、自分の魔法道具の手入れをしたり、薬を調合したりと、忙しそうに過ごしている。
そうして慌ただしく準備を進めるうちに、旅立ちの朝を迎えた。少し冷たい早朝の空気の中、ミルは孤児院の門の前でシスターヨアンに見送られた。
「ミル、マムル。気をつけていくのよ。決して無理はしないこと。」
シスターヨアンは心配そうにミルの手を取った。その手は温かく、ミルの心に安心感を与えてくれる。
「うん! 大丈夫だよ、シスター! リンティも一緒だし、新しい武器だってあるんだ。それに、今回のクエストにはベテランの冒険者さんも一緒なんだって!」
ミルはシスターを安心させようと、精一杯の元気で答えた。隣では、マムルも小さな手で一生懸命シスターに手を振っている。
「いってきまーす! お土産、いっぱい持ってくるねー!」
「ええ。楽しんで、無事に帰ってくるのよ。」
シスターヨアンは優しく微笑んだが、その目にはやはり心配の色が浮かんでいた。ミルの初めての冒険者としての旅立ちを、心から案じているのが伝わってくる。
シスターに見送られ、ミルとマムルは街の門へ急いだ。
そこが、今回の護衛パーティの待ち合わせ場所だった。すでにリンティは到着しており、ダントと共に門の前に立っている。
ダントの隣には、見慣れない二人の人物がいた。今回の護衛を共にする、経験豊富な冒険者たちだろう。
一人は、大柄な男性だった。背が高く、がっしりとした体格で、腰には立派な長剣を携えている。顔立ちは少し厳めしいが、どこかお調子者な雰囲気を漂わせている。
もう一人は、細身で知的な雰囲気の女性だった。短剣を腰に差しているが、それ以上に目を引くのは、腰からいくつもぶら下げた様々な薬瓶や袋だ。
「これで、みんな揃ったな。君がミルとマムルか。ダントさんから話は聞いているぜ。」長剣を携えた大柄な男性が、陽気な声で話しかけてきた。
「紹介しよう。彼はバイス。長剣を扱う前衛担当だ。普段はお調子者だが、腕は確かだよ。」ダントがその男性を紹介した。バイスはカラリと笑う。
「バイスだ。よろしくな、新米冒険者さん! あんまり緊張するなよ、俺たちがついてるんだから、大丈夫だぜ!」
陽気なバイスの雰囲気に少し圧倒されながらも、ミルは頭を下げた。
「ミルです。よろしくお願いします!」マムルも「よろしくねー!」と元気よく声を上げた。
次に、ダントは女性の方を紹介した。
「そして、彼女がリエット。バイスのパートナーで、短剣も扱うが、本職は調剤師だ。回復薬から劇薬まで何でも調合できるし、香を使って魔物を遠ざけたりもできる、頼りになる存在だよ。」
リエットは穏やかな笑顔でミルに挨拶する。
「リエットです。ミルさん、マムルちゃん。どうぞよろしくね。初めての遠出かな? 何か困ったことがあったら、遠慮なく声をかけてね。」
リエットの優しそうな雰囲気に、ミルはホッとした。ダントに不安を抱かれた時とは違う、心強い安心感があった。
「ミルです! こっちはマムルです! よろしくお願いします!」
ミルとマムルは改めて自己紹介した。こうして、今回の護衛パーティ――ダント、リンティ、バイス、リエット、そしてミルとマムルの5人+1匹――が、ついに顔を合わせたのだった。
「よし、全員揃ったな! それでは、出発するとしよう!」
ダントが力強く号令をかけた。門の前には、大きな交易馬車が待機していた。街で買い付けた商品や加工品が、たっぷりと積み込まれている。
リンティが護衛の配置を決めた。
「私とリエットは馬車の前に。バイスとミルは後ろについて。マムルはミルと一緒で構わないわ。」ミルはバイスと共に馬車の後ろにつくことになった。
ダントが馬車に乗り込み、御者が手綱を握った。やがて馬車はゆっくりと動き出し、街の門をくぐった。
ダイガーツまでの旅路が始まった
。街道は舗装こそされていないが、馬車が通れるように整備されており、比較的歩きやすい。リンティとリエットが馬車の先を歩き、ミルとバイスがその後に続く。
「あんまり気負うなよ、ミル。今回の護衛は、あくまで念のためだからな。普通にしてりゃ、何事もなく着くはずさ。」
後ろを歩きながら、バイスがミルに話しかけてきた。その気さくな話し方に、ミルの緊張も少しずつほぐれていく。
「はい! でも、もし魔物が出たら、頑張って撃ちます!」
ミルは手に持った魔法式ライフルをぎゅっと握りしめた。
「はっはっは! その意気だ! でも、無理はするなよ。俺たちがちゃんとカバーするから。」
バイスは豪快に笑った。リエットは時折、周りの木々や草むらに目をやり、注意深く周囲を警戒している。
旅路は順調に進んだ。頭上には青空が広がり、鳥のさえずりが聞こえる。街道沿いの風景は、街の近くの景色とは趣を変え、次第に自然豊かなものになっていく。危険な魔物が出没する気配もなく、穏やかな時間が流れた。
昼頃になり、一行は街道脇の開けた場所で休憩を取ることになった。楽しみにしていた昼食の時間だ。
「さあ、みんなで飯にしようぜ!」
バイスが声をかける。各自、持参した食料を広げた。ミルは孤児院で作ってもらったサンドイッチを取り出した。マムルはリンティが分けてくれた甘いパンを嬉しそうに食べている。
ダントは保存食の干し肉をかじり、リンティは携帯食料を口にする。リエットは、自分で調合したという栄養満点のシチューを温め始めた。
「どうぞ、ミルさん、マムルちゃん。よかったらこれも。」
リエットがミルとマムルにシチューを分けてくれた。温かくて優しい味のシチューは、緊張で少し疲れた体に染み渡るようだった。
「わあ、美味しい! ありがとうございます、リエットさん!」
「ほんとだ! 体がポカポカするねぇ!」
ミルとマムルは顔を見合わせ、シチューの美味しさに感動しながらリエットに感謝を伝えた。
昼食をとりながら、自然と会話が弾んだ。バイスはお調子者ぶりを発揮して皆を笑わせ、リエットは落ち着いた口調で様々な知識を披露してくれる。リンティは相変わらず少し高飛車な態度だが、可愛いマムルにはデレデレで、そのギャップがまた皆を和ませた。ダントは寡黙なままだが、時折相槌を打ったり、静かに笑みを浮かべたりしている。
初めて会ったばかりのメンバーだったが、昼食を共にするうちに、互いの人となりが少しずつ見えてくる。特に、バイスとリエットという経験豊富な冒険者が一緒なのは、ミルにとって何より心強い。
旅はまだ始まったばかりだ。この先どんな困難が待ち受けているかは分からない。だが、頼りになる仲間たちと一緒なら、きっと乗り越えられる。ミルはそんな思いを胸に、午後の旅路へと向かう準備を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます