幕間 彼女は普通に幸せな恋をする

 放課後、墨田るいは廊下を走っていた。1組に行くために、まだいるかも知れない明智蒼汰に会うために。

 その頭の中にあるのはもちろん明智蒼汰……と言いたいところだったがもう一人、こんなに大事なタイミングでも頭から離れない人がいた。


 神谷世名、るいの師匠?になった人。最初は変な人だと思っていたけど相談に乗ってくれて、親身に考えてくれて、行動を起こす勇気をくれた人。


 明智蒼汰のことはもちろん好きだ

 明智くんは「クラスを間違えた可哀想な生徒」を助けてくれた。でも世名様は「私」のことを見て背中を押してくれた!


 今回の件で神谷世名は完全に特別枠になった。彼女にとって世名は誰よりも大切な人と言えるだろう。



「明智くん、いる?」


 るいは恐る恐る教室のドアを開ける。するとそこにはなぜか蒼汰が一人でいた。

 こんなタイミングで一人でいてくれたなんて、るいは天が味方してくれていた気がして告白するなら今しかないと強く思った。


「あ、えっと墨田さん、だよね」

「急にごめん!だけど私、伝えたいことがあって。その、私、明智くんのことが好きです!付き合ってください!」


 覚悟を決めても声は震える、何もスムーズ言えなくて。でも伝えることはできた。あとは答えを待つだけだ。

 るいは蒼汰のことをまっすぐに見つめた。


「えっと、ありがとう。告白とか初めてされたからさ、素直に嬉しいよ。……ごめん、実は墨田さんが俺のこと好きなの知ってた」


 彼は気まづそうに目を逸らす。


「友達に言われてさ」


 あんなに大きな声で話してたのだから当然と言えば当然だ。るいは過去の自分の行動を呪った。


「その……テンパっちゃってさ、つい墨田さんのクラスの人に相談しちゃったんだよ。ほら、あの首席の友達の東雲ってやつ」


 首席の友達……世名様のことか!明智くんは勘違いしちゃってるんだな。


「そしたら、『相手は本気だったんだから、人に聞かずに自分で答えを出せ』って言われて」


 やっぱり世名様は私のことをちゃんと見てくれている。るいは告白中にもかかわらず世名への信仰心を少し高めた。


「最初は断るつもりだったんだよ。正直、俺、墨田さんのこと何も知らなかったし」


 その言葉で一気に現実に戻される。当然だ、そう思いつつも彼の言い方にどうしても一筋の希望が捨てられない。


「でも……その、本気なんだって分かってさ。そしたら、俺もなんか、もっと知りたくなって……。中途半端かもしれないけど、それでも……友達から、始めてもいいかな?」


 別に彼は選択から逃げているわけではないのだろう。考え抜いた上で保留ではなく友達からという選択をした。


 本当は今すぐに付き合いたい。これからあるたくさんの行事も彼女として入れたならきっと何倍も楽しいものになる。

 けど、これが彼の誠意だってわかったから。私のことをちゃんと考えてくれたんだってわかったから。


「うん、いいよ」


 それは、るいにとってこれ以上ない答えだとわかった。


 …これで終わりでもいいのだろう。でもこのままだと友達のまま終わってしまいそうで嫌だった。


 ふと、るいの頭に妙案が浮かんだ。


「あのさ、名前で呼んでもいいかな?」

「えっ…ああ、もちろん」


 るいは付き合えたらいうつもりだった言葉を今言うことにした。


「じゃあ蒼太くん!これからよろしくね!」


 絶対に付き合うという思いを込めて、自信に溢れた笑顔で言った。


 その笑顔は魅力的で、紛れもなく世名が与えた自信と勇気によって生まれたものだった。


「っ!」


 …彼の動揺にるいが気づくことはなかった。


 彼女と彼は決して天才ではない。でも、だからこそ彼女は普通に幸せな恋をするだろう。

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