幕間 天才じゃないので踏み込めない
「ここが知怜の家か。というか世名、なんであいつの家知ってるんだよ?」
「何度か家の近くの話してただろ?そこから推測すれば分かるじゃないか?やれやれ、これだから凡人は」
気持ち悪っ……。
疲れのためか善意か、口に出すことはなかったが秀は確かに思った。
世名も知怜もストーカーになったら別ベクトルで厄介なやつだな。
「こんにちは〜。……誰もいないな、どうしよう?」
「ドアが空いてる。さっさと行くぞ、こんなことに天才の時間を使うなどもったいないだろ!」
「おいっ」
そう言いつつも秀は止めない。正直もう疲れていた。
「えっ!せせせ世名さん!なんで僕の家に……あっごめんね、部屋散らかってて。今片付けるからちょっと待ってて!」
部屋に入った瞬間知怜の声が響いた。
こいつ、昼間倒れたくせに元気だな……秀はそう思って呆れながら知怜のことを見たが、そこで違和感に気づく。
なんかこいつ顔赤くないか?いや世名と話してるときはだいたい赤いけど……今回はそういうのじゃなくて、まるで風邪?
よく見ると動きも少しフラフラしている気がする。
「熱は計ったか?」
「へ?熱?あぁ37.9℃だったから大丈夫だよ」
「何が大丈夫だよ!普通に風邪だろ!」
「いや、風邪は38℃からだから今回はセーフだよ!」
よくわからんことをさも常識のように語る知怜を見て一抹の不安を覚えた秀は部屋を見渡す。
机の上にはどう考えてもさっきまで使ってたであろう参考書と文房具……
「お前さっきまで勉強してただろ」
「もちろん!世名さんと勝負するんだから今回も勝たなくちゃ!」
一応前は引き分けだったのにちゃっかり勝ちにカウントしてるな……。
とにもかくにも言葉だけなら健気に頑張るいい子だが、秀は流されたりなどしない。
「病人が勉強してんじゃねぇ!さっさと休め!」
「じゃあベッドには入るから単語帳だけ……」
「いいから寝ろ!」
「そんな殺生な……」
秀はなんとか知怜を寝かせることに成功した。
はぁ、なんで寝かせるだけでこんなに疲れるんだ?
というかお前も手伝えよ、世名!
そう思って横を見ると、世名は部屋にある大きな棚を見ていた。そこには大量の参考書と賞状がある。
「……なんでこんなに頑張るんだろうな?」
「はぁ、頑張って成し遂げたいことでもあるんじゃないか?」
「……ふん、わざわざ頑張るなんて」
「……凡人は、大変だな」
その言い方にいつものような力はない。知怜を馬鹿にする響きもなく、自分に言い聞かせているようだった。
しばらくの後秀は口を開く。
「……世名。……ずっと聞きたかったんだが」
「もう荷物は持ってきたんだ!帰らせてもらおう!」
「は?おいっ、人の話を……」
次の瞬間には世名はいつもの調子に戻り、声もいつもの傲慢な響きをちゃんと持っていた。
結局今回も踏み込めない。どこまでいっても凡人な秀にはこの先に踏み込む勇気がもうちょっとだけ足りなかった。
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