4.婚約解消、そして・・・-2-






 話はシェリアザードが倒れる時まで遡る。


 浮かない表情を浮かべながらもシェリアザードは馬車に乗ってタタン公爵家に向かっていた。


 馬車に乗ってからどれくらいの時間が経っていたのだろうか。


 気が付けばタタン公爵家に着いていたのでシェリアザードは馬車から降りると、出迎えたメイド達に案内されるままお茶会が開かれる庭園に向かって歩いていく。


「アーヴェル様を呼んで参ります。シェリアザード王女におかれましては、アーヴェル様がお越しになるまでの間、公爵家自慢の花を愛でて下さいと、奥方様からお言葉を賜っております」


「分かりました」


 婚約者であるアーヴェルには好意を抱けないが、タタン公爵家お抱えの庭師が手入れしている、庭園を美しく彩る色鮮やかな花には罪がない。


 アーヴェルが姿を現すまでの間、シェリアザードは花の鑑賞を楽しもうと、庭園を歩き回る事にした。


 花の王である牡丹、花の女王である薔薇やダリアも美しいが、勿忘草もスイートピーも可愛らしい。


 そんな事を思いながら歩いていると、庭園の片隅から声が聞こえる。


 誰か逢引きでもしているのだろうか?


 邪魔するのは無粋だからその場から立ち去ろうとしたシェリアザードの耳に聞き覚えのある声が入ってきた。


「ミラ。お前はシェリーなど足元にも及ばない・・・本当に可愛くていい女だ」


「本当ですかぁ!?それでしたらぁ、シェリーではなくぅ、ミラとぉ、結婚してくださ~い♡」


「それは無理だ。だが、俺はミラを・・・愛している。だから、お前を妾として迎え入れる」


 シェリアザードには公爵夫人としての仕事をしてもらうが、妾であるミラは自分を楽しませる為にドレスと宝石で着飾ればいいのだと、ミラを抱き寄せたアーヴェルがきっぱりと言い切る。


「分かりましたぁ♡それにしても・・・シェリーって本当に可哀そうですねぇ」


 婚約者であるアーヴェルには振り向いて貰えないわ


 女としても男爵令嬢に負けているわ


「人間としてもぉ、シェリーは終わっていますねぇ」


 ミラはぁ~♡


 アーヴェル様がぁ、欲しいですぅ~♡


「ミラ・・・」


 女神にも譬えられる華やかな美しさの中にも可憐さと淑女として優美な気品、ある種の近寄り難さのあるシェリアザードとは異なり、親しみのある可愛らしい顔立ちなのに男好きする体つきをしているミラ。


 アーヴェルはシェリアザードには仕事をさせておけばいいと口にしているが、タイプの異なる美しさを持つ二人をアーヴェルはアーヴェルなりに愛している。要は二人を傍に置きたいのだ。


 この場に居ないシェリアザードに対する罪悪感ゼロなアーヴェルとミラは外というシチュエーションに興奮しているのか、いつになく激しく情を交わす。


「お二人とも、随分とお楽しみでしたわね・・・」


「「シェリー!!?」」


 まさか自分達がしているところを見られているなんて夢にも思っていなかったアーヴェルとミラは、音を立てる事なく自分達の前に出現したシェリアザードに驚きを隠せないでいた。


「ち、違うんだ!シェリー!お前は女だから理解出来ないだろうが、男は発散させないといけない!だが、お前は結婚するまでは触れさせない女だ。だから俺はミラで発散させるしかないのだ!!!」


 アーヴェルの言い訳にシェリアザードは思い出す。



『ユースティア!今のそなたは私の番であるが、まだ幼子だ。そなたに触れてしまえば私の愛が暴走して愛しいそなたを壊してしまう。故に後宮の女達で発散するしかないのだ!!!』



 白竜族にとって例え番が幼くても手を出すのが愛情なのだそうだ。


 勿論、最後の一線は越えないが。


 だが、ジュスティスはユースティアに触れていない。


 その言葉が原因でユースティアはジュスティスが囲っている後宮の雌トカゲ共だけではなく、ジュスティスが一番信頼している乳母からも虐げられる事になったのだ。


「あ、あ・・・っ」


 ユースティアだった時に雌トカゲ共から受けた仕打ちを思い出したシェリアザードが瘧のように震え、形の良い方の序の口唇から空気を引き裂くかのような悲鳴が上がる。


 そして次の瞬間───シェリアザードの身体が赤く爛れたのだ。


 シェリアザードの悲鳴を聞き付けたタタン公爵家の庭師に下働きの者達、若い執事にメイド、果ては公爵夫妻が慌てて庭園に駆け付ける。



 お前達はシェリアザード王女に何をしたのか?



 突然の出来事に処理が追い付いておらず間の抜けた顔と裸体を晒しているアーヴェルとミラは、公爵夫妻の問いに返答する事が出来ないでいた。


「こ、公爵様、奥方様・・・アーヴェル様は、タタン公爵家は代々優れた火魔法の使い手を輩出しております」


「恐らくですが、メイドのミラとの一時をシェリアザード王女に見られてしまったアーヴェル様は・・・」


「ち、違う!!俺は、私はシェリーに何もしていない!!!」


「アーヴェル様の仰る通りです!!!」


 アーヴェルとミラは声を大にしてそう訴えるのだが、公爵夫妻達は二人の言い分を信じないでいる。


「アーヴェル!ミラ!お前達の処遇は陛下に決めて貰う事にする!!!」


 今はシェリアザードの手当てと何があったのかを報告するのが先決だと、タタン公爵は王宮に使いを送る。







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