4.婚約解消、そして・・・-1-






 当然と言えばいいのか分からないが、アメシスティナ王国の王女であるシェリアザードには婚約者が居る。


 婚約者の名前はアーヴェル=タタン。


 タタン公爵家の長男で次期公爵という立場にあるのだが───実はシェリアザード、アーヴェルに対して好意はおろか親友のような思いをどうしても抱けなかったりする。


 顔はいい方に入るとシェリアザードはそう思っている。


 それこそ乙女ゲームの攻略対象者になりそうなレベルのイケメンって奴だ。


 でも雰囲気がチャラい。


 ・・・・・・尤も、簡単にヒロインに落ちそうという印象が強いから難易度で言えばイージーというか、チュートリアルになるのかも知れない。


 だが、アーヴェルはある考えを持っていた。


 女にモテるというか、黄色い声を上げて貰いたいというか、とにかく女を侍らせるのが公爵家・・・男のステータスという考えだ。


 だからなのか、やたらと婚約者であるシェリアザードの肩を抱こうとしたり、腰に腕を回してくるのだ。


 シェリアザードにとって、こういうのは本当に困る。


 しかし!


 シェリアザードがどんなに嫌っていてもアーヴェルは父である国王が決めた婚約者。


 結婚するまでは指一本触れさせん!というオーラを隠しつつ


「シェリー・・・いいだろ?」


「アーヴェル様!私は清い身体でアーヴェル様に嫁ぎたいのです」


(婚約者でなかったらテメェのようなチャラ男に私の事をシェリーって呼ぶ事を許してねぇわ!)


 という風に言葉と仕種でさり気なくアーヴェルを拒絶する日々を送っているのだ。


 父よ。何故、あなたはアーヴェルのような無類の女好きを私の婚約者に選んだのだ?


 結婚したら・・・私はあの男とファイト一発をしないといけないの!?


 いーやーだー!!!


 私の好みはレオンハルト様のような御方なのに!!!


 レオンハルト様とは結ばれないと決まっているのだから、園宮 真珠だった時のように、おひとり様を満喫したいのに!!!


 心の中で父親に対してシェリアザードが愚痴を零す。


 同じ政略結婚でもレオンハルト様のように雄っぱ・・・ではなく、立派な大胸筋を持っているのに趣味はドールハウス作りと蒐集という殿方が良かった。


 アーヴェルと顔を合わせる度に心の中で父に対して愚痴を零いているのだ。


「明日はアーヴェル、様と顔を合わせないといけないのよね・・・」


「姫様・・・アーヴェル様は陛下がお決めになった婚約者ですもの。仕方ありませんわ」


「そうね・・・」


 自分では小声で呟いたつもりだったが、明日の月一のお茶会でアーヴェルと顔を合わせないといけないという事で憂鬱になっていたからなのか、ステファニーに聞こえてしまうレベルの声で愚痴を零してしまったみたいである。


「ステファニー。もしかして・・・私の独り言が聞こえてしまったり、する?」


「はい。ですが私は姫様の気持ちが理解出来ます!」


 あんなチャラ男が姫様の夫になるなんて・・・姫様を侮辱するようなものです!


 い~え!


 凌辱ですわ!


「そうね・・・私もそう思う。夫となる殿方が無類の女好きであったとしても、チャラ男であったとしても、アメシスティナ王国の為になるのであれば、アーデルハイドお姉様のように政略結婚も厭わない考えを持っているのよ?」


 でも、結婚したらアーヴェルあれと初夜を迎えないといけないのかと思うだけで・・・


「初夜ってカップ麺・・・ではなく、天井のシミを数えている間に終わるのかしらね?」


 アーヴェルが自分以外の女に手を出していたら、婚約を白紙に出来るのにな~


 他の女に手を出していてくれないかな~?


 そんな事を思いながらシェリアザードは窓から見える景色を眺めながら溜め息を漏らす。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆






 月一のお茶会から数日後


「姫様!?お目覚めになられたのですね!!」


「シェリアザード王女・・・」


「「「シェリー!!」」」


(えっ・・・?)


 自分でも知らないうちにシェリアザードは気を失っていたようだ。


 目が覚めた時、ステファニーとラクシャーサだけではなく、両親と長兄の顔面ドアップが映り込んだのだから驚いてしまう。


 簡単に話を纏めると、アーヴェルはタタン公爵家のメイドであるミラ=エクレア男爵令嬢と出来ており、二人が庭園の片隅で抱き合い情を交わしあっているところを目の当たりにしてショックを受けている私に対して婚約者だという男は火魔法を放って重度の火傷を負わせたらしい。


 自国の王女と婚約しておきながら男爵令嬢との浮気。


 浮気がばれたら開き直って、未遂とはいえ浮気相手と共に婚約者であるシェリアザードを殺害しようとした罪。


 当初のアーヴェルとミラは無罪を訴えていたらしいが、尋問の末に二人は罪を認めた。そして二人の有責という形でシェリアザードとの婚約を解消の上、慰謝料を払う事になった。


(タタン公爵家とエクレア男爵家から多額の慰謝料が私の元に入ってきたのだけど・・・・・・倒れている間に何があったの!!?)



 何があったのかは、人伝だと前置きした上でステファニーが話す。






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