第8話 王の評価と、迫りくる影

「夜蛇の爪団」のアジト摘発と人質救出は、王都に大きな衝撃を与えた。カイトとリリアの活躍は、もはや「まぐれ」や「奇策」といった言葉だけでは片付けられないほど、多くの人々に認められるようになっていた。

特に、カイトの【付着】スキルが、直接的な戦闘力はなくとも、使い方次第でこれほどまでの成果を上げられるという事実は、王国の騎士や魔術師たちにも新たな視点を与えた。


数日後、カイトとリリアは国王エルネストに再び召見された。

玉座の間には、騎士団長や側近たちも顔を揃えている。その雰囲気は、以前カイトが「ゴミスキル」と蔑まれた時とは全く異なっていた。

「相馬海斗殿、リリア・フォン・アストレイア殿。この度の働き、誠に見事であった」

エルネスト王は、威厳の中にも温かみのある声で二人を称えた。

「身に余る光栄です」

カイトとリリアは、並んで頭を下げる。


「特にカイト殿。君のそのユニークなスキルは、我々の想像を遥かに超える可能性を秘めているようだ。当初、君の力を正しく評価できなかったことを、この場で詫びたい」

国王が深々と頭を下げたことに、カイトは驚き、慌てて顔を上げた。

「そ、そんな、国王陛下! 頭をお上げください!」

「いや、これは当然のことだ。君の機転と勇気がなければ、多くの犠牲者が出ていただろう。そして、王都の闇に巣食う『夜蛇の爪団』の存在も、これほど早く露見することはなかった」


エルネスト王は、リリアにも視線を移した。

「リリア殿。君の騎士としての資質、そしてカイト殿との見事な連携も素晴らしかった。正式に、君を王国騎士団の騎士に任命する。これからも、その剣で王国を守ってほしい」

「はっ! 騎士の誇りにかけ、この身命を捧げます!」

リリアは、感激に声を震わせながら、力強く答えた。長年の夢が叶った瞬間だった。彼女はカイトの方をちらりと見て、小さく微笑んだ。カイトも、心からの祝福を込めて頷き返した。


国王はさらに続けた。

「『夜蛇の爪団』は、まだその全貌が明らかになっていない。逃げた者たちもおり、王都、いや、王国全体にとって大きな脅威となる可能性がある。そこで、カイト殿には、今後も特殊任務班のような形で、この事件の捜査に協力してもらいたい。もちろん、リリア騎士も、カイト殿のサポート及び護衛として、共に任務にあたってもらう」

「はい、喜んでお受けいたします!」

カイトとリリアは、声を揃えて答えた。


謁見が終わり、玉座の間を出ると、リリアは感極まった様子でカイトに抱きついた。

「やった…やったぞ、カイト! 私、本当に騎士になれたんだ!」

「おめでとう、リリア! 本当によかった!」

カイトもリリアの肩を叩き、喜びを分かち合った。周囲にいた騎士たちが、微笑ましそうに二人を見ている。


しかし、喜びも束の間、彼らには新たな任務が待っていた。

騎士団長から、「夜蛇の爪団」に関するこれまでの捜査資料が渡され、逃亡した幹部たちの特徴や、彼らが関与している可能性のある他の事件についての情報が共有された。

「奴らは、単なる誘拐集団ではないようだ。あの儀式も、何か邪悪な目的のためのものだった可能性が高い。慎重に捜査を進めてほしい」

騎士団長の言葉は重い。


カイトとリリアは、専用の作戦室を与えられ、本格的な捜査を開始した。

カイトは【付着】スキルを応用し、押収された「夜蛇の爪団」の持ち物から、微細な痕跡――髪の毛一本、布の切れ端、特殊な薬品の匂いなどを「付着」させて収集し、それらを繋ぎ合わせて情報を分析する。

リリアは、その情報を元に、王都内の怪しい場所を巡回し、聞き込みを行ったり、時には力ずくで情報を引き出したりした。


「カイト、この紋章に見覚えはないか?」

リリアが、ある貴族の屋敷の裏口で見つけたという、小さな金属片を持ってきた。そこには、蛇と鎌の紋章が微かに刻まれている。

「これは…『夜蛇の爪団』の紋章だ! まさか、貴族の中にも協力者が…?」

カイトの顔に緊張が走る。


二人は、その貴族の屋敷を密かに監視することにした。

数日間の監視の末、深夜、屋敷から怪しげな人影が出てくるのを目撃する。それは、先日逃亡した「夜蛇の爪団」の幹部の一人に酷似していた。

「間違いない…あの貴族は、奴らと繋がっている!」

リリアが確信する。


しかし、相手は力のある貴族だ。下手に手を出せば、政治的な問題に発展しかねない。

「どうする、カイト? 証拠を掴まないと、騎士団も動けないぞ」

「ああ、分かってる。今夜、あの屋敷に忍び込んで、決定的な証拠を探し出す」

カイトは決意を固めた。


その夜、カイトは再び闇に紛れて貴族の屋敷に潜入した。【付着】スキルで壁を登り、音もなく屋敷内を進む。リリアは外で待機し、万が一の事態に備える。

屋敷の中は広く、警備も厳重だった。しかし、カイトは【付着】スキルを巧みに使い、警備の目をかいくぐり、書斎と思われる部屋にたどり着く。

そこには、帳簿や手紙の類が山積みになっていた。


カイトは、それらを一つ一つ手に取り、【付着】スキルで内容を「読む」――正確には、インクの僅かな盛り上がりや紙の質感から、重要なキーワードや紋章などを感知する特殊な使い方を編み出していたのだ。

そして、ついに決定的な証拠を発見する。

それは、「夜蛇の爪団」の首領と思われる人物からの指示が書かれた密書だった。そこには、次の儀式の場所と日時、そして、さらに多くの「生贄」を要求する内容が記されていた

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