第4話:いきなりボス戦かよ!!!
この学院は外へ繋がる道が多いようで、先ほどから廊下と庭園を繋ぐ通路が目に入っていた。
それが魔族の侵入する経路になったわけだが、いつもは美しい花畑が広がる庭園を見渡せるのだろう。不穏な空気が漂い悲鳴が聞こえる中とはいえ、この景色には少し心が癒される。
その中に、何の迷いもなくバーレイグは突入していった。
すぐ後に俺も続いていく。
「はあああッ!」
すると、大きな声が聞こえた。
可憐な女性の声ではあるが、戦士の如し覇気がこもっていた。よほど強いに違いない。
「ノルナ! 状況は!」
「殿下っ! そこにいるのは——まさか聖女アトラ!?」
庭園の中心——見るも無惨に破壊された噴水や
剣士は青髪で、氷のように冷たい色をしている。
服装も、バーレイグほどではないにせよ、品位を感じさせる。
そんな彼女もまた、ゲームキャラの一人——王国騎士団団長ノルナ・フロステインだ。
「あぁ。他のところを任せて悪かったな、ノルナ」
「いえ、殿下の望みを叶えるのが我らの職務ですから」
一方、魔族の方は、他の魔族とさまざまな点で異なっていた。
まず体格。筋肉が通常の魔族の二倍近くあり、一目で強さが分かる。
さらに目を引くのは外見だ。
紫色の鎧が電気をバチバチと弾けさせている。あの鎧は魔力で形作られており、魔法抜きでは破るのが難しい。
顔を隠している幾何学模様の奇妙な仮面も、不気味さを増幅させている。
「
魔族には、
目の前にいるのは、まさにその内の一体。雷属性の鎧が特徴であることから、
それに、仮面をつけているのは長しかいない。
これは強者の証であり、人類にとっては恐怖の象徴になっている。
長は、突如増えた相手に困惑しているのか、力量を見定めているのか——どちらにせよ、攻撃の手を止めた。
おかげで多少話をする余裕が生まれる。
「聞いたことがあります。通常の魔族より数段強い、正真正銘の化け物だと……」
「あの拳で二発も殴られれば、恐らく死んでしまう。アトラ様の回復能力に任せきりにするのも憚られるし……どうしたものか」
彼の分析は正しい。
俺らのレベルがどれほどかは見えないが、HPやレベルが最大でも、何の防御もなしであれば数発で死ぬ。レベルが低ければ一発だ。
とにかく回避するか、シールドを貼れるキャラを用意した上で短期決戦——というのが、ベストな戦い方となる。
だが、ここにシールドキャラはいない。
バーレイグはアタッカー、ノルナはサブアタッカー、アトラは分からないが、少なくとも聖女はヒーラー。攻撃も出来るが、やはりメインは回復。
つまり、「ひたすら回避」が前提となるのだ。
「私であれば、倒せるでしょうか……」
「希望的観測で動けるほど余裕はない。だが、こいつを止めなければより大きな被害が生まれてしまう」
剣を握る手に、その声に、力が入っている。
死者や負傷者を一人でも減らそうという思いが、その圧からひしひしと伝わってくる。
「グッグッグ……!」
突如、長は大樹のような腕を振り上げた。
太陽が隠れ、周囲が一気に暗くなる。
「うわあああっ!?」
巨大な影に入った瞬間、俺の身体は持ち上げられ、視界が目まぐるしく変化した。
しかし、別に吹き飛ばされたという訳ではない。
俺の腰をガッチリとホールドしているのは、何を隠そうバーレイグだった。
横にはノルナもおり、彼女はバーレイグを庇おうと動いているように見えた。
——そして、石が砕け散り、地震のような爆音が鳴り響く。
「なんて威力だ……」
「実際に対面したのは初めてですが、やはり威力はとんでもないようですね……」
ノルナの言葉通り、笑えないほど威力がおかしい。
長の腕は石畳にめり込んでおり、周囲もその影響でヒビ割れている。
これをたった一匹の生物が平然と行うことの異常性は、そのまま危険性と言い換えられる。
今回は回避できたが、これを何度も避けるなんて考えたくもない。
一回でも失敗したら
「その、援軍とかは無いんですか……?」
「それは私からご説明します」
「ノルナさん……ですね。お願いします」
俺の弱音みたいな呟きに対し、凛とした表情で剣を構えたまま、彼女——ノルナは話し始めた。
「結論から言えば、援軍は来ます。我々王国騎士団の精鋭たちがこちらへ向かっています。ですが、急を要する事態のため、機動力のある我々三人——殿下と私、そしてもう一人が先行して救援に来たのです」
「あとどれほど待てば良いのでしょうか……」
「ざっと10分くらいでしょう」
その答えに、俺は「10分……」と零した。
短いようで長い。長が相手ならば死んでもおかしくない時間だ。
とはいえ、逃げ出しても意味はない。
どうせ追いかけっこになる。体力のない俺はすぐ殺されて終わりだ。
「ここで戦うのが一番良さそう、ですね」
「アトラ様。いきなりこんなことに巻き込んでしまい申し訳ない。僕らにもっと力があれば——」
「仕方ないですよ。例え未来を予測できても、変えられないことだってきっとありますから」
「……あぁ、そうだな」
話し合いは終わったか——と言わんばかりに、長はその巨体を動かし始める。
鎧から弾ける電気は勢いを増し、戦意の高ぶりを示しているように見えた。
「来るぞ!」
バーレイグが叫んだ次の瞬間、左から巨腕が迫っていた。
やはり俺が狙いなのか、拳は真っ直ぐにこちらへ襲いかかってきている。
ここから回避は間に合わない。ならば——!
「光よッ!」
全身が熱を帯び、それをすぐに放出する。
放たれた光は、レールガンの如き直線を描き、長の拳を精確に貫いた。
「グルッ……!?」
「かはっ——!」
長の拳から腕にかけて穴が空き、血が吹き出ている。
しかし、拳の勢いを止めることは出来ず、俺は胴体を思い切り殴られてしまった。肺から空気が漏れ出て、一瞬の酸欠状態になる。
「息がっ……!」
殴打の勢いで空中浮遊を体感したのも束の間、俺の身体はトピアリーに思い切り埋もれる形で動きを止めた。
「はぁ……はぁ……クソッ、いってぇなぁ……!」
前世で感じたどの痛みよりも痛い。少なくともトラックに跳ねられたくらいの怪我を負っているはずだ。正直、今こうして生きていること自体が奇跡に思える。
葉っぱが緩衝材になったとはいえ、突き出した枝が背中に刺さっていて鋭い痛みがする。さらに、さっきの攻撃で肺の酸素は足りなくなったし、口の中はどこかを切ったらしく血の味しかない。腹部に至っては焼けるように熱い。
——まさに満身創痍。最悪だ。
俺が生きているのも、ゲーム的に考えれば、HPの多さが要因の一つに違いない。聖女でなければ死んでいたな。
「祝福よ!」
自分に治癒をかけ、怪我を全て治していく。
臓器を損傷した腹部から枝が刺さった背中、どこかを切った口腔と、全身の痛みはすぐに引いていった。
「よし、決めた。これは俺自身への誓いだ。だから——」
——あの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます