第2話 幼なじみとの放課後ⅰ

 僕の名前は【有栖川渚ありすがわなぎさ】。

こんな女の子みたいな名前だけど僕は男……、だった。

だったのに、女の子になってた。

何っているか分からないと思うけど、僕も正直よく分からない。


「驚いた〜〜。渚がこんなに可愛くなるなんて」

「そうね、それにちっちゃくて可愛い」

「やめろ。頭撫でるな。突っつくな」


 僕は椅子に座った詩音しおんに抱き抱えながら、愛玩動物を愛でるようにクラスメイトの女の子たちに囲まれている。

近い、でかい、身長が低いせいで顔が胸に当たる。

それに……。


「ん?」

「なんでもない」

「えぇ〜、気になるなぁ〜〜」


 前より詩音との距離が近くなった気がする。

物理的にも……、胸の柔らかいアレが当たって落ち着かない。

あれ……、僕はいつから詩音から距離を取ってただっけ……。


「おーい、ホームルーム始めるぞ。おいあかつき、お前はさっさと自分の教室に戻れ」

「はーい。またね、渚」

「う、うん……」


 先生のお陰で僕はやっと解放された。

傍から見たら楽園のような空間だっただろうけど。

僕からしたら悪夢だ。

普段から詩音と和樹かずきの幼なじみカップルを邪魔する邪魔者として常に陰口を言ってた連中が、手のひらを返すごとく急に愛で始めたら怖いだろ。実際。


「あっ、あぁ……。お前があの有栖川なのか」

「先生〜、特に驚かないですね」

「まあ、そういうこともあるだろう」

「軽っ!?」


 ふむ、たしかに軽い。

というか元々ダウナー系の人だけど、単に興味ないだけなのか。

それとも……。


「それより、今日は校外学習の知らせだ。しっかり確認しておけよ」

「「「「はーい」」」」


 うん、いつも通りの先生だ。

思ってたよりも対して気にしてないみたいだ。


♡♡♡♡♡


 昼休み。

僕はいつもの場所で詩音と和樹と一緒に弁当を食べていた。


「おい、詩音。いつまで渚のそばにいる」

「いいじゃん別に。今は女の子同士なんだし」

「ほう……」


 やめたまえ。

僕で争うのは、やめたまえ。

普段から争ってる気がするけど、今回は特に酷く感じる。

なんだこれは……。

僕は普段から2人がイチャイチャするカップルスタイルが好きで、だから僕はどんなに陰口言われても折れることがなかったのに……。


「あの……、2人とも。そんなに喧嘩しないで」

「ごめんなさい。渚」

「あぁ、すまん」

「うん、ありがとう。2人が喧嘩してるところ、もう見たくないから……」


 そう言うと2人が落ち込む。

それはある事件がきっかけで僕が2人から心理的に離れてしまった話。

別に対して暗い話ではないし、終わってしまえばただの笑い話だ。


「あのさ、詩音」

「何?、渚」

「今日の放課後、下着とか服とか買いたいk――」

「いいね。行こう」

「あのま――」

「そうと決まれば早速」

「お願いだから待って」


 相変わらず詩音は僕のことになると恋人の和樹を放っておいて優先してくる。

もう少しみんな公認のカップルだと自覚してほしい。

いや、嬉しい。

嬉しいだけど……。

また良からぬ噂立てられたら困るし。


「和樹はどうする?」

「俺?。俺なんかが行っていいのか?」

「うん。その方が僕は安心するから」

「そうか、分かった」


 照れくさそうに返事をする和樹。

後ろから詩音がとんでもない圧かけてくるけど……。

ごめん、なんか2人だけで行くと何か良からぬ展開に発展しそうだからね。

別に2人の恋路の邪魔する訳じゃないし、今日だけだからね。


♡♡♡♡♡


 時は流れ放課後。

僕は詩音と和樹がよく一緒に行くというショッピングモールに来ていた。

店舗数が多く、娯楽もある複合施設のため、洋服だけでもグラデーションのある値段幅の店舗の数がある。

その中で、まずは大事な下着の方へ。

もちろん和樹は店の外において入る。


「うぁ……、いっぱい……」

「でしょ〜」


 普段は入ることの許されない、恋人ぐらいしか許されないような男子禁制の聖域。

色とりどり、大きさが様々な下着がそこにはあった。


「これかわいっ……!?」

「ん?。どうしたの。それ、可愛いね」


 値札を見た僕はそっと戻そうとするのだけど、詩音に見つかって制服の上から合わせてくる。

すっごく恥ずかしい……。

スポーツブラのようなワンポイント付きシンプルな下着。

白とピンクの少し幼い感じのカラーリング。


「どうせなら試着してみない?」

「えっ!?」

「いいですね」

「店員さん、お願いします」

「はい」


 突然の提案とスっと現れた店員さんの奇襲に、気がついたら店の更衣室に入っていた。

何たるスピード。


「はぁ……。それにしても、またこんな機会に巡り会うなんて」


 鏡に写る少女……というか自分が笑う。

未だに自己意識が安定しない。

まだ初日だから仕方ない。

しかし、いったい何時ぶりなのだろうか、詩音と一緒にこうして出歩くのは。

もう、遠い昔のよう。


「渚〜、着てみた」


 僕はシャーッとカーテンを開けた。

下着を着た僕を見てなんと嬉しい顔をしているのだろうか。

飾り気のない純粋な笑顔。

そうだったね。

僕が好きな詩音の笑顔は確かこんな顔だった。

その意味では女の子になって良かった……と思う。


「それじゃあ、次はこれも着てみようか」


 前言撤回。

元に戻してください。神様。

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ボクは理想の『恋人』になれますか? アイズカノン @iscanon

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