第4話 AI講座狂想曲 ~賢者の箱と未来予測~
講座の開始時刻が迫り、ゆきは商業ギルドの大ホールに設けられた演台の前に立っていた。さすがは王都の商業ギルドだけあって、会場は広く、すでに多くの受講者で席が埋まりつつある。頑固そうな年配の商人、目を輝かせている若い商人、中には半信半疑といった表情で腕を組んでいる者もいる。
(予想よりも人が多いようですね。ちょっと緊張してきたまいりました……いえいえ、私としたことがっ 永遠のじゅうななさいは、いつだってクール&ビューティーでございますからね)
ゆきは軽く頬を叩き、気合いを入れ直した。傍らには、島田さんが心配そうに、そして若干ハラハラした面持ちで控えている。
やがて開始の鐘が鳴り、会場が静まり返った。ゆきは
「ワイドアイランド王国商人ギルドの皆さま ごきげんよう 本日、中央政府魔法技術局より派遣されてまいりました、AIスペシャリストの聖女ゆき、永遠のじゅうななさいでございます」
会場から、若干のどよめきと、ヒソヒソ声が聞こえてくる。
「……じゅうななさい」
「おい、あの講師、大丈夫か……」
「ギルドの資料には自己紹介の後『ヲイヲイ』とツッコミを入れると指示があるぞ」
「「「ヲイヲイ」」」
(はいはい、お約束の反応どうもありがとうございます。 でも、ここからが私の本領発揮でございますからね)
ゆきは気にせず、講座のタイトルを
「題して『未来を拓く魔法の叡智 人工知能活用入門~商人ギルド特別編~』パチパチパチ~」
自ら拍手をしながら、ゆきはAIについて説明を始めた。
「皆さん、AIって何だか知ってますか 難しく考えなくて大丈夫でございますよ。 例えるなら『異世界の賢者の知恵がたくさん詰まった魔法の箱』みたいなものでございます」
ゆきは、AIを馴染み深い言葉で表現しようと努めた。
「この魔法の箱は、たくさんの情報……例えば、皆さんの大事な帳簿の記録とか、お客さまの好みとか、天候の移り変わりとかを記憶して、それを元に『未来を予測する水晶玉』みたいに、次に何が起こるか、どうすればもっと商売がうまくいくかを教えてくれるんです。 まあ、水晶玉と違って、使い方次第で精度はぐーんと上がりますよ」
受講者たちは、最初はぽかんとしていたが、ゆきの熱心で分かりやすい(そして時折コミカルな身振りを交えた)説明に、次第に引き込まれていった。
「例えば、在庫管理 皆さん、どの商品がいつどれくらい売れるか、頭を悩ませていらっしゃいませんか。 AIを使えば、過去の販売データや季節の変動、さらには街の噂話まで分析して、最適な在庫量を教えてくれますの。 これで、品切れでお客さまをがっかりさせることも、売れ残りで倉庫がパンパンになることも減らせますことよ」
「それから、新しい商品のアイデア 例えば、ワイドアイランド王国名物の『もみじマントゥーラ』 AIに今までの人気フレーバーのデータや、流行りの味の傾向を分析させれば……『次はピリ辛カカオ風味もみじマントゥーラが来る』なんて、斬新な予測をしてくれるかもしれませんことよ。 まあ、本当に売れるかどうかは、試してみないと分かりませんわ」
ゆきの具体的な(そして時々突拍子もない)例え話に、会場からは少しずつ笑い声や感心の声が漏れ始めた。
そして、質疑応答の時間。早速、腕っぷしの強そうな魚屋の店主らしき男性が手を挙げた。
「お嬢ちゃん そのAIちゅうもんは、わしが何十年もかけて編み出した秘伝の干物のタレのレシピも作れるんか。 わしより美味いタレができたら、わしゃ商売あがったりじゃ」
会場がどっと沸いた。ゆきはニッコリ笑って答える。
「ふふふ、いい質問ですね。 AIは確かに新しいレシピを提案できるかもしれません。でも、あなた様が長年培ってきた経験と勘、そして何より『心』を込めて作るタレの味は、AIには決して真似できませんわ。 AIはあくまで道具。あなたの素晴らしい技術を、さらに多くの人に届けるためのお手伝いをする、それがAIの役目なんです」
ゆきの答えに、魚屋の店主は「ふむ……」と唸りながらも、どこか納得したような表情を見せた。
その後も、「AIが儂より儲けたらどう責任取るんじゃ」「AIに仕事を奪われるんじゃないか」など、珍質問や不安の声が飛び交ったが、ゆきは一つ一つ丁寧に、そしてユーモアを交えながら答えていった。
当初は戸惑いや懐疑的な視線が多かった会場も、講座が終わる頃には、多くの商人たちがAIの可能性に目を輝かせ、熱心にメモを取る姿が見られた。中には、「あのじゅうななさいの嬢ちゃん、なかなかやるじゃないか」と囁き合う声も聞こえてくる。
(おほほほ どうかしら これが永遠のじゅうななさいの実力でございますわ)
ゆきは、満足感と心地よい疲労感に包まれながら、深々と一礼した。ワイドアイランド王国の商人たちの心に、AIという新しい風を吹かせることができたようだ。
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