第5話 魂の味とギルドの夜
講座は大成功のうちに幕を閉じた。
アンケート結果も上々で、
「最初は講師が若すぎてどうなることかと思ったが、話が面白く、AIの可能性を感じた」
「我が商店でも導入を検討したい」
といった前向きな意見が多数寄せられた。島田さんもホッとした表情で、ゆきに深々と頭を下げた。
「聖女ゆき様、本日は誠にありがとうございました。おかげさまで、我々ワイドアイランドの商人たちも、新しい時代への一歩を踏み出す勇気を得たことと存じます」
「どういたしまして でも、聖女さまではなく、ゆきちゃんってお呼び頂ければ結構でございます。 私、永遠のじゅうななさいでございますので」
ゆきの言葉に、島田さんは苦笑いを浮かべつつも、「……はい、ゆき……ちゃん」と、少しだけぎこちなく呼び方を変えた。
その夜は、商業ギルド主催の懇親会が、ギルド内のレストランで開かれた。昼間の講座に参加していた商人たちも多く顔を出し、和やかな雰囲気だ。そして、もちろん、テーブルにはワイドアイランド王国の名物料理が並ぶ。
「さあ、聖女さま、いや、ゆきちゃんさま どうぞご遠慮なく こちらは今朝獲れたばかりの新鮮な海の幸でございます」
島田さんに勧められるまま、ゆきはキラキラと輝く海の幸に目を奪われた。特に、ぷりっぷりの牡蠣
(ついにいらっしゃいましたね。牡蠣さま お待ちしておりましたわ)
そして、宴もたけなわとなった頃、大きな鉄板を備えた一角で、何やら見覚えのある料理が作られ始めた。そう、お好み焼きだ。しかも、それを焼いているのは……
「あっ あの時の頑固オヤジさん」
ゆきが指差した先には、昼間、ゆきを「ワイドアイランド風」の一言で震え上がらせた、あのお好み焼き屋の店主がいた。どうやら、ギルド御用達の料理人としても腕を振るっているらしい。
店主もゆきに気づき、一瞬気まずそうな顔をしたが、すぐにニヤリと笑い、ヘラで「こっちへ来い」と合図をした。
ゆきは恐る恐る近づくと、店主は手際よく焼き上げたお好み焼きを、ゆきの皿にドンと乗せた。
「嬢ちゃん、今日の話、なかなか面白かったぞ。AIだかなんだか知らんが、わしらの商売も、ちいとは変わるかもしれんな」
ぶっきらぼうな口調だが、その声には昼間のような怒りはなく、むしろ親しみが込められている。
「ありがとうございます。 おじさまのお好み焼き、やっぱり最高に美味しゅうございますわ」
ゆきが満面の笑みで答えると、店主は「当たり前じゃ」と胸を張った。
「おじさま。今度私がAIで、『世界一売れるお好み焼きソースの配合』を予測してさしあげましょうか」
「な、なんじゃと」
再びカッとなりかける店主だったが、ゆきがケラケラと笑うのを見て、つられて破顔した。
「……まあ、お前さんの言う『えーあい』とやらが、この味を超えられるんなら、いつでも挑戦受けて立つわい」
そう言って、店主は新しいお好み焼きを焼き始めた。その顔は、誇りに満ち溢れていた。
ワイドアイランド王国の人々の温かさ、地元への深い愛情、そして新しいものを受け入れようとする柔軟さ。ゆきは、この国の持つ独特の魅力に、すっかり心を奪われていた。美味しい料理とお酒、そして賑やかな会話。商業ギルドの夜は、こうして楽しく更けていった。
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