第12話 赤城凛2
赤城はボールを拾い上げると、すぐに練習を再開した。俺はベンチに腰を下ろし、ただ漠然と彼女の動きを眺める。
ドリブル、シュート、レイアップ。昼間に見たのと同じぎこちない動き。何度シュートを放ってもボールはリングに嫌われ、外れる。彼女の顔には焦りと悔しさが募っていく。
重心の位置がおかしい。それは昼間から気づいていたことだ。シュートを放つたびに、重心が前後左右にブレる。加えてボールをリリースするタイミングも毎回バラバラだ。腕の振りも、肘が外側に開いてしまっている。
そんなもの、入るはずがない。
彼女はまたシュートを外した。ボールが遠くまで転がり、赤城は疲れたように膝に手をつく。
「……あのさ」
俺は、なんとなく口を開いた。
目の前で非効率なことを延々と繰り返しているのを見るのは、なんだか落ち着かない。間違いを修正したいという、どこか事務的な欲求に近いもの。
「ん、なに?」
赤城は荒い息を吐きながら、俺の方を振り返った。
「シュート打つとき重心が前後にブレてる。打つ瞬間に足裏全体で地面を捉えられてない。あと肘が外側に開いてる。もっと内側に締めて、ボールをリリースする高さを一定にした方がいい。靴も良くないかも」
俺は自分が気づいたことを、ただ淡々と、箇条書きのように伝えた。具体的な修正点と、それをどうすべきか、簡潔に。
赤城は俺の言葉に、呆然とした顔で立ち尽くしていた。その表情には、驚きと、そして微かな戸惑いが混じっていた。
「……え、なに? なんでそんなこと知ってるの?」
彼女の疑問に、俺は答えなかった。正確に言えば、答えられなかった、が正しいのかもしれない。
俺にとってそれは「知っている」ことではなく、「見ればわかる」ことだったからだ。身体の動き、筋肉の連動、重心の移動。生き物として当たり前の範疇だろう。自身の身体を操作できなくて、どうして外敵から命を守れるというのか。
まぁ、俺の場合は外敵ではなく親だったわけだが。
いかん、気分が下がる。考えないようにしよう。
「……一回、やってみな」
俺がそう促すと、赤城はまだ戸惑いながらも、ボールを拾い上げた。そして、俺の言葉を思い出すように、ゆっくりと、何度も確認するようにシュートフォームに入っていく。
足裏で地面を捉え、肘を締め、重心を固定する。
そして、放たれたボールは、リングのど真ん中に吸い込まれるように入った。
ゴトン、と乾いた音が、静かな夜の公園に響き渡る。
赤城は入ったボールを信じられないといった顔で呆然と見つめていた。その瞳は、驚きと、信じられないものを見たかのような輝きを宿している。
まぁ、まぐれだな。偶然だろう。
「……え、うそ……! 入った……!?」
彼女はボールが落ちてきたのも構わず、興奮した様子で俺の方を振り返った。その顔は満面の笑みだ。
「神原……あんた、すごいね! なんでそんなこと分かるの!? もしかしてバスケやってたの?!」
興奮した声で、彼女は矢継ぎ早に質問を投げかけてくる。その瞳には、俺への驚きの色が濃く現れている。
「やってない。というか、多分周りのバスケ部の人たちも気付いてたと思う。俺にわかって、バスケ部の人にわからないわけがない」
割とマジで。
だが、赤城は俺の言葉を信じない。その顔には新しい光を見つけたような、純粋な喜びが溢れている。鬼気迫った、まるで人のことを気にする余裕がない赤城の方が楽で良かったな……。
「すごいよ神原! ねぇ、もう少し見てくれる?!」
「いや帰る。風邪引かないようにな」
信じられないような目でこちらを眺め、凄い顔をしている赤城を置いて、俺は速やかに帰宅した。唯一の観客である俺が帰って、まともなシュートを成功させるという目標を達成した赤城はきっとさっさと帰るだろう。帰ってくれないと困る。
悪いがうちには地味に家計を圧迫し始めている図々しくも弱弱しいよくわからない女が来る予定なんだ。
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