第34話 救世主
遥斗君が図書館を出ていくとすぐに校内放送が始まった。
「学校内に入る生徒の皆さん!! 魔物の大量出現が確認されました。校舎内にいる生徒たちも校庭にいる生徒たちも速やかに体育館へ避難してください。これは訓練ではありません。魔物を刺激無いように気をつけながら直ちに体育館へ避難してください! 校内では体育館だけが魔物の攻撃に耐えることができます!! 速やかに体育館に避難してください」
校内放送は何度も繰り返されている。私もすぐに体育館に向かった。様々な部屋で部活をしていたのか多くの生徒が私と同じように廊下を走っていた。
(遥斗君がノア!? 信じられない……)
頭の中は遥斗君のことでいっぱいだった。先ほどの映像が衝撃的過ぎて正直まだなにも受け止められないでいる。
(今は余計なことを考えてる場合じゃないわ。生き残ることだけ考えないと!!)
廊下の窓からは校舎の裏側にある第二グラウンドが見えた。図書館から見た光景と同じようにおびただしい数の魔法陣が浮かんでいた。
私は以前、魔物学の授業で習った内容を思い出した。
魔法陣が浮かんでから魔物が現れるまで平均して13秒かかり、召喚された魔物が周りの様子を伺って行動を開始するまでの時間は12秒だと先生が言っていた。
二つを合わせた25秒間が生死を分けることになる。
(急がなきゃ!)
魔物の大量出現と遥斗くんのことで、流石に頭がパニックになりそうになるが、なんとか冷静さを保ち、私は体育館へ続く階段を降りていった。
私が体育館に逃げ込んだ時には、すでに大勢の生徒たちが避難していた。鉄格子付きの窓の向こうには大量の魔物が佇んでいるのが見えた。
体育館は外につながる扉が一つを残して全て閉まっていた。唯一開いている扉の前に教師達が集まり、何やら揉めていた。周りの生徒たちは教師達の会話を不安な様子で見つめていた。
「校長先生! お願いします!! 早くここを閉めてください!! 魔物に侵入されたら、ここにいるみんなが死んでしまいます!!」
「それはできません!! まだ、避難できていない生徒がいるのです!! あそこを見てください!!」
何人かの生徒たちが魔物の横をすり抜け、こちらに走って来るのが見えた。
「早く逃げてー!!」
「追いつかれるぞ!! すぐ後ろにいる!! 急げーー」
二階のギャラリーからは窓を少しだけ開けて、生徒たちが大声で叫んでいた。
私も窓に駆け寄って外を見た。何人かの生徒が走ってきていたが、後ろから狼型モンスターが追ってくるのが見えた。
あの魔物はA級に分類される【ポイズンウルフ】だ。一噛みでも攻撃を受けたら、そこから猛毒が入り、わずか数分で命を落としてしまうと以前授業でならっていた。
「もうだめだ!! 奴に入られたらお終いですよ!!」
「校長!」
「人一人が通れるだけ開けておいて、あの子達が中に入ったら一気に閉じましょう!! 教育者として生徒たちを見捨てるわけには絶対に行きません!!」
逃げてきた最後の生徒が中に飛び込んだ瞬間、校長先生が口を開いた。
「今です!!」
校長先生の合図を聞き、屈強な男の先生たちで四人で素早く扉を閉めようとした。しかし、魔物は鉄の扉を押し破り中に入ってきた。扉を押していた教師たちは数メートル吹っ飛ばされて倒れこんだ。
ポイズンウルフは上半身だけを体育館の中に入れ、中の様子を伺っている。奴の突進により鋼鉄の扉は歪んでしまっていた。
「撃て!! 撃ちまくれ!!」
拳銃を持ってきていた生徒や教師たちが一斉に発砲した。しかし、固い表皮に阻まれ、弾丸は弾かれてしまった。何発も弾を受けたはずなのに体は少しも傷ついていなかった。
魔物は周りも見渡すと、耳をつんざくような雄たけびを上げた。その鋭い咆哮に威圧されてしまったのか、私も含め誰も動くことができなかった。
私は最悪の未来を想像してしまい身体がふるえた。
「遥斗くん」
私は祈るような気持ちで最愛の人の名前を口にした。
すると、魔物の周りに金色のオーラが広がっていった。魔物を包み込んだかた思うと魔物は硬直し、一歩も動かなくなった。
そして、魔物が何かに引っ張られるように外に持っていかれ、空中に引き上げられていった。誰もが困惑して声を出せないでいる中、二階の窓から外の様子を見ていた男子の声が響いた。
「ノアだ!! ノアが来てくれたぞ!! あそこにいる」
男子生徒が指さした場所を見ると、空中に1人の人間を見つけた。よく見るとノアの周りには数え切れないほどの魔物が引き寄せられていた。
「ホントだ!! ノアがいるぞ!! みんな!! もう大丈夫だ!」
魔物学担当の熊田先生が叫んだ。それと同時に莫大な歓声が沸き起こり館内に広がって行く。
「おおーーーすげぇーーー!!!」
「頼むぞノアァーーーーーーーーーーー!!!」
「助けてぇーー」
激しい叫び声が至る所から上がりはじめた。
しかし、突然聞こえた「ガンッ」という激しい音で館内は再び静まり返った。
再び魔物が来たのではと私は考えてしまったが、音の先に魔物の姿は無かった。
先ほど曲げられ、破壊された扉が、金色のオーラに包まれながら徐々に形を変え元通りなっていった。
扉が修復されると同時に9人の生徒たちが空中に浮いたまま、体育館の中に入ってきた。9人はみな金色のオーラに包まれている。遥斗くんが運んだことはすぐにわかった。運びこまれた生徒たちが体育館にゆっくりおろされると。鋼鉄の壁が音をたてて閉じた。
再び爆発音のような歓声が館内に響き渡った。
私は上空に佇む遥斗くんから目が離せなかった。遥斗くんの周りに引き寄せられた魔物達は光の粒になって次々と消滅していく。
魔物学の授業で、学習してきたきた魔物達がどんどん倒されていく様子を前に、体育館の中はさながらライブ会場だった。
誰もが間近で行われる遥斗くんの戦いに歓声を上げていた。館内の興奮は凄まじく、感動や安心感からか、涙を流して友達と抱き合っている女子もいるほどだった。
だけど私はまだ夢の中にでもいるかのようなふわふわした感覚だった。今大活躍してるのが自分のよく知っている人だということがどうしても気になってしまい、他の生徒たちと同じように無邪気に楽しむことはできないでいた。
やがて全ての魔物が倒され、数えきれないほどの魔石が空中に浮いていた。ノアはその魔石を操作し自分が広げた袋の中に入れていった。
魔石の回収を終えると遥斗くんは別の場所に向かって飛んで行った。移動する時の戦闘機のような異常な速度と空気を切り裂く轟音に、再び大歓声が上がった。
「かっこいい……」
私は全てのことに圧倒されてしまい、それ以外の言葉は出てこなかった。
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ここまでお読みくださりありがとうございます。少しでも面白さを感じていただけたら星やハートで評価していただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。
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