第33話 しかたない 5月30日 金曜日
翌日の放課後15時30分。
俺と凛花は二人で図書館を歩いていた。今日は委員会の日ではないのだが、帰り際に凛花から少しだけ委員会の仕事をしていかないかと誘われたのだ。
今は図書館の中を歩きながら本棚に置かれている本を整える作業をしていた。一見、整理されているように見えるが、よく見ると、そこにあるはずがない本が置かれていたり、雑に本が並べられていたりするため2人で一つ一つの棚を確認して歩いている。
ただ、確認するといってもそこまで細かくは見ていない。本棚をさらっと見ていって、何か異常があったら手直しをする程度だ。本が20万冊以上あるため、丁寧にやっていったら丸一日はかかってしまうだろう。
うちの図書館は都内でも有数の蔵書数を誇る図書館だ。しかも、有名建築家に設計してもらったらしく、その内観は魔法世界に入ったかのような雰囲気と上品さを兼ね揃えている。何年か前には景観の美しさからドラマにも使われたことがあるそうだ。
俺たちはのんびり会話をしながら、本棚を見て行く。金曜日の放課後は図書館の開放は行われていないため他の生徒はおらず、人目を気にせずに凛花と話すことができた。
俺たちは30分ほど本棚な整理を続け、あらかたやり終えると、二人で空いているソファに座った。
南側は一面のガラスになっており、すぐそばまで行くと、校庭で部活動をする生徒たちの姿が見える。やや、傾き始めた日の光が館内に差し込んでいた。
「ふぅー、お疲れ様。今日はこれくらいでいいんじゃないかな」
「そうね。遥斗くんがいてくれたから割と早く終わったわ」
「それにしても凛花は真面目だなぁ。委員会の日でもないのに働こうとするんだから」
「遥斗くんって意外と察しが悪いのね」
「えっ?」
「本は好きだし、委員会の仕事も気に入ってるわ。でも、さすがに委員会がない日に働くわけないじゃない」
「えっ?」
「遥斗くんと一緒にいたかっただけよ。明日は会えないから」
「そ、そうなんだ……ありがとう」
凛花は少しだけ照れたような視線を向けて来ると同時に右手で俺の左手を握ってきた。柔らかい感触と温もりが伝わってきて胸が一瞬で鼓動を早めた。
(なんだよこの生き物。破壊力ありすぎだろ!)
窓から差し込む優しい日差し。二人だけの図書館。尽きることがない幸せと安心感が胸のを満たしていく。
手を繋いでいるのはすごく嬉しいのだが、凛花の手の温もりが気持ち良すぎて少し眠くなってきてしまった。俺は小さくあくびをした。
「遥斗くんいつもあくびしてるわね。また膝膝枕してあげようか?」
「ありがとう。でも、さすがに学校ではいいよ。人はいないけどなんか恥ずいし……」
「恥ずかしがらないで。ほらおいで!」
凛花は膝の上を叩きながら魅力的な笑顔を向けてくる。
付き合い始めた頃は、凛花は風花に比べたら真面目でおとなしい性格だから、もっと穏やかに付き合って行くのだと思っていた。しかし、実際の凛花は思っていた以上に積極的で刺激的だ。
普段は真面目で控えめなのに、恋愛においてはぐいぐい攻めてくる感じがとても愛おしく思える。ギャップの破壊力はやっぱりすごい。
(ここは学校だけど……まぁいっか!)
凛花の誘惑に抗うことができず、体を倒そうとした瞬間とてつもなく大きな叫び声が聞こえた。
ソファから立ち上がり、窓際へ駆けていく。グラウンドを見下ろすと、校庭のど真ん中に赤色の巨大な紋章が浮かび上がり、その中心にA級モンスターの『猛炎イノシシ』が佇んでいた。
近くにいる野球部の生徒たちは突然現れた直径10mを越す魔物に圧倒され、腰を抜かしている。
猛炎イノシシは辺りを一瞥すると、動けないでいる一人の野球部に向かって突進し始めた。
「まずい!」
隣から凛花の悲鳴が聞こえてくる。俺は首に付いている制御装置を引きちぎると、魔物に向かって右手を伸ばし念力を発動させた。
男子生徒の目の前で魔物は動きを止めた。余裕がなかったため、その場で猛炎イノシシの心臓に圧をかけ破裂させた。するとイノシシはグラウンドに倒れ、魔石を残して消滅した。
「う、嘘でしょ!? その眼……、ま、まさか遥斗くんが!?」
凛花は俺を見て驚愕している。無理もない。能力を発動させた時に瞳の色が変わるのは特級戦力の証だ。今俺の左目は金色に、右目は紫色に色が変化し、光を発しているはずだ。
幽霊にでも出会したかのような顔で凛花は俺を見つめてくる。間違いなくバレてしまったようだ。
俺が何か言おうとしていると、突然、腕時計とスマホが物凄い勢いで振動し始めた。それと同時にグラウンドに数えきれないほどのの紋章が浮かび始めた。
一年半前と同じ光景に俺は戦慄した。このほどの大量出現は間違いなく【死の群進デスパレード】だ。
前回は東京だけでも200名以上の人が亡くなってしまった。腕時計とスマホの振動が止まらない。おそらく至る所から救援依頼が入っているのだろう。
「ごめん! 俺、行かなくちゃ! 凜花はすぐに体育館へ!!」
「遥斗くんがノアだったの?」
「ごめん。後でちゃんと話すから!! 急いで!!」
巨大な体育館はシェルターになっている。あの中に入れさえすればまず大丈夫だろう。
俺はすぐに図書館を出て、屋上に続く階段を上がっていく。走りながらオーラを半径1キロmに展開すると状況の厳しさがすぐに把握できた。
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