第31話 デート 5月29日 木

 5月29日木曜日。


 俺は、帰りのSHRが終わるとすぐに高校を後にした。今日は立川で凛花と合流して三人で遊ぶ約束になっていた。


 中央線の阿佐ヶ谷駅に続く道の途中で風花と合流すると駅まで歩いていき、15時30分発の高尾行に乗車した。風花と途中で合流したのは俺たちが付き合っていることは周りには秘密にしているためバラバラで学校を出ることにしていたからだ。


 まあ、ほとんどの生徒は部活があるため、帰り道に人に見られる可能性はそもそも低いのだけど。一応そうした。


 平日のこの時間の電車はは空いているようで、俺と風花は椅子に座ることができた。ただ、電車の中ではあまり話すことができないため、俺も風花もあまり会話はせず、ボーっと景色を見たり、スマホを操作したりしている。


(よし。今日は言うぞ!! 少し緊張するけど……)


 目の前の窓を流れていく景色を見ながら俺は決意していた。


 今日のデートのどこかで二人に俺の仕事のことを話すつもりだった。付き合い始めてから色々考えてきたが、やはり恋人である二人にはちゃんと話すのが一番いいという結論に至った。


 正直言って秘密を明かすのは少し怖いし憂鬱な思いもあった。もしかしたら内緒にしていたことを怒られるかもしれないし、俺の正体を知ったことで今まで築いてきた関係が悪いほうに変化してしまう可能性もあるだろう。それに、正体を明かすことは、なんか自分が凄い人間だってアピールするみたいで少し嫌だった。


 また、二人が俺の正体を知ったら色々な心配もかけてしまうかもしれないし、色々負担をかけてしまうかもしれない。そんな不安も胸の中に渦巻いていた。


 ただ、宗玄も言っていたようにずっと秘密にしておくわけにもいかないだろう。二人はもう俺の恋人だ。大切な話だからこそ、二人にはちゃんと伝えておこうと心に決めていた。


♢    ♢    ♢


 立川駅には30分ほどで到着した。改札を出てすぐ右側の所に凛花が立っていた。


「お待たせー、えっ!? 制服なの!?」


 凛花はなぜか高校の制服を着ていた。今日は登校していないはずなのに。


「うん。二人が制服だから私も合わせてみたの! どうかしら?」


「めちゃくちゃいいよ! 凛ちゃん! なんか、放課後デートって感じする!!」


 風花は瞳を輝かせながらそう口にした。


「二人が制服を着て一緒にいるのを見るとまだ少し違和感があるな。でも、こうして見るとやっぱり二人ってめちゃくちゃ美人だ! 制服がめちゃくちゃ似合ってるよ」


「なによ。改まって、普段から見てるじゃない! 嬉しいけどさ」


 思ったことを口にしただけなのに凛花は少し照れているように見えた


「あれれー、今日の遥斗くんはいつにも増して飛ばしてますなぁー。まだデートは始まったばかりですぜ!!」


 風花も少し顔を赤くしている。二人ともまじで可愛い。なんかもう一緒にいるだけで幸せだった。別に今日のデートが、どこかの公園で話しているだけでも俺は大満足することだろう。


 制服姿の二人を見て改めて自分の幸運を噛み締めた。


「じゃあ、さっそく映画館に行きましょう! チケットは二人の分も先に買っておいたわ!」


「さすが凛ちゃん。気が利くね!」


「ありがとう」


 俺たち3人は映画館に向かって歩き出した。


♢ ♢ ♢


(うっま! 凄すぎだろ……)


 3時間後、俺たちはカラオケにいた。映画を観た後にファミレスで夕飯を食べて少し前に入店したところだ。


 薄暗い室内にはプロ顔負けの歌声が響いていた。歌っているのは凛花だ。なんか凄すぎてほっぺたのあたりがゾワゾワする。鳥肌が立っているのかもしれない。


 凛花が歌っているのは今までに何度も耳にしたことがある曲だったが、そこまで好きでもなかった。でも、凛花が歌っているのを聞いていると、こんなに素晴らしい曲だったのかと胸に迫るものがあった。


 歌の中に引き込まれてしまいそうな感覚に陥るほどの凄まじい歌唱力にただ圧倒されていた。


「やっぱり凛ちゃんの歌声はめちゃくちゃいいね! 遥斗くんもそう思うでしょ?」


 歌い終わった瞬間、風花が口にした。


「いやうますぎて、びっくりしたよ!! プロじゃんこんなの! 凄すぎるよ!」


「ありがとう。久しぶりに歌ったわ。やっぱり、カラオケって楽しいわね!」


 凛花は嬉しそうにしながら飲み物に口をつけた。


 次に風花が入れていた曲が流れ始め、風花が歌い始めた。


(ああ、なるほどな……、そういうことか……)


 凛花の次に歌い始めた風花の歌声を聞いて俺は完全に二人のことがわかった気がした。風花の歌唱力も凛花と同様にめちゃくちゃ高かったのだ。


(なんでもできるんだな。この姉妹は……)


 俺は、風花と凛花の能力の高さに愕然とした。おそらくこの二人は元々のスペック自体が非常に高いのだろう。頭脳や運動神経に加え容姿や人間性も全て優れているのは知っていたが、まさか歌までこんなにうまいとは思わなかった。天は二物を与えずという言葉があるが、この二人にとってはそれは当てはまらないようだ。さすがに全ての能力が高すぎる。


「二人って、本当に何でもできるんだな。歌もこんなにうまいなんて……驚いたよ」


 風花が歌い終わったタイミングで俺は声をかけた。


「えー、そんなことないよ。私達にも苦手なことってたくさんあるよ。ねっ、凜ちゃん」


「そうね」


「例えばどんなことが苦手なの?」


「うーん。私たち二人とも虫が苦手かな」


「そうね。虫はほんとに無理ね」


「苦手って、そういうのじゃなくてさ。なにか今までに他の人に比べてできないことってあった」


「うーん。それは無いかもしれない」


「たしかに。大体はやれば何とかなってきたわね。もしかしたコツをつかむのが速いのかもしれないわね」


(やっぱりな……)


 やはりこの二人は全てにおいて優れている超ハイスペック女子だ。彼氏としては二人の能力が高いことは非常に嬉しいことなのだが、ここまで優秀だとほんの少しだけプレッシャーも感じてしまう。


 少なくともこの二人の後に歌うのは少し嫌だった。


♢ ♢ ♢



 その後俺たちは2時間ほどカラオケを楽しんだ。二人はカラオケが久しぶりなようですごく楽しそうだった。凛花はアニソン、風花は恋愛ソングをよく歌っていた。


 俺も5曲ぐらいは歌ったが、他に歌える曲がなくなってしまっため、あとは二人にたくさん歌ってもらった。二人が様々な種類の歌を歌ってくれるため、少しも飽きないどころか、まるでアイドルのライブにでも来たかのように楽しかった。


「わたしちょっと飲み物入れてくるね! 凛ちゃんと遥斗くんは何か飲みたい物ある?」


「わたしは大丈夫」


「俺も、まだあるから平気。ありがとう」


 風花はグラスを持って部屋を出て行った。この店は一階のフロントの近くにあるドリンクバーで飲み物を入れるシステムになっている。


 隣を見ると凛花は楽しそうに次歌う曲を選んでいた。


 俺はカラオケに来るのはずいぶん久しぶりだったが、二人が楽しんでくれているみたいで何よりだった。


 部屋の明かりが暗いため、少し眠くなってきてしまいあくびが出てしまった。夜中の2件の任務が響いてるみたいだ。


「遥斗くん眠い?」


「平気。少し寝不足なだけだから」


「そう……」


 凛花は再びタブレット端末に目を写し、曲を選び始めた。俺はテーブルの上の麦茶を飲み、眠気をさまそうとする。


「遥斗くん、眠かったら少し横になったらどうかしら。ここを枕にしていいから」


 凛花は自分の太ももをポンポンと。二回叩いた。


「えっ!? い、いいの?」


 凛花の真意が分かるとたちまち俺の鼓動は早くなった。


「いいよ。寝心地がいいかどうかは分からないけどね」


 こんな魅力的な誘いを断る手はないだろう。俺は身体を倒して凛花の太ももに頭を乗せた。


(ああ、これやばい……最高だ……)


 スカートの生地がそこまで厚くないため太ももの感触と肌の温もりが伝わってきて、なんとも言えない心地よさだった。


 嬉しさとドキドキと気持ちよさが混じり合っていてここが天国なんじゃないかと思うほどの幸福を感じる。膝枕……、これは凄まじい発明だ。


「どうかしら?」


 ひたすら太ももを味わっていると上から声が聞こえてきた。


「……最高です」


「ふふ、それは良かった。私もなんか幸せ」


 凛花の声を聞き、愛情が込み上げてくる。


(くっそー、可愛いなーー!! ずるいよこんなの!! )


 凛花の魅力に頭がどうにかなってしまいそうだった。


 モニターからはよく分からない映像が流れ続けているが、今はその光すら美しく感じた。ほんのりと輝くランタンのような照明もこの特別な空間を彩っているように思える。


「いつもお疲れ様。寝ちゃっても大丈夫だからね」


 そう言いながら凛花が優しく頭を撫で始めた。それがあまりにも気持ちよくて、俺はさらに眠くなってきてしまった。うつろになっていく意識の中、凛花の温もりだけを感じていた。


 しかし、突然のドアの音により俺は目を覚ました。眼を開けると、入り口の近くにグラスを持った風花が立っていた。


「ちょっと凛ちゃん! なにやってるの!?」

 

 風花は俺たちを見て眼を丸くしている。


「なにって、遥斗くんが眠そうだったから膝枕してあげてるだけよ」


「そ、そうなんだ……、あっ! たしか次歌うの凛ちゃんの番だよね。膝枕は私が代わるから大丈夫だよ! 遥斗くんがそこにいたら歌いづらいと思うし。遥斗くん、こっちにおいで」


 風花は俺の右隣に座ると先程の凛花と同じように、太ももを両手でポンポンと叩いた。


 凛花に膝枕をしてもらってる最中だと言うのに、風花のその可愛らしい仕草をみてドキドキしてしまった。しかし、凛花の許可もなく移動するわけにはいかない。俺はどうしたらいいか分からず動けなかった。


「別に遥斗くんがここにいても問題ないわ!」


「いやいや、流石にずっとその態勢だったら足が痺れちゃうでしょ!」


「全然大丈夫よ。一晩中だってこうしてられる自信があるわ」


 二人は互いを視線を交わしている。未だかつて経験したことないような険しい雰囲気が部屋に広がって行くのがわかった。


「お、俺もう大丈夫だよ! 眠気はなくなってきたから……」


 そう言いながら体を起こそうとしたら凛花に胸の辺りを上からを抑えられた。


「無理しないで大丈夫だよ! 遥斗くん。昨日あまり寝てないんでしょ? もう少し休んでなよ」


「えっ? あ、うん。ありがとう」


 再び二人の睨み合いが続いた。部屋の中に不思議な緊迫感が広がって行くのがわかる。


「分かったわよ。そんな泣きそうな眼で見つめないでよ風花! じゃあ2曲交代でいきましょう。それで良いでしょ?」


「うん」


「じゃあ遥斗くん。次は風花の上に行って。私が2曲歌ったらまた交代ね」


「あ、ああ……」


 俺はゆっくり立ち上がると風花の左側に座った。そして身体を倒していき頭を太ももの上に乗せた。


 正直凛花との違いなんてわからない。ただ先程と同じように言葉で表現できないほどの幸福が身体中を駆け巡っていった。


 何故だかわからないが、交代で膝枕をしてもらうことになってしまった。なんだかとても恥ずかしいのだがそれ以上に幸せでしかたなかった。


 二人はしばらくの間、二曲ごとに交代で膝枕をしてくれた。


 まるで天国をずっとループしているような心地だった。

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