第23話 無邪気な笑顔 5月21日 水

 5月21日 水曜日。

 

 月曜から続いた中間考査が4限目に終わった。

それなのに、今、俺たちは5限目の魔物学の授業を普通に受けていた。4限までテストだったのだからそのまま午前で終わりにしてほしいと、昼休みの間、クラスメイトたちは口々に言っていた。


 しばらくの間、勉強漬けの日々を送ってきているのだ。その気持ちはよく分かる。しかも、今日は6限目まであるのだ。そのため、みなモチベーションが上がらなかった。心なしか欠伸をする人が多い気がする。


 いつもだったら大盛り上がりの魔物学の授業を受けていても、今日はみんな静かだ。教師の声と、黒板に板書する音だけが教室の中に響いていた。


 外はどんよりとした曇り空が広がっていて、今にも雨が降り出しそうだ。


 ふと、隣の席を見ると風花が紙に何かを書いていた。みんな元気が無い様子なのに風花だけはどこか楽しそうだ。瞳がキラキラ輝いている。一体何がそんなに楽しいのだろうか。


 ちなみに月曜からの三日間、学校には風花が来ている。流石に中間考査は自分の力で受けなきゃだめでしょと、凛花に言われたようだ。


 そのため、俺は凛花とは日曜日以来会っていない。


 ふと、顔を上げた風花と目が合った。俺を見ると無邪気な笑みを浮かべ、またすぐに何かを書き始めた。


(かわいいなぁ。くそー)


 その笑顔があまりにも魅力的で、俺はどきっとさせられてしまう。悔しいが、俺には太刀打ちできない。軽々とこちらの防御を突き破って本丸まで攻め込まれてしまう。


 人を虜にする能力でも使えるんじゃないかと考えてしまうほど、風花の笑顔は攻撃力が高かった。たった一瞬の笑みで、とてつもない美少女だということを認識させられてしまった。


(でも今は、この人が俺の彼女なんだよな……。やばっ!)


 校内で圧倒的な人気を誇る風花が自分の彼女であることを考えると、恐ろしいぐらいの喜びが込み上げてきてしまい頭が高揚感とともにふわふわしてきてしまう。本当にこれは現実なのだろうかと、疑いたくなってしまうほどだった。


 付き合い始めてから何日たっても、このふわふわした夢の中にいるような感覚は消えなかった。


 ぽとっ


 ぼーっと風花を見ていると、机の上に小さな四角い紙が投げ込まれた。


隣を向くと風花が


「開けて」


と、ほんの小さな声で囁いてきた。紙を開いていくとそこには文字が書かれていた。


「今日遥斗くんが夢の中に出てきたよ」


 俺はすぐに紙の端ににシャーペンで返事を描き始めた。


「どんな夢?」


 俺が紙を渡すと、風花はすぐに別の紙を投げ込んできた。俺はすぐに開いて文字を読んでいく。


「私と遥斗くんが裸で布団の中に入ってた」


 心臓が跳ねるのを感じた。すぐに頭の中に具体的な映像が浮かんできてしまった。俺は慌てて風花を見る。すると、風花は驚いた俺を見て笑いを堪えていた。心から楽しそうにしている。なんてやつだ。


 なにか言い返そうと思ったが、今教室はかなり静かだ。小さな声でも周りに聞かれてしまうだろう。俺が何もできずに悔しがっていると再び紙が投げ込まれた。そこには短い文が二つ書かれていた。


「嘘だよ」


「すけべ」


 俺が風花を見るとさらにイタズラな笑みを浮かべている。風花の勝ち誇ったような顔までも可愛いのがすごくずるい。


(くそー、やられた! でも今は仕返しはできない。とりあえず授業に集中しよう! 変なこと考えちゃだめだ! これ以上、風花の策略にハマるわけにはいかない)


 そんなことを考えていると、また手紙が届いた。心の動揺を悟らせないようにゆっくりと開いていく。


「そのうちね」


 俺は風花の方を向けなかった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――


ここまでお読みくださりありがとうございます。少しでも面白さを感じていただけたら星やハートで評価していただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る