第22話 テスト勉強
お母さんが出してくれたのは野菜がたくさん入ったカレーだった。実家でいつも食べていたカレーと味が異なるがとても美味だった。食後に出てきたメロンも甘みが強くとても美味しかった。
昼食を食べている最中、お母さんともたくさん会話をしたのだが、先ほどの面接の様な雰囲気とは打って変わってとても優しかった。普段、一人暮らしで自炊していることを話したらとても褒めてくれた。野菜や果物などのお土産を帰る時に持たしてくれると言っていた。
昼食が終わると少しだけ休憩をはさんでから俺たちは勉強を始めた。今は長方形の座卓に座っている。俺の座の左側に凛花、右斜め前に風花が座っている。
(……すごい集中力だな、二人とも)
六畳ほどの和室には、二人がひたすらノートに文字を書く音だけが響いている。
現在の時刻は午後二時半、勉強が始まってからすでに一時間半が経っていた。
勉強が始まるまでは二人とも和やかな雰囲気で、とても楽しかったのだが、いざやり始めると二人とも急に一言も喋らなくなった。
ただ、教科書をめぐる音や、ノートにスラスラと何かを書く音だけがひたすら聞こえてきて俺は驚いてしまった。二人は、まるで、別の世界に入り込んでしまっているようだった。
(すごいな。一気に頭を勉強モードに切り替えられるんだから……。そりゃあ二人とも頭が良いわけだ)
凛花の方が少しだけ勉強が得意だと昨日二人は言っていたが、普段の授業の様子を見ていても風花も十分優秀だった。おそらく、差があると言ってもわずかなのだろう。
正直、先ほど二人に誘われた時は、恋人と家で勉強するのだから、ふざけ半分のなんちゃって勉強会になるのかと思っていた。
勉強をしてる体でだらだらと話して楽しむのかなと。しかし、今の二人の様子を見て、俺は自分の愚かさを痛感していた。
ただ、自分でも驚くほどここまでの時間、勉強は捗っていた。風花と凛花の二人が集中しやすい環境を作ってくれているためかいつもの2倍は没頭できている気がする。
しばらくの間集中して勉強をしていると数学でわからない問題にぶつかってしまった。しばらく考えてみたり、教科書を見てみたりしたがそれでも分からなかった。
仕方がなくどちらかに声をかけようとするが、二人はものすごい集中力で学習を進めており声をかける隙が見当たらなかった。
「大丈夫?」
途方にくれていると風花が声をかけてくれた。
「ごめん。ここ、分からなくて……」
「どれどれ」
風花はすぐに俺のノートの端で解き方を解説してくれた。すごくわかりやすく、俺はすぐに理解することができた。
「ありがとう。助かったよ」
「もぉ、前に言ったじゃん。分からないところがあったらすぐに声をかけてねって。今はもう恋人同士なんだし、遠慮しないでよ」
風花は得意げな表情を浮かべている。
「遥斗くん、風花のやり方でも、解けるけど、この問題を解くんだったらもっと簡単な方法があるわよ」
次の問題に取り掛かろうとしたとき、今度は凛花が話しかけてきた。俺のノートを自分の前に持っていくと、凛花はノートに計算式を書いていった。
ノートを見てみると確かに風花のやり方よりも手数が少なく簡略化されていた。
「おおー! すげぇ!」
確かにこれなら時間が節約できるだろう。俺は驚きのあまり声をあげた。
「体育以外だったら私の方が風花より得意だから、勉強のことは私に聞いた方が早いよ」
「いいじゃん! 私のやり方でも解けるんだから!」
得意げな凛花とは裏腹に風花は少しむすっとした表情を浮かべている。
「ばかね! より簡略化した式の方が早いし間違えにくいのよ! 数学は時間との戦いなんだから! 1番いい解き方を考えていかなきゃだめでしょ!」
「やだやだ、凛ちゃんの勉強オタク」
「風花は詰めが甘いんだから! それでたまに問題間違えるじゃん!」
「私はこれでいいの! 凛ちゃんほど頭良くないんだから!」
「ははっ」
目の前で言い合いをする二人はとても新鮮だった。昨日まで一人の人間だった存在が二人に分かれ、今は目の前で揉めている。俺はおかしくなって笑ってしまった。
「どうして、遥斗くんは笑っているの?」
「そうよ」
二人が怪訝な表情で見つめてきた。
「ごめんごめん! なんか藤野さんが、藤野さんと喋ってるのが、すごい不思議でさ。おかしくなっちゃった! つい昨日まで、俺の中では一人の人間だったからさ……。学校で誰かと揉めているところも見たことなかったし……」
「そっか、そうよね! 遥斗くんからしたら今の状況がまだしっくりこないよね」
俺の言葉を聞いた凛花が納得した、という顔を向けてきた。
「昨日は好きな人が二人になっちゃって、凄く混乱したけどさ。今は幸せも2倍に感じてる。なんか二人を見てるだけですごく癒されるよ。二人ともめちゃくちゃ綺麗だし……」
「なんか、遥斗くんって結構人間たらしだね。そんな照れること普通に言えるなんて……。すごく嬉しいけどさ……」
「そうね。少し恥ずかしいけど何も伝えてくれないより何倍もいいわね。遥斗くんの気持ちが伝わってくるわ」
俺としてはただ思ったことを言っただけなのに二人の顔は明らかに赤くなっていた。
二人の間に少しだけ感じた険悪なムードもいつの間にか消えていた。俺たちは再び勉強を、開始した。俺は自分の手に負えない問題が来た時には二人(気持ち凛花多め)に助けてもらいながら学習を進めて行った。
「あー!! 疲れた!! 私、アイス食べたい!! 冷凍庫には無いからコンビニで買ってくるけど、二人もいる?」
テスト勉強を始めてから3時間が経過した頃、いきなり風花が叫んだ。
「あ、私も食べたい!! 種類はなんでもいいよ」
「俺も食べたい。種類は風花に任せるよ。ありがとう」
「じゃあ行ってくるね」
風花は勢いよく扉を閉めて出て行った。思い立ったらすぐ行動するところが凄く風花らしいなと感じた。
「疲れたなぁー、こんなに集中したの久しぶりだ!」
俺はシャーペンを机に置き、そのまま後ろに倒れ込んだ。すると、すぐ左に座っていた凛花も後ろに倒れ込んできた。和室特有のどこか懐かしい香りがする。今はそれがとても心地よかった。
窓からは柔らかい日差しが差し込んでいる。ほんの少しだけ青空が見えた。
ぼーっとしていると凛花が手を繋いできた。
びっくりしながら振り向くと、横向きに寝ている凛花と目が合った。
「ねぇ遥斗くん」
「んっ?」
「大好き!」
「えっ?」
いきなりで驚いてしまう。めちゃくちゃかわいい。不意打ちすぎて変な反応をしてしまった。
「まだちゃんと言ってなかったから……」
恥ずかしそうに呟く凛花は言葉にできないほど可愛かった。すぐにそばに近づいて思い切り抱きしめたくなるほど、心に来るものがあった。
「ありがとう凛花。俺も大好きだよ」
「ふふ、幸せだわほんと……。結構前から好きだったから。付き合うことができて凄くうれしいわ!」
「俺もすっごく嬉しいよ」
凛花の言葉を聞いて全身を喜びが駆け巡った気がした。なんか凛花は風花よりも恥ずかしがり屋な気がする。風花よりもなんかおどおどしている。
「はぁ……」
しかし、すぐ後に凛花は小さくため息をついた。さっきまで浮かべていた笑顔が今は見られず、どこか物憂げな様子をしている。
「遥斗くん」
「どうしたの?」
「ただのわがままなんだけどね……。教室で会えない分、風花より少しだけ多めにデートしてほしいの。だめかな?」
「だめじゃないよ!」
「ありがとう」
凛花は心から嬉しそうに微笑んだ。
(近くで過ごせなくなることが嫌でまだ落ち込んでたのか……。やばっ! なんだよこのかわいい生き物は。こんなのが俺の彼女!? 耐えられないよ!)
あまりにも可愛くてなんか身体がゾワゾワしてしまった。
その後17時まで勉強をした俺は、ついに依頼が来てしまったため、うまく理由をつけて自然な形で藤野家を後にした。
長い時間一緒にいたのに、帰り際に二人が寂しそうにしていたのが凄く嬉しかった。
俺は一目につかない場所で素早くスーツを着込み、光学迷彩を発動させると夕方の空に飛び立った。
まだまだ、一緒にいたかったけど仕方ないだろう。むしろ、今日は幸運な方だった。俺は急いで杉並区へ向かった。
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