第12話: 吹雪、終焉。




【シュネートゥルム・大広間 ― 夜】


ザッ…ザッ…!


破壊された屋敷の中、急ぎ足の音が響く。

走ってくるのは、モモノスケとヒロ。


二人は階段の先を見て、目を見開く。


モモノスケ&ヒロ

「ア、アナジェ…?/マ、マティンタさん…?」


モモノスケ&ヒロ

「アナジェーッ!!/マティンタさーん!!」


ダダダッ!


二人は倒れた精霊たちの元へ駆け寄る。


ヒロ

「アナジェ! 起きて! 無事なの?!」


ヒロはアナジェの隣に膝をつき、何度も彼の体を揺さぶる。


ヒロ

「アナジェ! 君は強いでしょ!? お願いだよ…!」


ギュッ…


必死にアナジェの服を握るヒロ。その時——


アナジェ

「はぁ…ま、まだ生きてるぞ…バカ泣き虫め……」


ヒロ

「ア、アナジェ……ススッ…よかった、生きてて! パートナー!」


ぱあっ…


ヒロは笑顔になり、アナジェは目を閉じたまま、ゆっくりとヒロの頭を撫でる。

崩れた天井から、雪が静かに降り注いだ。


一方その頃——


モモノスケは倒れたマティンタにしがみつき、泣きじゃくっていた。


モモノスケ

「マ、マティンタさん! 起きてよ! 死んじゃイヤだよ…! お願いだから、置いてかないで…ススッ……」


ぽたっ…ぽたっ…


彼の涙が、マティンタの顔に落ちる。


モモノスケ

「ママも…パパも…みんなもいなくなった……

 マティンタさんだけは…いなくならないで……」


ヒロとアナジェ。


アナジェはヒロに肩を貸して立ち上がる。


ヒロはその様子を見つめ、モモノスケへと目を向ける。

彼の手が小さく震える。


ヒロ(困惑)

「アナジェ? な、なんで止めるの……?」


アナジェは無言で首を横に振る。


ヒロは再び、泣き叫ぶモモノスケを見つめた。

そして、目を閉じる。


ヒロ(心の声)

『ごめんね、モモス…。

 もし違う状況で出会っていたら……友達になれてたかもしれないのに……』


アナジェが手を離す。


二人は背を向ける。

崩れた扉を静かに歩いて出ていく。


そこに残されたのは——

ただ一人、嗚咽し続ける小さな少年だった。


...


..


.


【シュネートゥルム・森 — 夜】


二人は崩壊した大地を背に、静かに森を歩く。肩を並べて進むその先には、白く輝くポータルが浮かんでいた。


ヒロ「こ、これは……?」


アナジェ「次元のポータルだ。生者の世界と霊の世界を繋ぐ門。」


ヒロ「えっ、じゃあこれ…君が開いたのか?」


アナジェ「どうでもいい。今は急げ、すぐ閉じるぞ。」


バンッ!

アナジェがヒロの背中を叩く。


ヒロ「うわっ!いたっ!」


ヒロが前につんのめり、ポータルを通過する。


パァアアアッ…!

白い光が視界を包む。


──そして、ヒロは目を開ける。まばたきを数回した先にあったのは…日本の街。


ヒロ「も、戻ってきた……?す、すげえ……」


アナジェ「そうだ。ここが君の世界だ。」


ヒロ(ムスッとしながら)「さっきの一発、マジで痛かったんだけど!」


アナジェ「ふん、貴様は軟弱すぎる。あれぐらい、鍋で煮られた後ならご褒美だろう。」


スタスタ…

アナジェが前を歩きながらふと止まり、振り向く。


ヒュウウウ…

夜明けの風が吹き、空がゆっくりと明るくなる。二人の髪が風に舞う。


アナジェ(真剣に)「俺は誓う。お前を殺そうとする霊たちから、お前を絶対に守る。」


アナジェ「茨の道を歩いてでも、お前が傷つかぬよう支えよう。戦場では、俺が剣であり盾となる。そして──」


パァアアア…

夜明けの光が彼の背を照らす。白く長い髪が風にたなびき、破れた衣装が揺れる。


アナジェ「この魂と剣と体がある限り…俺は、お前の傍にいる。ヒロ、一緒にすべてを乗り越えていこう。」


シン……

風が吹き抜け、静寂が包む。


ヒロ「ア、アナジェ……っ!スス……!」


ポロポロ…

涙が頬を伝い落ちる。ヒロは泣きながらも微笑む。


ヒロ(心の声)『こんな恐い見た目の霊に…こんなに嬉しくて泣くなんて、俺……』


ギュッ!

アナジェと拳を合わせる。


ヒロ「うんっ!!」


──その背後、太陽が昇る。新しい一日が始まった。




【シュネートゥルム・大広間 — 夜】


アナジェとヒロが去った後…

マティンタの傍には、モモノスケだけが残された。


ポタ…ポタ…

マティンタの腹部から流れる血が床に滴る。


モモノスケ「ママ……行かないで……スス……!」


少年の悲痛な泣き声が、静まり返った屋敷に響く。


モモノスケ「……パパも、ママも、みんな僕を置いて行くんだ……やだよ……」


彼は彼女の冷たい体にすがり、嗚咽を漏らす。


モモノスケ「ママ……!ママぁああ……!」


スゥ……

その時、かすかな息遣いが──


マティンタ「……はぁ……」


まるで亡霊のような、か細い呼吸音が空気を揺らす。


ピクッ

モモノスケの目が見開かれる。動くはずのないマティンタの手が、ゆっくりと持ち上がる。


モモノスケ「……ママ……!?ま、まさか……!」


ハラハラ…

壊れた天井から、雪がしんしんと降り注ぐ。


マティンタの白く冷たい指先が、モモノスケの頬をそっと撫でる。

そして──


ツッ……

一筋の涙を、そっと拭った。

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