2章 伯父 家族

 伯父の言葉には皮肉と、どこか父への対抗心のようなものが混じっているように感じた。しかし、それだけではない、複雑な感情が渦巻いているようにも思えた。彼の言葉の真意が掴めないことが、私を不安にさせる。

「廣の家族はどうなの?」

「どう、と申しましても。」

「休みも時間も不規則で結構大変なんじゃないか?」

「いえ、時代が違いますよ。結構休めるときは休んで家族サービスもしてますよ。」 「それは結構。家庭も大事、仕事も大事。出世できるならするに越したことは無い。」伯父は続けた。「弟も結構子煩悩だったんじゃないか?ジジババも元気だったし。」

「ええ、小さい頃は色々。みんなで連れて行ってもらいましたよ。」

「だろうな。40前までは色々とな。」 伯父は間をおいて、含みを持たせて言った。

「今の廣の歳位から廣と正彦も合わなくなったんじゃないか。『情けない。うるさい、黙れ。』か。」

父の機嫌が悪いときの言葉。なぜ知っている。やはり兄弟だからか。祖父も言ってたのだろうか。

「いつの間にかそんな言葉使うようになってしまたんだろうな。社内の立場が面白くなかったんだろう。」「廣も、その立場ならわかるだろ。今はもう勘弁してやれ。」

 何言っているの?全然わかんないんだけど。父が社内でどんな立場だったのか、私は知らない。知る必要も無かった。伯父の言葉は、まるで私がその事実を知っていることを前提としているようで、完全に話についていけない。

 鍋を箸で探しながら、あまり美味しくなさそうに口に運ぶ伯父。

「俺、煮た葉っぱ嫌い。兎でも食わないぞ。」

「お父さん、好き嫌いしたら長生きできませんよ。」

「俺はお前のお父さんじゃない、と、しつこいか?」

真美さんはこの突込みのためだけにいるのか?

「……まあ、いい。長生きね、お前も知ってるだろうが、爺さん婆さんたちの家系は基本的には長生きだ。爺さんの兄弟も、その親たちも、みんなボケずに90代、中には100歳を超えてる者もいた。だが、爺さん、そして姉ちゃん、お前の親父も、わりと早くに逝った。なんでだと思う?」 私は首を傾げた。父の親兄弟で残っているのは目の前の伯父だけだ。母の親兄弟は事故で若くして亡くなった。長寿の家系かどうかは気にもしたことがない。とにかくこの叔父は回りくどい。

「婆さんはC型肝炎だからどうしようもなかったとして、他の三人はストレスが遠因にあると思ってる。主たる原因だといってもいい。」 何を言い出すんだこの人は。人の死に、明確な理由付けをする伯父の言葉に、私は不審感を抱いた。

「祖父、俺から見れば親父は自由気ままなで勝手な人。廣から見れば優しいおじいちゃん。しかしてその実態は『自分で決めた規則は正義、外れてはいけない。自分も家族も』な人だったんだ、今思うとな」 揚げ物に箸を伸ばしながら、そう切り出した。

「長男の俺が一番外れまくったんだから。親父も大したことないけどな」 淡々と一口頬張る伯父。父にも祖父に似たとこあったな、やはり血は争えない。そしてそれに反発してた若い自分を殴りたい。

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