2章 伯父 皮肉
「どうした。食事が進んでないぞ。別に今聞けとは言ってないぞ。聞きたくなったら、その時に聞けばいい。俺は好きなことして、ストレスないから長生きするからな。」
「お父さん。話が長いってば。」真美さんが助け舟を出してくれた。
「俺はお前のお父さんじゃない、旦那だ!」
……いきなり何を言っているんだ、この人は。
「おい、これ、俺の鉄板ネタなんだから反応しろよ。」
ついていけない。この状況で、冗談に付き合う余裕は私にはなかった。これ以上、伯父のペースに巻き込まれるのは嫌だ。話を変えねば。そう思って、私は口を開いた。
「伯父さん、典子さんや恵介君とは…」典子さんと恵介君は私と年の変らない伯父さんの子、私の従姉妹だ。小学生以来会っていないが…。
「ああ、30年間没交渉だぞ。なかなか聞きにくいことを聞いてくるな、お前は。それでも真美の連れ子、和也というんだが養子に入ってくれてな、なかなか面白くさせてもらってる。小学生の孫もいるぞ。」
「もう中学生ですよ、お父さん。」
「俺はお前のお父さんじゃない!はもういいか。」
「廣が知ってるのは、離婚直後の俺までだものな。甲斐性無しで嫁に逃げられた、くらいの認識だったんじゃないか。」
「いえ、そんなことは。」
その通りです。そしてそれは、今でも私が抱いていた伯父への認識だった。伯父の口から、自分の過去が、まるで他人のように語られることに、妙な感覚を覚えた。
「いいって、いいって。大きく間違ってない。二十九歳で独立自営して、最初の月は2600円だ。万円じゃないぞ円。利益じゃないぞ、売上。」
「え……。」
それにどう答えろと言うのか。全然独立自営できてないじゃないか。家族も有ったろうに。
「その頃は、いや、今でもお前の親父みたいに、安定した有名上場企業の会社員が正義だったからな。俺はまさに『落ちこぼれ』。盆や正月に帰省しても、周りの親戚からは『お前はいつもフラフラして』ってな視線だ。お前の親父なんか、わざわざ会社の自慢話をしてた。爺さんも『わしの顔が利くでかい会社に入っていれば』といつも。自分の食い扶扶くらい自分で用意するわな。コネで入社して威張ってるやつと一緒にするなってね、正直滑稽に映ったよ。姉ちゃんとこもお世辞にも高給取りでは無いし入社経緯も正彦と似たようなもんだ。苦しんだんじゃないか?」
「離婚の頃には弟くらいは稼いでたんだけどな。あ、離婚原因は暴力や不貞じゃないからな!余計悪いか!」 伯父は豪快に笑った。笑うとこ?壺が常人と違うようだ。
「そうそう、お前が就職した時の面白い話があるぞ。当時、真美とはまだ出会ってない頃だな、弟が廣が就職した先が上場会社の広告代理店で大手の電王堂の関連会社だって自慢してたんだ。」
「取引はありますが関連では無いです…そんなことがあったんですか。」
「俺もおかしいと思ったんだよ。電王堂に上場子会社なんてあったかな?とな。ほら俺、株とか趣味だから。」
「私もNISAしてますよ。投資信託を積み立ててるだけですが」
「それはいいことだと思うよ。将来を考えて少しづつでも積立てれば、心に余裕ができてストレスも減る」「俺はギャンブラーなとこあるから個別株もやるんだ。それで丁度コロナ禍の始まりでイベント関連の株価が下落してたんだよ。一年で収まる、戻りで大儲け!と思ってその業界の株買ってた頃だったんだ。」
業界各社、確かに下落したみたいですが、今はかなり上がってます。戻る前に売って損した話かな?伯父の自慢話に付き合わされているような気がして、私は少しうんざりした。
「買った会社のウェブは見るだろ。どんなことしてるか、働いてるかと。」「そしたら廣の名前を見つけた、よくある名字じゃないし間違いようがない。当時はなんちゃらプロデューサー、使い走りか?の肩書だったが、ちゃんとウェブに掲載してもらってるんだ、と。」
「そんなことで…」暇なのかこの人は。
「今でも持ってるぞ、今日の食事は君の会社の奢りみたいなもんだ。寝ずに働け、俺のために。化粧品のなんちゃらイベントも成功おめでとう。チーフプロデューサーさん」 コーラで乾杯を求められた。
「ありがとうございます」
「自慢の甥に乾杯!」
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