2章 伯父 長話

伯父は今度はお冷を口にした。

「で、通夜、葬式……相談も無く弟が喪主だよ。察する従姉妹、ずけずけ聞いてくる親戚。面白かったぞ。性格が見えてな。」

デリカシーの無い一族の代表があなたでしょう。

「そして葬式の夜だ。俺は婆さんが生きてる頃から遺産はいらないと言っていた。俺は離婚してるのでややこしくなるから。という理由にしてたが、稼いでたからな、俺。必要なかったし遺産無くてもどうにかなる予定だったんでね。」 「爺さんの頃にはどうにかなるが、充分くらいには出世してたかな。正彦も同じようなもんだろうと思ってたけど、遺産に頼る必要は無いことに変わりないので要らない、と。」「しかし俺にも欲はある、目の前で大金が正彦に行くのを笑顔で眺めてるほど人間出来てないぞ。と」

「それで帰った、と。」私は少し意地悪く聞いた。そうなるようなことをしたのはあなたでは?そんな言葉が、喉元まで出かかった。

「俺は神様仏様か。作業を手伝うけど一切稼ぎはいりません。なんてことあるか。俺はこっちにいる間、稼げるはずの所得が無いからむしろマイナス、自営業に有給休暇なんてないんだからな。」 「悪く言われてるんだろうことは知ってる、というか、その前からだしな。麻美さんの態度見ればわかるだろ(笑)」

「その時、結構な言葉で弟に罵られたよ(笑)年収とか草むしりしたとか、『おまんには何ができるんぞな』とまで言われたな。自慢の年収が俺の半分ほどしかない奴に。『お前ほどボンクラじゃない』と言い返さなかった俺は偉かった。でも今、考えたら、『なるほどそう言うことか』と判るものもある、が、腹は立つ。」

一体どういう顔をして話を聞けというのだ。伯父の言葉は、父に対する明らかな恨み節だ。そして、それを私に聞かせる理由もわからない。父のプライドをずたずたにするような言葉の羅列に、私はいたたまれない気持ちになった。この状況を早く終わらせたかった。

「多分その時の俺の顔は今のお前の顔だよ。」と大きく笑った。

帰らせてくれ。伯父の言ってることをどこまで真に受ければ良いのか。伯父の想像の産物なのか判別はできない。私は苦笑いをするしかなかった。

「姉ちゃんの所には親の生前からかなりの資金が流れてたからな、お前の所が取ればいい。と言ったんだが『きっちり3等分してやるわい!1円の端数までな!』と正彦は怒鳴り散らしてな。」 「で、分けたんですよね?」

「お前のとこがほぼ独占したよ。」

え?それは知らない。独占ってどういうこと?

「財産目録を付けずに俺ゼロの協議書に署名捺印しろと送ってきたぞ。行政書士か税理士の入れ知恵だな。錯誤でひっくり返せるのにな。もちろん間髪おかずに署名したよ。『目録、入れ忘れてますよ』但し書きしてね。」

判ってやるって、どんだけ嫌味なんだよ。父も父だが、だからこうなったのではないか?伯父の言葉に、私は怒りを覚えた。帰らせてほしい。この場から一刻も早く立ち去りたかった。

「俺に遺産が無かったことは何の感情も無い。俺が言ってたことだし。つまり爺さんの子に生まれた俺が悪いということだ。それで俺は納得してるし対処できる。」 「最終的に正式な協議書が送られてきて遺産総額が判った時は暴れたけどな。『親父!俺より少ないとは何事だ!』ってね。当時でもそこそこ資産持ってたからね、俺凄い?」

一人で笑う。この人の笑いの壺は判らない。

祖父はそれなりに財を成したと聞いてるぞ。父からも周りからも。どういうことだ?伯父の言葉と、私の知る事実が食い違うことに、困惑が募る。

「これが俺から見た相続の流れだ。そして弟が相続したものは、爺さんの土地と家、お前の住んでた家の土地、3戸アパート、現金。その他わずかに残った現金を姉ちゃんの遺族が受け取った。何か所か違和感があるだろ?」

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