エピローグ 政夫
もう梅雨明け宣言を出しても良いんじゃないかと思う今日この頃、気象庁は仕事しろよと文句を言う。
商売を後進に譲った後も俺の生活は変わらない。
朝6時過ぎに起き、亡くなった愛犬たちの遺影に挨拶する。ついでに母と親父の遺影にも。
経済ニュースを映し、デスクトップを起動させる。コーヒーメーカーの電源を入れ豆を挽く音を響かせながら冷蔵庫を開けミルクを取り出す。コーヒーメーカーにカップをセットすると真美が起きてくる。
「おはよう」「はい おはようさん」
出来上がったコーヒーと電子タバコを手に、掃き出しのサッシを開け朝の一服タイム。
タバコをくわえたまま、庭に水を撒き、芝の合間の雑草を抜いていく。毎日。少しづつ、でも手を入れた分だけ確実に理想に近づく庭が好きだ。
メールチェック。友人たちのSNS更新情報と連絡メールの中に「不動産日本」から“ご希望条件に合った物件のお知らせ”が来てる。物件確認。
ついにじゃ。思った通りじゃった。わしが言うた通りになった。誘導に乗っかってしもたがな。誰に向かって「おまんには何ができるんぞな」言いよるんじゃ。お前ら、わしの手のひらの上じゃったんじゃ。あの世で悔しがっとれや。
(小さくガッツポーズ)わしの勝ちじゃ!
あの町から、これでほんまに、わしの痕跡は何もかも無うなった。
わしの家族、やかましゅうて、あほで、騒がしゅうて、楽しゅうて、悲しゅうて、大好きで、大嫌いな五人家族の痕跡は、もうどこにも無うなった。
けど…けど、もういっぺんだけ、たった一日でええけん。あの家でみんなで飯が食いたかった。狭い台所のテーブルの一番庭側に親父、縦型のトースター置いたワゴンの横にお母ちゃん、その前にわし、左に正彦。親父の向かい、わしの右にお姉ちゃん。やかましゅうて五人家族で。好き嫌いを怒られながら、マーマレードとトーストしかない朝飯を食いたい。
せられぇことで喧嘩して、お母ちゃんに怒られて、テレビと野球しか娯楽の無かった、あのつまらん毎日に戻りたい…
親父、わし寒うてかな。首すくめとるんよ、胸張れ、縮こまるな。と怒ってくれや。
糞が
なんでこんなことになってしもうたんじゃろな…。
全部、わしが悪かった けど…しゃあないな
「どうかしたの?」
「いや 何でもない。ちょっと面白いニュースがあっただけ」
さて、これで後顧の憂いは無くなった。後は攻めるだけだ。
「真美ちゃん。旅行行かない?いつか行ったあの愛媛の温泉旅館。和也のとこも誘ってさ。何なら義妹家族も誘おう。クッソ贅沢な奴。全部、俺に任せとけ」
終わり
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