第6話 文明へ踏み出す 下
- 締詩沫暦-1019年2月3日-冬-国区北東部郊外の森
少女が中心都市を目指して旅立ってから二週間が経った。彼女が目を覚ましたのはもう二ヶ月も前のことだ。今や、彼女は森や小川のほとりで快適に眠るためのテントの張り方、自分自身の傷の手当てや包帯の巻き方、毎日欠かせない薬丸の作り方をすっかり覚えていた。小さな生き物たちとの付き合い方さえも身につけた。ただ、彼女の後ろ姿には、今も一抹の寂しさがまとわりついている。
木漏れ日が差し込む。彼女は今、森の中で薬湯を作るための薬草を探していた。草むらを通り抜ける際、鋭い植物が彼女の少し青ざめた肌をかすかに引っかいた。真紅の血が傷口から流れ出たが、彼女は何の反応も示さなかった。
「ようやく見つけたよ、ねじねじした草」
少女はしゃがみ込み、携帯の小刀でゆっくりとそれを切り取った。柔らかな根茎からは白い液がにじみ出る。少し透き通り、少し粘り気があった。少女は液に触れないよう細心の注意を払い、切り取った根茎をゆっくりと持ち上げ、余分な液を拭き取った。
「……これで大丈夫」
今は早朝だ。少女が持ち帰った植物は、他の植物たちと一緒に丸められ、水と共に焚き火の上の鉄鍋へ放り込まれた。少女は新鮮な果物をかじりながら、鍋の中で薬草が煮詰まるのを待っていた。
そばにいた小さな生き物たちは、この見知らぬ来訪者を好奇心いっぱいの目で覗き込みつつも、燃え盛る薪を恐れてなかなか近づこうとしない。
鍋の蓋が軽く跳ね、湯気を立て始めた。彼女はそばのリュックから碗を取り出し、薬湯をちょうどいい具合に注ぎ入れた。湯気を吹き飛ばし、少し冷めるのを待ってからゆっくりと飲み干した。
焚き火を消し、調理器具を洗い、すべてを整えた後、彼女は立ち上がり、川沿いを中心都市へと歩み続けた。目的地はもう遠くなかった。
……
「おう、随分早く戻ってきたな。
「お前の服、持ってきた」
「裁織姉、何か言ってたか?」
「次にまた服を破ったら、自分でミシンを踏んで直せってさ」
「ああ、じゃあ行かなくて正解だったな」
「グロムのところに行ったのか?刀の様子はどうだ?」
「いや、まだ会ってないぜ。途中まで行ったら|杏澤に引っ張られちまった」
以前にも似たようなことがあったため、
「またアフタヌーンティーか?」
「ああ、アフタヌーンティーよ。結果、
「今晩行ってみるつもりはないのか?」
「今晩?今晩グロムはまたどっかで酒を飲んでるに決まってるだろ。…いや、待てよ、あの爺さんが行きそうな場所なら一つ知ってる。行ってみるか、ちょうど夕飯も食えるしな」
夜の帳が下りた。地底の下とはいえ、昼夜の区別はあまりないが、時計の針は日夜休むことなく動き続け、人々に時間を知らせている。
二人は長い廊下の外、大きな配管の脇にある場所にやってきた。『豊饒の歓』と名付けられた酒場がここに構えていた。少年たちがドアを押し開けると、酒の匂いが待ってましたとばかりに押し寄せてきた。人間、精霊、亜人らが入り混じり、ここで酒を酌み交わし、語り合っている。出自も地位も種族も関係なく、ここでの共通言語は美酒だけだ。
酒卓の間を縫って、
「あの爺さん、今日は来てるか?」
バーテンダーは黙ったまま、シェイカーを振る手をほんの少しだけ上げ、酒場の奥にある柱の陰を指さした。
「サンキュー」
挨拶を済ませると、二人は柱の後ろへと向かった。黒い工匠帽をかぶり、埃まみれの作業服を着て、手には分厚いマメがくっきりと浮かび上がり、口元には傷跡らしきものがあるドワーフが、柱の後ろのテーブルにもたれかかっていた。彼は分厚いステーキを肴に酒を飲み、赤らんだ顔はかなり酔いが回っていることを示していた。
「すげえ酒臭い…またかよ。こいつ、まともに会話できる状態なのか?」
「安心しろ、こんな状況は初めてじゃない」
「『
邪魔をされて機嫌を損ねた工匠は、酒杯を手に取り、残りの酒をがぶがぶと一気に飲み干した。
「うめえ酒だ!」
そして――ドスン――とテーブルに突っ伏し、意識を失った。どこか滑稽だった。
「二分くらい待つか。ちょうどいい、俺も何か食い物を頼んでくる。
しばらくして、彼が目を開けると、ちょうど
「揺り起こせ。薬が効いたはずだ」
そっと工匠を揺り起こすと、彼はまだ酒から完全に抜けきっておらず、少しふらついていた。額を押さえ、気分を落ち着かせた後、視界を整え、周囲を見渡した。
「ここは…お前?任務から戻ったのか?小僧」
彼はようやく目の前の人物を認識した。
「ああ、任務を片付けたらすぐに爺さんの顔を見に来たんだ。相変わらず酒、飲み過ぎだろ?」
「何度言わせる…これは気晴らしだ!老夫は一日中溶鉱炉の前だ!気晴らしぐらいどうした!?ん!?…ん?」
工匠はそばで一言も発しない青い影に気づいた。
「ああ…ははは…ああ…
「構わない。腹が減ってここにいるだけだ」
その言葉は工匠に対する呆れがにじみ出ていた。ちょうど彼が言い終えた時、ウェイターが様々な野菜と肉を使った熱々の料理を山盛りにした大皿を、タイミングよく三人の前に運んできた。
「お二人様の注文です」
シチューを置くと、ウェイターは去っていった。
少年たちは夕食を食べ、工匠は彼らを見つめていた。さっきまでにかなり食べていたので、今は空腹ではなかったが、それでも時々フォークで肉を刺しては口に運んでいた。
「で、何の用だ?」
「この前頼んだ刀、どうなった?新しい素材、使い勝手はどうだ?」
「おお、あれか。お前が持ってきたあの素材は、元々持つエネルギーの性質が拡散しない状態で鍛造しなきゃ形にならん。すげえ難しかったが、老夫の腕前じゃ問題なし。刀はもう打ち上がった。今日、ちょうど
食後、二人の少年はグロムに連れられて資外研部の奥深く、熱気に満ちた区域へと向かった。巨大な歯車伝動構造が巨大な鍛造ハンマーを動かし、ドスンドスンと真下の晶鉱原石を叩きつけ、利用可能な晶鉱粉塵へと成形していた。
グロムが先頭に立って作業場のドアを押し開けた。晶石で鋳造された銀白色に透き通った刀身が、漆黒の鍛造台座の上に置かれていた。汚れないように、刀身の下には防塵布が敷かれている。そのそば、ガラスのケースの中に、銀白色の光を放つ一つの晶核が収められていた。特殊な絶縁ガラスがそれを外界から隔離し、晶核内部のエネルギーが拡散するのを防いでいる。
グロムは鍛造台座の後ろに立ち、
「どうだ、満足か?」
「確かに…すげえ出来だ。こんな刃は初めて見た」
「今回、巨獣の表皮を切るために全く新しい独自設計を施した。この刃とお前の戦い方を組み合わせれば、ほとんどの巨獣の表皮、いや骨さえも効率良く切り裂ける。お前の斬撃が速く、正確で、強ければな。大抵は裂け目を入れられるだろう。さあ、晶核はあそこだ。はめ込め」
少年が驚嘆の声を上げる間もなく、工匠は少年に誘いをかけた。
「行くか?奥で刀を試してみよう」
カーテンを引くと、そこには数多くの訓練用人形や模造の巨獣部位が並べられていた。
彼は絶えず自らの刀術、体術を磨き、巨獣猟兵となるために努力を重ね、ついに一年前、その期待に応えて史上最年少のS級猟兵となったのだ。
彼は目の前の人形に向かって構え、呼吸を整えた。かつて何度も繰り返してきたように、熟練した動作で。そして次の瞬間、人形の背後に瞬間移動し、彼の後ろには刹那的に変化した刀の軌跡が残った。仮人の躯体はバラバラに崩れ落ち、滑らかで鮮明な切断面を残した。
「いい小僧め。今度はあっちの獣骨と巨獣表皮を試してみろ」
数度の斬撃のたびに、刀の下の獣骨も表皮も、応えるように切断されていった。
「小僧、使ってみた感じはどうだ?」
グロムが近づき、
「鋭い。切れ味が良く、重量配分も完璧だ。重さを感じずに振れるが、かといって軽すぎることもない」
「当然だ、これは老夫の自信作だからな。では、次にこの刀のユニークな特徴を教えてやろう。気づいたと思うが、刃の長さはそれほど長くない。これは晶核の能力を発動させた時に刀身に負担をかけすぎないための設計だ。ちょうどいい、あそこにいるサボってる老夫の弟子を見ろ。行って、刀身を奴の頭のそばに持っていけ」
「くっつけるのか?」
「そこまでじゃない、近づけるだけでいい」
「さあ、今度は刀の中の晶核のエネルギーを導け。あのエネルギーはシュオン(術能)じゃない。安心して感じ取れ、晶核の能力を発動させるんだ」
しかし、ある瞬間、彼は突然あらゆるものを感知できなくなり、自分が生きていることも、自分の呼吸音も、鼓動も聞こえなくなった。まるで――
虚無の淵——(デス)。
「グロム、どういうことだ?」
「これがこの刀の能力だ。受け取れ」
グロムが
「吸収した生物の心の中の夢を晶核内で固定し、シュオン(術能)よりも高次元の燦能の形に変換する。老夫はこれを『
グロムは説明を続けた。
「だが、それには大きな副作用も伴う。お前も気づいただろうが、晶核の能力を導く際に、一時的な『意識の隙間』が生じる。これにより一時的に意識を失う。これも使用する属夢の量によって変化する。使用し、重ねる属夢が多ければ多いほど、隙間は大きくなる。だから、この刀の難しさは、どうやってこの隙間を最小限に抑えて運用するかだ。さもなければ、ほんのわずかな意識の隙間で、相手や巨獣にお前は殺されてしまう」
「次はもっと早く言えよ。マジでビビったぜ……」
工匠は説明を続けた。
「属夢の付加は重ねられる。さっきお前が導いた属夢は『
グロムはそばから真新しい刀の鞘を取り出し、
「この刀鞘は晶核に追加の保存容量を提供する。晶核自体は百種類の属夢を保存できるが、刀鞘の保存空間はその上限を五千にまで引き上げる。常に携帯する必要はない。普段はお前自身の『
刀は鞘に収められた。二人の少年はグロムの工房を後にした。帰路、
「『属夢付加』、ユニークな特性だな。使う時はよく考えろよ」
「ああ、分かってる。死にはせん、安心しろ。あの感覚…気軽にまた味わいたくはない。マジで苦痛だった」
「で、その刀に名前は考えたか?」
「着いた時はまだ決まってなかったが、グロムが能力を説明した瞬間、大体のアイデアは浮かんだぜ」
「何だ?」
「『
「『
楽しげな会話が、二人の少年の帰路を満たした。
いつも通りの、穏やかで楽しい時間が流れていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます