第7話 涙の雨 上
-締詩沫暦-1019年2月26日-冬-中心城東部入口
少女の旅立ちから一ヶ月以上が過ぎた。彼女の体を襲う痛みは日に日に和らぎ、一日に歩ける距離も伸びていた。今、彼女は橋の上に立ち、遠くに中心城を望んでいる。ついに、この長い道を自力で踏破したのだ。
しかし、なぜか中心城の関所では、警備と検査が大幅に強化されていた。入城を待つ人々の列は、湖を跨いで城内へと続く長い橋をほぼ埋め尽くしていたが、少女にはその事情がまったくわからなかった。
——「本に書いてあった通りなら、こんな列はなかったはずなのに……何があったの?」
そう思うと、踏み出す足が
誰かに尋ねてみたい。でも怖い。気づけば、見知らぬ人と話す勇気がほとんど湧かない。村の人たちとは普通に話せたのに、今は一歩も踏み出せない自分がいる。
列は一向に縮まらず、太陽は木々の葉の間を次々と
とうとう彼女は心の壁を破り、柔らかい耳を持つ中年の
「あの……」
少女は獣人の服の
「どうしたんだい?」
「中心城、今日はどうしてこんなに長い列が……? このままじゃ、いつ入れるのか……」
獣人は城門を見、それからどこから来たのかわからないこの少女を見た。
明らかに、彼女は城内に入った経験がなく、初めて一人でここまで来たのだろう。
獣人は口調を柔らかく変えて教えた。
「坊や、中心城に入るには関所の検査を通らなきゃいけないんだ。この数年、城内で何か大変なことがあったらしくてね、門の検査が何倍も厳しくなったんだよ。中心城に入りたいなら、まだまだ待たされるぞ」
「検査って、何を調べるんですか?」
少女が尋ねる。獣人は背中の包みから、独特な
「持ち物に
少女はその札を受け取り、しばらくじっと見つめてから獣人に返し、ゆっくりと言った。
「そうなんですね……ありがとうございました」
「ああ、どういたしまして」
獣人の言葉が終わらないうちに、彼女は列から飛び出し、橋の反対側へと戻っていった。
「あんな小さい子が一人で城に入ろうなんて……大変な子だな」
獣人は感心しつつ、検査と通行を待つ列に戻った。
少女は橋のたもと、人のいない場所まで走り、荷物を開けてがさごそと探し回り、頭を抱えた。
彼女の
持った覚えすらないのだ。禁制品が何かもわからない。ましてや、獣人の言う戸籍簿に自分の名前がないことははっきり自覚している。検査を受けに行けば、間違いなく捕まってしまう。それに、この体の
「……帰るわけにはいかない……おじいさんにも約束したのに……」
少女は首を振り、頬をぽんぽんと叩いて、自分を奮い立たせた。
「ダメダメ、
彼女は首飾りをぎゅっと握りしめ、歯を食いしばり、意地でも列の最後尾に並んだ。検査と通行を待つ間、心は不安でいっぱいだった。
時間はあっという間に過ぎた。夕陽がゆっくりと大地に沈み、かすかな残照を残す頃、三時間近くが経過していた。先ほどの獣人はとっくに城内に入り、検査はもうすぐ少女の番だ。何人かが拘束されたり、追い返されたり、騒いで放り出されたりするのを前に見ながらも、少女は心を強く持つよう自分に言い聞かせ、ついに入国検査の時を迎えた。
「まず個人の身分証明書を見せてください。お持ちでなければ……お引き取り願います」
「あ、それは……」
少女は何か言おうとしたが、言葉を飲み込んだ。嘘をつくこと――子供たちがそうするのを見たことはあったが、彼女の認識では、それは良くないことだった。今の彼女には、自分から存在しない事実を口にすること、ましてや嘘をつくことなど、到底できなかった。
がっくりとうなだれ、彼女は素直に列を離れ、数時間にわたる無意味な
「身分証明書を……」
砕けた
ひとしずく、ふたしずく。透き通った
ひと粒の
「あ、雨だ……テントを……テントは? テントは……どこ???」
ふと気づく。あのキャンプの後、テントを見ていない。つまり、回収するのを忘れ、どこかに置き忘れてしまったのだ。
「本当に……持ってきてない……」
泣きそうになりながら焦る。でも、雨が降っている。今はまず雨宿りをしなければ、風邪をひいてしまう。そう思った。
涙を
傘の下で一人、彼女はさきほどの橋のたもとのまばらな林の中にいた。夜、ここを通りかかる人はほとんどいない。雨の夜なら、なおさら彼女の存在に気づく者はいない。この場所は、彼女の姿を隠してくれる
雨はしばらくザーザーと降り続いた。中心城の明かりが夜空の
少女が早々に起こした焚き火は、雨によって無情にも消されていた。刺すような寒さが
中心城のすぐ外には集落もあるが、少女は
以前にもこんな雨はあった。しばらくすれば止む、長くは続かない。その時また火を起こせば、寒くはならない――少女はそう考えた。
時計が刻む時刻のように、雨は次第に彼女の服を濡らしていった。裾は完全にびしょ濡れだ。それでも、雨は少女の思うようには止まなかった。むしろ勢いを増し、吹き付ける寒風と震える指は、もう傘を握り続けるのも難しくしていた。指先は真っ赤に腫れ、
心拍は速まり、体温は極度に低い。それでも彼女は意識を保っていた。今、眠ってしまえば、今よりもっと残酷な
少女の最初の
城外の人々にとって、この雨は広大な農地を潤し、大きな豊作をもたらすかもしれない。城内の人々にとって、四方の城壁に守られ、この雨はそれほど激しくは感じず、街の
だが、この雨が、少女の命を奪いかけた。
肌に密着した
彼女はこれほど無力な思いをしたことがなかった。ただ、神父からもらった十字架の首飾りを握りしめ、雨の中、独り涙を流すしかなかった。流れる涙は雨と共に大地へと染み込んでいく。
……
雨の夜、大地の下では、文明の守護者たちが、刻一刻と迫り来る戦いの準備を
快適な
「今度は……お前の読み、外れたな。俺の勝ちだ」
「突破が速いな。前よりずっと
「当たり前だ。俺は一分一秒、強くなってるんだからな」
二人の少年が冗談を言いながら休んでいると、突然、訓練室のドアが開いた。氷色の髪の少女が入ってくる。
「どうした? ブリーフィングか?」
「用事がなくても来ちゃダメ?」
「あんたってば、本当に
杏沢は
「なんだ? 今は休暇中じゃないのか? また新任務か?」
「国区東部国境に巨大なエネルギーの反応源が確認された。S級巨獣一頭が接近中らしい。状況は刻々と変化している。本部からは、泰合と一緒に対応準備をするように、とのことよ」
「
「本部には了解したと伝えてくれ。明日、すぐに東部国境へ向かい、泰合と合流する」
泰合は
「ねえ、朴念仁。他に言いたいこと、ないの?」
「ん?」
少女はついに我慢の限界に達した。
「朴念仁!」
そう言うと、くるりと背を向けて去っていった。どうやら少女は、元々何らかの理由で機嫌が良くなかったところに、さらに拍車がかかったようだ。
「
「俺、何かしたか?……まったく、後で謝りに行くよ。まあ、明日の話だ。
二人の少年は整え直すと、再び訓練に没頭した。
……
空は
再び夜が明けた。
粗布の下、少女の呼吸はかすかでほとんど感知できないほどだった。彼女は意識を保ち、雨の中、冷たい一夜を過ごしていた。雨が少女の頬を伝う。それはかすかな
彼女はよろめきながら立ち上がり、よたよたと橋を渡り、中心城を静かに見つめた。
「私は……どうしてここに来たんだっけ?」
少しぼんやりしていた。
少女が目に映る中心城を見渡すと、ふと、一点の明かりが視界を捉えた。中心城を取り囲む巨大な
まるで希望を見出したかのように、一瞬、彼女の瞳に再び光が灯った。彼女はゆっくりと橋の上に戻り、衛兵に気づかれないように注意しながら、
でも、なぜここに隙間が? なぜこんなに橋から離れている場所に? 誰が穿ったのか? なぜそれを隠そうとしたのか?
だが、彼女はもう気にしなかった。正確に言えば、大雨の中一晩中意識を保つことで、彼女の脳は限界に達していた。今、彼女が望むのは、中心城へ入る道を見つけることだけだった。
[
そして、イノムノス中心城は、ヘトミル盆地の中心に広がる巨大な湖の上にそびえる都市だ。都市の出入り口は、東西南北の四つの正方位にある。湖上にそびえる都市全体を支える支柱は、湖底の巨大な支柱のほか、四つの斜め方向にある巨大な
少女が見た隙間は、北東方向の巨大な配管と
空は次第に明るくなっていくが、雨はなおも降り続いている。昨夜の少女にとって、この雨は彼女の体力、精神、希望を奪った。しかし今、この雨は、衛兵に見つからずに隙間の近くまでこっそり移動する絶好の機会を与えていた。この機会は今しかない。もし空が完全に明るくなったり、雨が止んだりすれば、衛兵の目を盗んで隙間のそばまで行くなんて、到底不可能なことだ。
少女はその機会を
彼女は橋の下の支柱に次々と
雨はまた小降りになった。急がなければ――そう思った矢先、足を滑らせ、体が急激に落下しかけた。
幸い、彼女は飛び出た支え材を必死に掴んだ。ただ、引きずっていた荷物はほとんど水中に落ち、湖底へと沈んでいった。
元々弱々しかった
体勢を立て直し、城壁を囲む配管に沿ってさらに進んだ。一歩、また一歩。慎重に隙間へと近づく。
薄くなりかけた雨が再び強まり始めた。まるで彼女を
少女は顔中泥だらけで、荷物は完全に失われていた。だが、最も大事な首飾りと薬草は無事だった。幸い、彼女は常にこの二つを肌身離さず持っていた。苦難の末、ついに隙間の前に辿り着いた。
それはとても狭く、汚く、湿っていた。しかし同時に、光と希望に満ちていた。隙間は小さく、小柄な少女がかろうじて出入りできるサイズだ。彼女は身をかがめ、全身の力を振り絞って這い、この隙間を通ろうとした。
城壁は分厚く、隙間は長く、狭かった。体を起こせない。指先に全身の力を込めて地面を掴み、前へ進むしかない。
一度、力が抜けかけて、彼女はこの薄暗い隅で気を失いそうになった。
それでも諦めなかった。腕がまた切り傷を負って血を流し、指は完全に
ついに――砕けた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます