序章ー5:子どもらしさも大切に

 この世界に転生してから一年が経過した。


 この頃になると体つきも良くなってきて、補助なしで歩いたり走ったりできるようになった。


 どうやらこの世界の竜、俗にいう『亜竜族サーペント』は人間に比べると発育がいいらしい。


 さて。天下太平を成すに当たって今日も塾考の毎日だ。


 やっぱり武士の最高位である『将軍』を目指すべきだろうな。


 でもどうやって?


 武力で領土拡大?


 いやいや!!暴力で平和作っても何の意味もない。もっと穏便に、血を流さないような方法を考えないと。


 となると、やっぱ外交だわな。


 あ~でも。ああいうのってアピール力とかコミュニケーション力が最重視されるんだよな?


 僕営業職とかやったことないしなぁ~。


 外交をあれこれ考える前に対人スキルを磨かないと。


 でもどうやって?


 コミュ障のうつ病持ちにそんなのハードルが高すぎるよぉ・・・。


「ど~すりゃいいんだよぉ~・・・。」


「若?」


「はいい!?」


「手習いの腕がまた止まっておいでですよ?」


「すっ、すみません・・・。ラポリさん・・・。」


は付けなくて構いませんよ。若の方がお立場が上なのですから。」


 この深緑色の、若い女の地竜ドレイクはラポリ。


 侍女の一人で、僕の教育係だ。


 今日も巣の中で石板を使って文字のお勉強。


 下手に出てるように見えて、結構厳しい。


「またについて考えておいでですか?」


「はいぃ~・・・。」


「大望を抱かれになるのは結構ですが、手習いは集中してもらわないと。わたくしが奥方様に叱られてしまいますっ。」


「すっ、すいません。ラポリさん。」


「ほらもう!また言ってる傍からっ。」


 あっ。またさん付けしちゃった・・・。


 ダメだなぁ~・・・僕は・・・。


 考え事しちゃって、つい上の空になってしまう・・・。


 前世からの悪い癖だ。


 そういえば、心療内科の先生から「折田さんは発達障害の傾向があります。」って心理テストの結果見せられて言われたっけ・・・。


 あれって生まれ変わっても有効なんか?


 脳みそはとっくに別な物になってるのに・・・。


「わ~かっ!」


「あっ!すいません・・・!!ラポリさ・・・ラポリ・・・。」


 また上の空になってしまったことに、ラポリは難色を示した。


 いい加減直さなくちゃ・・・。


「ところで若。」


「なっ、なんですか?」


「お館様と奥方様がご心配されてましたよ。お生まれになって一年経つのに、未だ外出なされていないことに。」


 今になってハッとした。


 この世界に生まれてから一年経つのに、一歩も巣の外から出たことがない。


 ずっと本を見たり、巣の中に入ってきた虫やは虫類とかと遊んでばっかり。


 そして・・・ルータスとハーリア、ラポリとしかまともに会話したことがない。


 絶賛ニート生活の真っ最中だ。


「ラポリ。僕くらいの年の地竜ドレイクは何をして過ごしているのですか?」


「野原を駆け回って遊んだり、狩りの練習をしたりしてますね。」


 やっぱ外で元気に遊んでるんだ・・・。


 子どもだもんね・・・。


 外、か・・・。


 傷病手当をもらってる時は小説執筆のために自転車でカフェに出かけてたけど、こっちの世界じゃ一人でどっかに出かける気なんか全く起きない。


 ってか怖い。


 僕はオリワ族の領主の息子。つまりは跡取りだ。


 そんなヤツが外に出て周りのみんなはどう思うか?


「全然頼りなさそう。」


「なんか臭くない?」


「あんなんが跡取りとか終わってるわ。」


 そんな目で見てくるに決まってる・・・。


 だって僕、全然パッとしないんだもん・・・。


 みんなに変な目でみられるくらいなら、おとなしく家に引きこもってた方がマシだ・・・。


 あっ、またブルー入っちゃった・・・。


 はぁ・・・。泣きそう・・・。


「若?」


「え・・・?」


 どんよりした気分になってると、ラポリが心配そうに僕の顔を覗き込んできた。


「すいません。また、考え事しちゃってましたね。勉強続けましょうか?」


「・・・・・・わたくしの娘をお連れしましょうか?」


「え・・・?ええっ!?」


 石板に向かって勉強の続きをしようとしたら、ラポリから全く予想外の提案をされた。


「実はわたくしにも若と同じ年の娘がいるのです。子ども同士でなら、気兼ねなく戯れられるでしょう。」


「いやいいってそんなのしなくたって・・・。」


「いけませんっ。若には子どもらしくお遊戯なされるお時間も必要ですっ。奥方様にはわたくしからお話を通しておきますからね?はい!今日の手習いはこれにてお終いですっ!」


「ちょっ、ちょっと・・・。」


 石板を口にくわえて、ラポリは奥へと引っ込んでった。


 女の子と遊ぶなんてマジかよ・・・。


 不安でしかないわぁ・・・。

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