プロローグ②/保護者健在

「久しぶりだねー元気してた?」

銀髪の男性がにこにこしている隣で、長身の男が天を仰ぐ。

「さっさと次の町に行くべきだった…」

「せっかく会えたのに何よ、アロウの薄情もの!」

フィリーはそう言って結構本気でアロウの腕を叩いたが、相変わらずびくともしない。

アロウはちらっとフィリーの顔を見下ろし、うるさそうに腕を払う。

「なんでだよ、時々連絡してただろ。お前の言う通りに」

「居場所くらいしか書いてない手紙のどこが連絡なのよ!」

突っかかっていくフィリーを銀髪の男性が制止する。

「まあまあ。でも会えたんだからいいじゃん」

「リルも!」

フィリーは今度は彼ーリルの方へビシッと指を突きつける。

「えーボクなんかした?」

ふわふわした表情で首を傾げるリルに噛み付くようにフィリーが怒鳴る。

「したっていうか、何もしてない!せっかくアドレス交換したのに、全然返事くれないし!」

「そんなことしてたのか」

相方と少女の知らないところでの交流に、アロウがちょっと困惑した表情になる。

「ちゃ、ん、と!連絡、よこしなさい!人にデータ収集頼んだくせに」

フィリーがギリギリとリルの襟を引っ張るが、当人は全然こたえてない様子で

「おみやげ送ったじゃーん」

などと言ってどこ吹く風だ。


「……で?今日は何してるの?」

アロウが速攻で顔を逸らした。

フィリーにはこの仕草に見覚えがある。

「……またお金無くしたの?」

「…アルバイトしてる」

観念したように短く答えるアロウだったが、隣のリルが手を上げて

「ぼくもー」というと、素早くその頭に拳骨を落とした。

「お前が財布無くしたんだろが!誰のせいだ誰の!」

「いたいいたいー」

アロウに首を極められるリルだが、全然こたえている様子はない。

というか、どこか楽しんでる風ですらある。

この2人はいつもこの調子だ。

そして喧嘩をしつつも2人で仕事をしては次の町に向かう、という生活を続けている。

「じゃあ今回はしばらくこの町にいるの?」

「…まあそうなるな。」

アロウがそう答えると、見上げるフィリーの顔がぱっと明るくなった。

「どこに滞在するの?ホテル?しばらくいるならウィークリー借りてもいいよね、私今不動産屋に行くところだからよかったら一緒に…!」

「いや、俺らは下町の安宿で十分だ」

「あ……そうなんだ……」

短く返すアロウに、フィリーは目に見えてしょんぼりする。

すかさず横からリルが口を挟む。

「アロウ、言い方ー」

「…連絡しなかったのは悪かった。」

おおらかなリルに咎められては流石にバツが悪そうにアロウは謝罪する。

フィリーは元気なく頷く。

「…うん」

アロウから見た彼女の頭は、前回会った時よりも高くなっている、気がする。

それだけの月日が経っていた。

以前のように頭を撫でようかー一瞬あげかけた手を引っ込め、アロウは

「…また連絡するから」と告げるにとどめた。

フィリーはアロウの顔をじっと見上げる。

相変わらず日に焼けた肌は、彼がいつも忙しく駆け回っている証拠だ。

ここでわがままを言うほどフィリーはもう子供ではなかった。

「…絶対だよ?」

そう言って一歩下がる。

「ああ。また、な」

名残惜しそうに見上げるフィリーからアロウは視線を外し、リルの肩を押して去ろうとする。

リルが抗議の声を上げる。

「ええーもう行くの?」

「もう仕事の時間だろうが。お前のな!」

首根っこを掴んでアロウはリルを引きずっていく。

その背をしょんぼり見送って、フィリーはせめて用事は済ませようととぼとぼ店の方へ歩いていく。

アロウは振り返らない。

引きずられたままのリルはその横顔を見上げ「でもさーほっといていいの?」と呟くように言う。

「あの子、不動産屋に向かってるよ?」

「だからなんだ」

アロウは止まらない。

「彼女、保護者がついてない。1人だよ?」

「……」

アロウが沈黙した。

「足元見られないといいけどー」

リルの口調はどこかからかうような調子になっている。

ぴたっとアロウの足が止まる。

「…お前、仕事……」

「さっきキャンセルしたよ!」

いつのまにか取り出していた通信端末を示してリルが目を輝かせて言う。

「行く?行くよね、不動産屋!」

「うるせえ!」

おもちゃを見つけたかのようはしゃぐリルの頭を、アロウは遠慮なくはたき倒したのだった。

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