星海の守り人・外伝 -月光荘の日常-

ささがき

プロローグ

プロローグ①/再会

「うーん……」

フィリーは不動産屋の物件情報の前で悩んでいた。

高い。

都市部の部屋は、想像以上に値が張った。

奨学金はあるが、できればある程度研究費に回したい。

固定費となる家賃はできるだけ切り詰めたかった。

いくつかの「訳あり」と表示された物件は安かったが、手を出していいものかどうかわからない。

何軒かの店の前を行ったり来たりしているうちに、夏とはいえ午後の日はだいぶ傾いてきていた。

「百聞は一見にしかず。何もしなければわからないままだよね!」

とりあえず聞くだけ聞いてみよう、と一番近くの不動産屋へ向かおうとしたその時。


「いたたたた何すんの!」

「お前今日という今日は許さん!」

「はーなーしーてー!」

「離すか!離した途端にトラブル起こすだろうが!」

男性にしてはやや高い声と、地の底から響くような低音の声の言い争いが鼓膜を打つ。

考えるよりも先に、振り向いていた。

聞き覚えのある声だった。

近くの路地から、お互いの腕を押さえ込もうとやり合いながら2人の男性がもつれ合って出てくるところだった。


1人は背が高く、日に焼けた肌で髪が黒く、全身も黒を基調とした格好。

腰に下げた時代がかった剣が目を引く。

もう1人は黒髪の男よりは背が低く色白。髪の色もごく淡く、銀色だ。

白っぽい魔術師然とした服を着ているが、杖などの装備はない。

代わりに、左の耳には青い石飾りのピアスが揺れていた。


「お前のせいでまた足止めだ!さっさと次の町に行きたかったのに!」

「えーいいじゃん、のんびり行こうよ」

「お前ののんびりを待ってられるか!月単位になる!」

大通りに出たにも関わらず、2人はぎゃあぎゃあ騒いでいて通行人の目を引いている。

しかし喧嘩の勢いそのままに、周りが目に入らない様子で道路を横切っていく。

「あ…あ……」

フィリーの口から声が漏れる。言葉にならない。

わなわなと肩を振るわせた彼女は。

「あーーーいたーーーーっ!!」

誰よりも大きな声で、彼らを指差し叫んだのだった。

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