第43話 脱走
とうとう、公徳学園という施設へ行く日がきた。
重春叔父さんが迎えに来て、児童相談所の職員と、東大阪市にある施設に向かった。
100人近くいる男女。
3歳から18歳の高校生まで収容していた。
担当したのは河野という職員だった。
私は3つある寮の中のひとつ、船越グループに案内された。
案内された部屋は2人部屋だった。ここで生活するのは、1学年上の隆夫君だった。
隆夫君は優しく、学園の生活の仕方などを教えてくれた。
船越グループは3F建てで私と隆夫君の部屋は3Fの端だった。
1Fは大きなリビングになっていて、船越グループの子たちがTVを見たり遊んだりするような場所だった。
そこで私は自己紹介させられた。
人生3度目の自己紹介だったので13歳にして慣れたものになっていた。
船越グループの年長者、道夫君がこの、公徳学園を仕切ってるような感じだった。
船越グループの他には楠グループと、ゆずりはグループがあった。
楠グループは女の子だけの寮になっていた。
公徳学園に来たときは夏休みで小中高校生は全員学園の中での生活をしていた。
外泊の許可をもらっている子は両親のもとへ帰郷している子もいたが殆どの子が残っている状況だった。
ある日、船越グループの階段の踊場で隆夫君や、2歳年上の新一君、隣のゆずり葉グループの土屋君などでたむろしていた時だった。
「おぅ…雨夜!!下の給湯室行って今日の晩飯の献立見てきてくれや。」
と、新一君に頼まれた。
新入りの私…。ましてや、2歳年上の高校生の先輩。
仕方なく1Fの給湯室に行き、冷蔵庫に貼ってある献立のコピーを見た。
『春雨』
うん?
…………………………………。
『はる…あめ…?』
料理も無知。漢字も無知…。
私は解らないまま2階に戻った。
新一君は私が戻ったのを見るなり
「おぃ…。なんやってん。」
と聞いてきた。
『せっかく見に行ったのに…漢字読めんし、偉そうに聞かれるし…』
と、腹がたって黙っていた。
痺れを切らした新一君は怒りだした。
「なんやねん、いい加減にせぇやワレ!しばくぞ!!」
そして、私に蹴りを入れてきた。そのショックで私は尻餅をついて床に倒れた。
ムカっ!!
ときて、私は目の前にあった消化器を新一君に目掛けて投げた。
重かった消化器はスピードがなく、あっさりと新一君に避けられてしまった。
こんな生意気な新入りの年下に腹がたったのか、他のゆずり葉グループの人たちにも反感をかってしまった。
「こいつ生意気なんじゃ…。」
「ホンマむかつくのぉ~」
「入ってきた時から気にくわんかったんじゃ」
「出ていけぇ~」
と、言葉が飛び交う中、あっという間に数名に囲まれて、殴る、蹴るの暴行を受けてしまった。
『ココにも俺の居場所はないんかなぁ?』
私はそう思った。
顔や瞼がお岩さんみたいに腫れた。
船越グループの職員に
「顔、どうしたん?」
と聞かれたが、新一君が
「こいつが調子乗って消化器俺に投げてきたからしばいたってん。」
と、職員に説明した。
職員も
「仲良ぉーせんとあかんよ。」
と新一君に言っただけだった。
次の日…。
朝食前には当番制の掃除があり、この日私は庭掃除だった。
これをいいことに、寮の裏へまわり、塀を乗り越えて学園の外に出た。
世間は夏休み…。
私はフラフラと一体なにやってんだろなぁ~。
そんなことを思って虚しくなりながらも、学園の外へ出た開放感に浸りながら、北へ向かって歩き始めた。
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