第9話 夕食

 週末の土曜日、徳淵美柑と高田有佐が俺の家に来ていた。


「ほんとうにいいのか? わざわざ作りに来てもらって」


「ミッチーに食べさせる前に萩原っちで試したいってだけだから気にしないで」


 美柑が言う。


「私は美柑先生のお手伝いってところね」


「そう言うけど、有佐の方が料理は得意だからなあ」


「またまた……今日は美柑の考えたメニューでしょ」


「そうだけどね。焼き鳥丼だよ」


「ほう、美味そうだな」


 俺は言った。


「鶏の胸肉は高タンパクだからね。それを美味しく食べられるメニューを考えてみたってわけ。少し待っててね」


「私はサラダ担当だよ」


 有佐が言う。エプロン姿はもちろん初めて見た。


「そうか。楽しみにしてる」


「うん。ゆっくりしてて」


 2人が俺の家に居て、料理をしているのはやはり現実感が無かった。


 やがて、料理が出来上がり、俺の前に出される。


「これでよし、と。はい、召し上がれ!」


「いただきます」


 俺は二人が見守る中、焼き鳥丼を食べる。


「うん! うまい!」


「よかった!」


 美柑は嬉しそうだ。

 有佐が作ったサラダも食べてみる。


「サラダもこれに合うな」


「でしょ。さ、私たちも食べよ」


「「いただきます!」」


 美柑と有佐も食べ始めた。


「うん、我ながら美味い」


「さすが美柑だね」


「有佐のサラダも美味しいよ」


「よかった」


 この二人は高校の時よりも仲が良くなっているように見えた。今は一番の親友と美柑は言ってたか。


 食べ終わったので俺はコーヒーを3人に入れることにした。


「萩原っち、コーヒーとか好きだったんだ」


「今のバイト先で好きになったんだよ。まだ家ではたいしたコーヒーは作れないけどな」


 俺はコーヒーを3人に出した。


「はぁ、美味しい」


 美柑が言う。


「だろ。豆にも結構こだわってるからな」


「萩原っちも大人になったねえ」


「俺が変わってないってこの間言ってただろ」


「有佐については変わってないってだけだよ」


「……そうかもな」


 俺は有佐を見た。有佐はコーヒーを見つめていた。


「しょっちゅうは来れないけど、また夕食作りに来ていいかな」


 帰り際に有佐が俺に聞く。


「いいけど、食材の代金は払わせてくれ」


「うん、わかった」


「萩原っち、また練習台になってね」


 美柑が言う。


「おう、いつでもいいぞ。ただし、1人で来ちゃダメだからな」


「もう……高校の時のイメージで話してるでしょ。今は違うから」


「見かけは大人しくなったが中身はあんまり変わらない感じするんだよなあ」


「ひどーい。私も大人になってるから。コーヒーも飲めるし!」


「わかった、わかった。でも2人で来いよ」


「仕方ないなあ。また有佐と二人で来るね。そっちのほうが萩原っちも嬉しいだろうし」


「……」


「黙らないでよ。やっぱり萩原っち、あの頃のままだね」


「そうかもな」


「じゃあ、またね!」


「萩原君、じゃあまた」


「おう! 気を付けて帰れよ」



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