第8話 待ち合わせ

 土曜日の夕方、俺はバイトを終え、帰ろうとしていたところに有佐からメッセージが入る。


有佐『夕飯食べた?』


萩原『いや、まだだ』


有佐『一緒に食べない?』


萩原『2人でか?』


有佐『うん。もちろん、友達として。ダメかな?』


 友達として、か。


萩原『どこで?』


有佐『今大学に居るから街中なら近いからどこでもいいよ』


萩原『俺は街の本屋に居るから来るか?』


有佐『うん、行く』


 俺はバイト先の近くの本屋でコンピュータの本を見ながら待つことにした。しばらくすると、有佐が来た。改めて見るとほんとに綺麗だ。高校の時よりはるかに美人になっている。


「お待たせ」


「……どこに行く?」


「どこでもいいけど」


「じゃあファミレスな」


「うん」


 あまりおしゃれなデートっぽいところには行きたくない。そう考えて安いファミレスにした。有佐もそれでいいようだ。俺たちはしばらく下通りアーケードを歩く。それにしても、横に有佐がいて、歩いているなんて不思議な感じだ。


「なんか、現実感無いな」


 俺は言った。


「私と居ることが?」


「ああ。絶対に来ない未来と思っていた」


「私もそうかな。正直、あきらめてた。でも、植田君が萩原君と会ったって急に連絡が来たから、それからは私にとっては現実だよ」


「植田はみんなに何も言わずに俺に会いに来たのか」


「そうみたいね」


「なんでだろうな……」


「たぶん、美柑が私のことを話したからだと思う」


「有佐のこと?」


「うん、ちょっとふさぎ込んでたから」


「そうか……」


「うん。高校卒業して大学入って、それまでの縁が全部切れちゃった感じがして……萩原君のこともすごく昔に感じたし、奈保美ともあまり会えなくなってね」


「なるほど。それで植田のやつ、俺を利用したな」


「利用って……いいタイミングと思ったのかも」


「相変わらず、すごいやつだよ」


 そんなことを話していると、前から知った顔が歩いてきた。あまりここでは会いたくなかった。


「奈保美!」


 有佐が声を掛ける。麦島奈保美は隣に男性を連れて俺たちの前に来た。


「有佐、久しぶり」


「うん。直接会うのは久しぶりだね」


「……萩原君。ちゃんと有佐と会ってくれてるんだ」


「うん。友達としてやり直すことにしたから」


「そう聞いてたけど……でも、それじゃ、ほんとの解決にはならないからね」


「分かってる」


「奈保美……」


「有佐は何も言わなくていいの。萩原君が分かってるならそれでいいわ。じゃあね」


 奈保美とその彼氏は去って行った。


「奈保美、少し変わったよね」


「まあ、そうだな」


 それは俺のせいなのだろうか。


「今も親友だと思ってるけど、ちょっと距離を感じるかな」


「そうか……」


 俺たちはファミレスに入った。ここは安いメニューが多くて助かる。俺はハンバーグを、有佐はパスタを注文した。


「一人暮らしなんでしょ? 食事どうしてるの?」


 有佐が俺に聞いてきた。


「バイトがある日はまかないだな。後は、家でコンビニ飯かインスタントが多いかな」


「だめだよ、ちゃんと食べないと。萩原君、少し痩せたと思う」


「そうか?」


 自分では気がつかなかった。


「でも、大人っぽくはなったけどね」


「美柑もそういってたが、自分ではわからないな」


「奈保美も言ってたよ」


「え?」


「あんなにかっこよくなってずるいって」


「……お前たちだって綺麗になってるからな」


「そ、そうかな……」


「ああ。まあ、みんな年を取っただけかもしれないけどな」


「そうかもね」


 俺たちの間に少し沈黙が流れた後、有佐は言った。


「萩原君、ごはん、困ってるなら今度、作りに行ってもいいかな?」


「え?」


「あ、美柑と二人でだよ。美柑は栄養学勉強してるし料理も美味しいんだ。私も手伝うけど、美柑の練習にもなるかなって」


 美柑と一緒か。美柑は相良に料理を作ってあげたいと言っていたし、その実験台にはなれるか。


「そういうことならまあ……」


「うん。じゃあ、行ける日に連絡するから」


「……わかった」

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