第10話 奈保美
それから美柑と有佐は時々俺の家で夕食を作ってくれるようになった。有佐とも自然に会話し、笑顔で話せるようになっていった。
そろそろ有佐と決着が付けられるかもしれない。俺はそう考えだした。
だが、その前に解消したい気がかりが一つあった。麦島奈保美だ。俺はどうしても彼女の今が気になっていた。
俺は奈保美にメッセージを送った。
萩原『会えないか? 話がある』
麦島『2人で?』
萩原『そうだ』
麦島『2人は無理ね』
萩原『2人で会うのはこれが最後だ』
しばらく時間をおいてメッセージが返ってきた。
麦島『わかったわ。でも家以外でね』
俺と奈保美は学校近くのカフェで会った。奈保美はやはり眼鏡を掛け、いつものように黒いロングスカートをはいていた。相変わらず美人だ。
「それで、話って何?」
「奈保美と決着を付けたい」
「『麦島さん』でしょ。もう私は前に進んでるの。私との決着は付いてるはずよ」
「俺にはそうは思えないんだ」
「……どういうこと?」
「奈保美が無理しているように見える。幸せそうに見えない」
「私は……彼氏もいるし幸せよ」
奈保美は少し目を泳がせた。
「この間、彼氏と居るときの奈保美はそうは見えなかった」
「たまたまでしょ。私の機嫌が悪かったときに会っただけよ」
「そうかもしれない。でも、俺には奈保美が無理しているように感じる」
「……無理してないから」
「だったら、今から俺の家に来れるか?」
「行かないわよ。なんで萩原君の家に行くのよ」
「前に進んで吹っ切れてるなら、来れるはずだ。実際、この間も来ただろ。これから家に行って話をしよう」
「……い、嫌よ。あの家には二度と行かないわ」
「なんでだよ」
「……あの家は危険だからよ。私を昔に戻してしまうわ」
「やっぱり……奈保美は変わってないんだよ」
「変わったわよ! あなたを忘れ、新しい恋に進んでる!」
奈保美が声を荒げた。だが、俺は冷静に言う。
「忘れようとして恋しているだけじゃないのか。忘れるためにつらいことをしているのなら、もうやめてほしいんだ」
「…………はぁぁ」
奈保美は深いため息をついた。しばらく黙っていた後に言った。
「あなたは私にとって危険すぎるわ。なんで……なんでそこまで分かるのよ。みんなはあざむけたのに」
「みんなはずっと一緒に過ごしてきたから、かえって分からないんじゃないか。俺は久しぶりに会ったから、違和感しか無かった」
「……仕方ないでしょ。あなたを忘れるには新しい恋しか無いと思った。でも、無理矢理恋人を作っても、やっぱり何か違う……結局、無駄だったのかな……」
「俺は逆に恋から離れた。でも、やっぱり変わることは出来なかった」
「……だったら、どうするの? 私たち、どうすればいいのよ」
「決着を付けるしかないと思う」
「じゃあ、付けてよ」
「分かった」
俺は奈保美を見つめ、言った。
「……奈保美、今までありがとう。俺は君と本当に別れることにするよ」
「なにそれ。あのときに言わなけりゃいけなかったことでしょ。3年遅いのよ」
そういう奈保美の目には涙が浮かんでいた。
「ごめん……」
「……はぁ。これでほんとに終わりね。すっきりしたわ」
奈保美は目に涙をためたまま、あの頃のような笑顔を浮かべた。
「もう無理はしないでくれ」
「わかった……たいして好きでも無い彼氏とは別れるわ。本当に好きになれる人と出会うまで無理に恋はしない」
「そうか……」
「でも、有佐との決着も付けてくれるんだよね?」
「ああ。答えはもう決まっている」
「そう。どういう決着になるかは政志にまかせるわ」
「政志って……」
「無理はしないようにしたの。私も奈保美って呼んで」
「俺はずっと呼んでるから」
「そうだったわね。政志、ほんとにこれでお別れね」
「でも、みんなで会うときは普通に話そうよ。メッセージや電話もくれてかまわないし」
「そうね。これからは普通に話せると思う。2人で会うのはちょっと遠慮するけど」
そう言って奈保美は笑顔を見せた。あの頃と同じ笑顔だった。
「そうだな。今までありがとう。そして迷惑を掛けてごめん」
「私こそ、今日はありがとう」
こうして、奈保美と俺は本当に別れ、本当の友人に戻った。
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