模倣騎士、26
ギルドを出て、湖畔の道を帰るミームカンパニーの一行。
街の向こうには、夕陽がオレンジ色のベールをかけていた。
「なんか……ちゃんと稼げるようになってきたな、俺たち」
照人が、少し誇らしげに呟いた。
「うん。まだまだ危なっかしいとこあるけど、前よりは手応えあるよな」
縁が背伸びをしながらしっかりと頷く。
「この調子なら、あと二、三日は余裕で探索いけそうだな。素材集め、ガッツリ狙おうぜ」
柊が管理ノートをパタンと閉じて、前を向く。
「装備も、もうちょっと良いの揃えたいしな」
赤坂がぼそっと呟き、
「うん! もっと稼いで、武器も強化したいし!」
アヤメが両手をグッと握る。
「なんか、ちょっとずつ“本物のパーティ”っぽくなってきたかもね~」
綾がからかうように言うと、
「ま、まだまだこれからだけど……!」
みつきが微笑み、つかさも小さくうなずく。
夕陽が差し込む静かな湖畔の道。
その柔らかな光の中で、八人はそれぞれ小さな期待と意気込みを胸に刻みながら、
次の冒険への一歩を踏み出していった――。
夕暮れの空が湖面をオレンジに染める中、ミームカンパニーの面々は、軽やかな足取りで湖畔の道を歩いていた。
素材も手応えも上々。自然と、みんなの表情も明るい。
そのとき――
「ん? あそこ……誰かいる」
赤坂が前方を指さす。
分かれ道の先、同じ制服のブレザーを羽織ったグループが、こちらへ向かって歩いてくる。
その数、七人。どこか貫禄のある雰囲気だ。
「あっ、あれって……先輩たちじゃない?」
みつきが少し緊張した声を出す。
「ほんとだ、《ブレイザークレスト》だ! 食堂であった先輩!」
綾もすぐに反応し、少し身構える。
先輩たちも照人たちに気づくと、にこやかに手を振ってきた。
「お疲れ。今日は探索だったのかい?」
先頭の男子が穏やかに声をかける。
「はい、今戻るところです! 先輩方も……?」
照人がすかさず返すと、
「うん。うちらも、そろそろ切り上げようかって。よかったら、一緒に戻ろうか」
自然な流れで、二つのグループは合流し、宿へと並んで歩き出す。
しばらく歩きながら、照人が昼間の一件について尋ねる。
「先輩たち、今日六区画にいました? 自分たち、進もうとしたら外部の探索者に止められて……」
「ああ、その話か。今週は外部クランがボスを狩ってるって噂だよ。
六区画はほぼ封鎖状態で、うちらも後輩から相談受けててさ」
「え、なにそれブラック……!独占とかありなんですか?」
綾がやや声を荒げる。
「明確なルールはないからね。強気に来る相手には、こっちも無理はしない。
ただ、君たちみたいな一年には特に強く出がちだよ」
先輩の一人が苦笑しながら肩をすくめる。
「制服着てると絡まれにくいけど、逆に“学園生の枠”に収めたい奴もいるしね」
「君たちみたいに、ピカピカの1年生には強気にでたんじゃないかな」別の先輩がにこやかに問いかける。
「なるほど……それで追い返されたのか」
縁が納得したように小さく頷いた。
「嫌な感じだったよね」
綾がムッとした様子で言うと、先輩が少し苦笑いする。
「まあ、あの辺りは“自分たちのエリア”みたいに主張する連中もいるからな。こっちが制服着てれば下手に絡んでこないけど、それでも関わると面倒なこともある」
「だから学校としては制服着用を推奨してるってわけか……」
「そういうわけだから、朝イチで突撃するのがベスト。早い者勝ちだよ」
「うん、困ったら俺たちのクラン名出していい。『ブレイザークレスト』って言えば、少なくとも変な揉め事は起きにくい」
「わ、ありがとうございます! 頼りにさせていただきます!」
照人が深く頭を下げると、
「先に通路に入っちゃえば、外部の人たちも口出しできないもんな」
「気にすんなって。一年でここってことは優秀な後輩だろ?、遠慮なく頼りなよ!」
先輩たちはにっこり笑う。
「それに、うちら2年でCランクだけど顔はちょっと広いからな!な、みんな!」
「イェーイ!」
後ろの先輩女子たちが、冗談めかしてピースサインを送る。
そんな和やかなやりとりの中、
「……明日は絶対、六区画行く!」
綾がそっと拳を握る。
照人たちは、ほんのりあたたかい“仲間と先輩”の空気に背中を押されながら、
灯りのともる街へと帰っていくのだった。
夕食を終えたホテルのロビーは、探索者たちが思い思いにくつろぐ、ほどよいざわめきに包まれていた。
カウンターで作戦ノートを広げる者、ソファでカードゲームを始めるグループ、その合間を縫うようにお土産袋を抱えた観光客――
“冒険の街の夜”が、ゆっくりと流れていく。
照人たちもひと息つき、ラウンジのソファに陣取っていた。
「……明日は朝イチで第六区画、だな」
照人が低い声で切り出すと、全員が揃ってうなずく。
「ぜっったい誰よりも先に突入しようね。あいつらにまた出し抜かれたらマジでシャクだし!」
綾が拳をぎゅっと握り、目をぎらり。
アヤメも「絶対!ぜーったい!」と力強くうなずき、ツインテがぶんぶん揺れる。
「でもさ、無理して寝不足とか本末転倒だよ?
今夜はサクッと寝よ。朝イチって“朝イチ集合”って意味だからね?」
縁がのんびりとした声でまとめに入ると、なんとなく張り詰めた空気がふっと和らぐ。
「そっ、そうだな!オレはちゃんと自力で起きるから!
見張りなんていらんし!」
柊がなぜか宣言モードで前のめりになると、
みつきと赤坂がひそひそ声で
「……あ、ちゃんと起きられる自信ないタイプだ」
「柊くん、起こした方がいいかもね……」
と、耳打ちしてクスクス。
「いや、聞こえてるから!?そんなんじゃないから!」
柊がムキになるのを見て、
「だいじょぶだいじょぶ、柊先輩の目覚ましは私がやるから!」
と、綾がなぜか自信満々で親指を立てていた。
照人も思わず笑ってしまい、
「ま、みんな揃ってスタートできるように、今夜はしっかり休もうぜ」
と声をかける。
ソファに座る仲間たちの表情には、期待と少しの不安――でも確かな連帯感が浮かんでいた。
「ねえ、六区画って中ボスいるんだよね?それ倒したら……午後は自由時間にしない?」
アヤメが、ぱっと目を輝かせて提案した。
「いいじゃん。それ、賛成。湖の外周とか、町のほうも気になるし」
つかさが珍しく積極的に声を上げる。
「確かに、せっかく遠征来てるんだしな。ダンジョンと宿の往復だけじゃもったいないよ」
照人も自然と笑みがこぼれる。
「やったー!観光観光ー!」
綾が両手を広げてぴょんと跳ねる。
「……ソフトクリーム食べたい」
みつきがぽそっと呟いて、アヤメが「それ超わかる!」と大きく頷く。
「じゃ、明日は六区画で全力出しきって、午後は全力で遊ぶ!これで決まり!」
照人がまとめると、皆がそれぞれの部屋の廊下へとぞろぞろ移動していく。
「じゃ、寝坊禁止な!明日が一番の山場だから」
照人が念を押し、
「夜更かしはダメだぞ、体力勝負の日なんだから」
縁がのんびりした声で続ける。
「……起こしてくれるよな?」
柊が弱気につぶやくと、
「柊くんは目覚まし三つセットだよ!」
みつきがすかさず突っ込み、笑いが弾ける。
「じゃ、おやすみー!」
「また明日ね!」
女子と男子、それぞれの部屋に消えていく仲間たち――
夜のホテルの廊下に、静かな決意と、ほんの少しのワクワクが滲んでいた。
そして翌朝――
いよいよ、幻想の湖・最深部【第六区画】へ。
中ボス攻略戦、そして仲間たちだけの“小さな冒険のごほうび”が待っている――
まだ空がほんのり紫色を帯びた頃――。
湖畔のダンジョン入口には、制服の上着を羽織った照人たちが、吐く息を白くしながら集まっていた。
「よし、全員そろったな。行くぞ、第六区画、誰よりも先に!」
照人が小声で号令をかけると、仲間たちは眠そうな顔で頷き合う。
「ダッシュで抜けきれば、他のパーティより絶対早い。最短ルート、頼んだぞ」
柊がタブレットの地図を素早く指でなぞり、確認する。
「えー、まだ朝ごはん食べてない……」
綾が欠伸を噛み殺しながら言うと、
「ゴールしたら、パン買いに行こうよ!」
アヤメが元気に笑って、綾の背中をぱしっと叩いた。
「……わたし、星苔で滑らないように気をつけるね……」
みつきが小さく呟くと、
「大丈夫、もし滑ってもまた素材ゲットできるかもよ?」
アヤメが肩を組み、みつきも思わずふっと笑う。
「早朝って、空気澄んでるよな」
縁が大きく伸びをして、ダンジョンへの道を見やる。
灯りの浜辺――揺らぎの水鏡――星落ちの泉――灯火の浮橋。
何度も通った場所も、今朝は空気が違って見えた。
小走りで進むたび、足音が水面に静かに響き、誰もいない静けさが逆に背中を押してくれる。
「まだ、誰もいないな……!」
赤坂が振り返りながら小声で報告し、
つかさは立ち止まってそっと風を読む。
「西風。入り口方向にも、人の気配なし」
頼もしい声に、仲間たちの顔が引き締まる。
「よし、今だ――!」
照人の掛け声とともに、パーティは第六区画を目指し、駆け抜けていく――!
【第六区画:夜の中央庭(ナイトコア)】
浮島の中心――最後の浮橋を渡り切った瞬間、空気が一変する。
一同の前に広がったのは、星降る夜の庭園。
湖のど真ん中に、まるで“夢の中”を現実にしたような静謐な景色が広がっていた。
高く抜けた空には、無数の星が淡く瞬き、
水面の下にも、星灯りが降り注いでいる。
ひとつ踏み出すごとに、光の粒子が足元からふわりと舞い上がり、
全身が幻想のきらめきに包まれていく。
「……ほんと、綺麗……」
みつきがぽつりと息を呑む。
その横で、綾が思わず手を伸ばし――
「これ、全部……星のかけら?」
指先に光の粒がふれて、そっと消えた。
祭壇が佇む中央――
静かに佇む“灯の祭壇”の前に、ただならぬ気配。
そこに立つのは、光の甲冑をまとった巨大な影――
「星燈の守人」。
無言でこちらを見据え、甲冑の隙間から星光がゆらりと漏れた。
祭壇の灯が、じりじりと強く輝き始める。
「……来る!」
照人が前に出て、全員に目配せする。
「全員、準備――できてるな?」
「いつでも! 今度こそ、うちらが最初の突破組だし!」
綾がツインテを弾ませてニヤリと笑う。
「落ち着いていこう。まずは様子見……」
柊が眼鏡を押さえて周囲を睨む。
「詠唱、すぐ入れるよ!」
アヤメが杖を握りしめ、気合十分。
「うん……がんばろ!」
みつきが小さく頷き、
つかさはそっと空気の流れを読む。
「俺も、盾は任せとけ」
縁が一歩前へ出て、守る構えをとった。
「……じゃあ、行こうか――!」
照人の合図と共に、星灯の庭に戦いの幕が下りる。
幻想と現実が重なる場所で、
ミームカンパニーの最初の大一番が、今始まる――!
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