遊び人、の冒険はまだまだ続く
「おーい、照人!やったなー!」
控室に戻る途中、仲間たちが駆け寄ってきた。
真っ先に声を上げたのは、いつもの太田だった。ぽてぽてと走ってきて、照人に勢いよく抱きつく。
「うわっ、ちょ、重い!」
「ごめん、でもさ、すごかったよ!なんか、こう……全部が“照人らしかった”!」
その後ろから、佐藤や赤坂、彩もやってくる。
「最後の光のやつ、あれ何?必殺技みたいだったけど……本当に魔法じゃないの?」
「むしろ、それっぽさを極めただけです。……というかあの音、選んだの誰よ」
照人は自分の剣を見下ろして苦笑した。
「ポヨォン!はずるいって……」
彩がぷっと吹き出す。
「笑ったけど、でも、観客の空気掴んでたよ。あんた、やっぱ舞台向きだわ」
赤坂は腕を組んで小さく頷く。
「一瞬で空気持ってったのは事実だな。あれ、風間も完全に意識持ってかれてた。まさに“演出で勝った”って感じだ」
「いや……あの一撃、手元、震えたんだ。風間の剣に、ヒビ入ったの、ちゃんと見えた」
佐藤は真顔で言う。「運だけじゃない。狙ってたんでしょ?」
「ま、ね」
照人は肩をすくめる。
そのとき、遠巻きに聞こえるざわめき。通路の端に、見知らぬ他学科の生徒たちが群れていた。
「あれが照人ってやつ?」「遊び人上がりだろ?」「でもあの戦い方、普通にありじゃね?」
「演出?面白すぎ」「魔法剣士より目立ってたな」「あれが……ミームナイト?」
一部は小声で、でも確実にその名を口にしていた。
「……聞こえてるぞー」
照人がぼそっと呟くと、仲間たちもニヤニヤと笑う。
太田が肩を組みながら言う。
「なー、もう誰も“遊び人”って笑えないだろ、これ」
照人はその言葉に答えず、少しだけ空を見上げた。
「……なんかさ。ちょっと、報われた気がしたよ」
それは、嘘のようで本音だった。
照人はゆっくりと歩き出す。仲間たちも、それに続くように歩き出した。
午後の陽が傾く頃、模擬戦の全日程が終了した。
ざわついていた演習場も、今は穏やかな静けさに包まれている。
整列する生徒たちの前に、戦士科主任の教官が立った。
深く日焼けした肌と太い腕、そして凛とした声が、夕暮れの空気を貫いた。
「――以上をもって、本模擬戦を終了とする」
その一言に、自然と生徒たちの背筋が伸びる。
戦士科、魔術科、斥候科、衛生科、支援科。
各科の生徒たちの顔には、疲労とともに確かな充足が宿っていた。
「まずは、全員に言っておく。よく戦った。まだ初期職のままの者も、派生職へ進んだ者も、それぞれが今持てる力を尽くして戦った。すべてが、お前たちの財産だ」
静かに、しかし確実に、その言葉が生徒たちの胸に届いていく。
「初期職でありながら、上位職の者と互角に渡り合った者もいた。逆に、職の力に頼りきりになって崩れた者もいる。職業とは、力であると同時に責任だ。使いこなすのはお前たち自身だ」
そこに、支援科の教官がふわりと口を挟む。
「ふふ、私からも。支援や衛生職の子たち、よく周囲を見て動けていました。今回は裏方で目立たないながらも、よく参加者を支えていたわ。戦闘以外でも、必要とされる瞬間はたくさんある。それを忘れずにね」
魔術科の女教官が腕を組んで言う。
「魔術師系統の子たちは、射程とタイミングの調整に苦労していたわね。でも、あと一歩で形になる子もいた。精度を高めていけば、戦い方は格段に洗練されていくはずよ」
そして、最後に斥候科の教官が、少しぼそっと言った。
「…………足の使い方、目線の配り方、よく仕上げてきた子もいた。上級生よりよかった子もいたな。ま、派手さはないが……必要だ」
生徒たちの中から笑いが漏れ、場の空気が和らいだ。
主任教官が一歩前に出る。
「ここからが、本当の訓練の始まりだ。職業とは、名札ではない。背負うものだ。そして、成長とは“変わること”ではなく、“積み重ねること”だ。お前たちの今は、全て次に繋がる」
その言葉に、照人もまた静かに頷いた。
(……うん、積み重ねる。俺のやり方で)
「そして――明日からは、夏休みだ」
その一言に、生徒たちの肩が一斉に揺れる。
「どう過ごすかは、自分次第だ。遊んでもいい。鍛えてもいい。だが、“なにもしない”はするな。何を得るか、何を失うか。それは、お前たちの選択にかかっている」
さらに、口調を少しくだけさせる。
「なお、明日からは上級生による《クラン勧誘》が始まる。興味のある者は、自分の足で見に行け。“選ばれる”ことを待っているだけでは、何も始まらんぞ」
その言葉に、照人はふっと目を細める。
――選ばれるのを待つつもりはない。
自分から選び、自分で作る。すでにその準備は、始まっていた。
生徒たちの表情も、静かに引き締まる。
「では、各科に戻れ。今日の学びを糧に、次の一歩を踏み出せ」
閉会の鐘が、遠くで鳴り響く。
どこからともなく拍手が起こり、それが次第に大きく、温かくなっていく。
ひとつの青春の第一章が――今、模擬戦の終わりと共に、静かに幕を閉じた。
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ここまでで一章は完結です。
評価頂けるのであれば、この先も投稿していこうと思います。
6月の頭時点で2章終盤まで書いているのですが
投稿続けるか迷い中ですね。
高評価やこの先見たい方がいれば投稿していきます。
なければ次の作品を書いていきます。
対ありでした。
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