第2話 異世界のお家は素敵です!



『エリアス! どうちたの? こんな所まで来て何かあったんでちか?』

 

 現れたのは、白のジャンプスーツ姿の少年だった。

 妖精ポポはピュウとそちらに飛んで行ってしまう。


 その人物はポポを肩に乗せ、こちらに近寄って来た。


「えっと、あの、その――」


 それにしても目鼻立ちの出来上がった子だ。色白の肌とプラチナブロンド、緑の瞳。そのどれもが彼という個体を際立たせている。

 まだ小さいのに末恐ろしい子! 私は無駄にドギマギとしてしまい、思わず口元を押さえていた。

 

 うん、色々垂れてた。


『エリアス、あまり近寄らないで。ソレ、悪い子なんでちよ。この森の木々や草花を荒らちたのもきっとソレなのよ! まったく許せないでち!』


「……」


 ソレって言われた。ううん、でもいいの。今はそれよりも、ティッシュ下さい。


『えっ! ちょっとエリアス! ダメだったら!』


 ぺたんと地面に座り込んでいた私の目と鼻の先に、少年は屈んだ。透き通る翡翠色の瞳は見慣れなくて、怖いを通り越してまるで吸い込まれてしまいそう。


 すると少年はさらに私に顔を近付けて来た。海外のチークキスみたいにされて、全身が固まってしまう。

 

 えーっと、その頷きは何を意味しているのかな?

 どこをどうしてこうなったのか、ここが何処なのか、彼らは何者なのか。


 あれよあれよ。そのままエリアスに手を引かれ、私は歩き出していた。 

 何も判らないままされるがままに、すっかり緩んだ鼻から鼻水が流れるままに。




 鬱蒼とする森の中を数分歩くと視界が開けた。

 草は短く刈られ、地面は人の手が入った舗道に変化する。チェック模様のクッキーみたいに続くレンガ道の先には、こじんまりした平屋が立っていた。

 木造とレンガが入り混じった建築物は、なんと煙突まである。森の中というシチュエーションと相まった外観は素晴らしくファンタジックで素敵だ。


「わぁ、可愛い!」


『もう~、エリアスったら、悪人をあたち達の家にまで連れて来るなんて、一体どうしちゃったでちか……』


 そして出会った、恐らくは異界の住人。

 愛らしい妖精に、何故かしょっぱなからさげすまれた目で見られてはいるけれど。


「私はそんなことしてないもん」


『それはこれから証明してもらうでちから! この家に入れるのも、エリアスが言うから仕方なく許可しただけでち! プイッ!』


 ポポにそっぽを向かれたものの、エリアスに続いて私も家の中へと足を踏み入れる。


 中は十畳ほどの広さがあった。

 私達の世界で言う所のリビングダイニング。


 自然が描き出した木目の美しい一枚板の広いテーブルが、部屋の中央にででんと置かれている。ポポに促されるまま椅子に座らされた私はキョロキョロ。


 だって、どれもとっても素敵だったの。


 東と南側にある窓には模様の入ったガラスが使われていたり、室内に幾つも置かれているランプはどれも、お高いアンティークショップで売っている商品みたい。


 そして注目すべきは、入って右手側に在るキッチンだ。

 石造りの釜戸二つを目にした時は「すごい!」と思わず声を上げてしまった。


『何が「すごい」なんでちか。さっきから鼻水を垂らしたり、落ち着かない子でちね』


 うう……。涙と鼻水は不可抗力だもん。プイッ!


 と思いつつも、ポポに何か言おうものなら、よりいっそうややこしくなりそうだったので私はとりあえず言葉を飲み込んだ。


『フフン。ようやく大人ちくなったでちね』


 ポポはテーブルの上に降り立って、仁王立ちポーズで私を見ている。


 私、一体何をされるんだろう。

 確かポポは『証明』とかなんとか言っていたかしら?


 ちなみにエリアスは、私から離れ窓際のソファーに座っていた。

 何をするでもなく俯いている。不思議な子だ。


 あ、もしかして具合でも悪かったのかな?


『おいでなのでち! わたちの可愛いお友達!』


「へっ? わっ、キャ!」


 ポポンッ!


 開口一番。ポポの手が光ったと思ったら、何と目の前のテーブルの上にティッシュ箱くらいの大きさの鉢植えが現れた。


 ウニョウニョ蠢いている花々は赤、黄、緑。まるで信号機みたい。

 するとその植物の花弁部分が持ち上がり、開いていく。


「えええっ! なっ、何これ!」


 なんと花には目と口が付いている。周囲を確かめる様に眼球を動かしていた花々は、椅子に座る私に気付いたようだった。


赤『アアン? 見掛けねぇ顔だなぁ、姉ちゃん』


黄『アラアラ~! わたくしウキウキして来ちゃったわ!』


緑『ん~? まだ眠~い。帰りた~い』


 今来たとこじゃんというツッコミはさておき。

 なんだろう。花弁の色と表情が何となくマッチしているような?


赤『ミドリンお前、さっきまで延々と寝てたじゃねぇか、フザケンナァッ!』


緑『え~? レッドゾンさん、う~るさい~~。だってゆっくりしたいんだもん』


黄『わたくしはレモネードゥと申します。可愛らしいお嬢さんだこと。わたくしダンゼン楽しくなってきちゃいましたわ! オーホッホッホッホ!』



「……」


 えっと、これは喜怒哀楽的な? 喋る花。可愛いような、そうでないような?

 

『フフン。驚いたようでちね』


 ポポは相変わらず仁王立ちのポーズでこちらを見ていた。

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